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2017年6月16日 (金)

【働き方を変え、生産性を向上させる:2】コンセプチュアルスキル

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Conceptual2

◆マネジメントとコンセプチュアルスキル

第1回はリーダーシップの問題を取り上げましたが、日本人がチーム全員がリーダーシップをとるのが苦手な一つの理由はコンセプチュアルスキルが低いことにあるのではないかと思われます。第2回はこのような観点から、コンセプチュアルスキルについて考えてみます。

コンセプチュアルスキルというと上級管理職に必要なスキルだと考えられていますが、これはちょっと要注意です。ロバーツ・カッツがコンセプチュアルスキルを提唱したのは1950年前後ですが、実はピーター・ドラッカーによりマネジメントの概念が提唱される前なのです。

ドラッカーのマネジメントは、管理、リーダーシップ、経営を統合したものです。これに対してカッツが示したコンセプチュアルスキルは、管理や経営に個別に必要なスキルでした。もちろん、ドラッカーのいうマネジメントにコンセプチュアルスキルは不可欠です。というよりは、コンセプチュアルスキルがマネジメントを創るといってもよいかもしれません。

◆知識労働とコンセプチュアルスキル

さらに重要なことは、その後、ドラッカーの指摘した知識労働者(ナレッジワーカー)の時代になっていることです。そして、21世紀に飛躍する企業の条件として、知識労働とサービス労働の生産性の飛躍を上げています。

その理由としているのが、もはや製造業やモノづくりにおいては生産性の向上が大きな要因にならない現実を上げています。

これは、カッツがコンセプチュアルスキルを提唱した時代とは明らかに異なる組織のモデルを前提としています。カッツのコンセプチュアルスキルは、製造業を前提にしたものです。つまり、リーダー(管理者や経営者)がいて、リーダーの指揮のもとに従業員が働くという組織のモデルの中でリーダに必要なスキルとしてコンセプチュアルスキルを考えています。

そのため、リーダーシップはヒューマンスキルの問題だと考えられることが多いですが、知識労働においてはこれだけでは不十分です。前回、お話しましたように、全員がリーダーシップを発揮する必要があります。

リーダーシップを発揮するためには、全体が見えていることが不可欠です。全体が見えて初めてリーダーとしてすべきことが分かり、その中で自分のできることをやっていくといくことができます。

この前提が、知識労働者たるチームの全員がリーダーシップをとるための前提なのです。


◆コンセプチュアルスキルと生産性

では、この議論と生産性にどのような関係があるのでしょうか?

生産性を上げるためには、まず全体が見えていることが不可欠です。言い換えると、企業や組織のビジョンや目指すもの、方向性などが明確でないと、メンバーが生産性について考えるのは非常に難しいものがあります。

例えば、事業部のプロジェクトであれば事業部全体、部のプロジェクトであれば部全体がどのような方向を向いており、どのような方針や慣習をもって仕事をしようとしているかを知って初めて生産性を向上するためにプロジェクトチームの一人一人が自分のすべきことを考えることができます。

この点において生産性を高めるためにはチームの全員がコンセプチュアルスキルが十分なことが必要なのです。欧米ではチームのリーダーシップはメンバーのリーダーシップの総和だと言われていますが、チームの生産性はメンバーのコンセプチュアルスキルの総和だといってもよいかもしれません。

このようにコンセプチュアルスキルは組織が全体として目指しているものを理解し、そこにコミットするために不可欠ですが、生産性との関係でいえばほかにも重要な視点があります。


◆生産性の向上には抽象的な思考が不可欠

中でも重要なのが抽象化思考に関するものです。

生産性を上げるには手段として無駄なことをしないというのが重要であることは間違いありません(繰り返しいいますが、ここから入っても徒労に終わるでしょう)。そのためには、自分の仕事を抽象化して整理することが不可欠です。具象のレベルで仕事の整理をすることは段取りには有効ですが、段取りの効果以上に生産性が向上することはないでしょう。

例えば、会議の際に資料を事前に配布しておくという考え方があります。ところがこの方策によって生産性が上がるかというとそうでもありません。いろいろな理由が考えられます。確かに会議中の説明の時間は減らすことができるかもしれませんが、生産性の向上は会議の成果(例えばアイデアを生み出す)を生み出すことによってのみ達成できます。時間が減っても、成果が下がれば何の意味もありません。

つまり、なぜ時間を減らすことが必要なのか、時間を減らすことの本質は何で、その本質を実現するにはどうすればよいかがもんだいなのです。

このように生産性の向上は本質的に抽象レベルの問題解決だと考えるべきです。


◆生産性を上げるアプローチ

生産性を上げるには

・同じ成果を短時間で得る
・同じ時間でより多くの成果を得る

のいずれかの方法があります。モノづくりにおける生産性の向上は前者を中心に行われてきましたので、それに引っ張られ、知識労働においても生産性の向上を前者のアプローチで行おうとしているケースが多いようです。しかし、実際には後者の方が現実的だと思われます。

そして、後者をうまく行うためにはコンセプチュアルスキルが不可欠だということを認識しておく必要があります。このあたりの議論はこちらの記事をお読みください。

【PMスタイル考】第101話:創造性と生産性の不思議な関係
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2015/06/101-27da.html


◆参考資料
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)

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