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2014年6月 3日 (火)

【プロデューサーの本棚】クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方

4484141027_2ショーン・エイブラハムソン、ピーター・ライダー、バスティアン・ウンターベルグ(須川綾子訳)「クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方」、阪急コミュニケーションズ(2014)

クラウドソーシング(特定の仕事を成し遂げるために組織が不特定多数の人々と協働すること)が普及していく中で、クラウドソーシングとブレインストーミングの考え方を併せた「クラウドストーミング」というコンセプトの活動がオープンイノベーションの手法として注目されている。

本書はクラウドソーシングを豊富な例を取り上げながら、ライフサイクルに沿ってポイントを解説している。おそらく、クラウドソーシングを体系的に解説した本邦初めての本。オープンイノベーションの取り組んでいる人、これから取り組みたい人にはお薦めの一冊だ。

クラウドストーミングの代表的な成功例としてまず、3つの事例を紹介している。

・ゴールドコープの鉱脈の掘り当て
・レゴ・マインドストーム
・スターバックスのベータカップ・チャレンジ

ゴールドコープの例はゴールドコープが持つ鉱山の地質データをデジタル化し、公開し、鉱脈を掘り当てるように呼びかけ、575万5000ドルの賞金を懸けた。優れたアイデアが出てきて、鉱脈の探査期間が2~3年短縮された。

レゴでは、マインドストームの第2弾を開発するにあたって、製品に関するアイデアを求めたところ、熱狂的なファンから1万件以上のアイデアが寄せられた。徐々に形を作っていき、レゴとアイデア提供者で利益を分かち合う方法を確立した。

ベータカップ・チャレンジは、使い捨てカップの削減をするチャレンジで、2万ドルの賞金が提示された。審査は専門家とコミュニティが行い、430件のアイデアと5000件のコメント、1万3千件の評価がよせられた。

これらの大企業の事例以外にトリプルエイトというアクションスポーツのプロアスリート向けの防具類を販売している会社が行ったスケートボードのヘルメットを外部のクリエイターに依頼し、利益を分かち合った例を紹介している。

このようにクラウドストーミングは企業の規模の関わらず、行われるようになっている。

本書で考えているクラウドストーミングのライフサイクルは計画→組織作り→実行→再考というもので、それぞれに以下のような活動がポイントになる。

(1)計画
・知的財産、機密保護、ブランド戦略
・適切な問いかけ
・クラウドを動機づける公正なインセンティブ
(2)組織作り
・パートナーシップの構築
・参加者の募集
・適切なオンライン空間の選択
(3)実行
・最善の成果を得るためのコミュニティ管理
・参加者の貢献度の把握
・膨大なアイデアの選別

本書はこれらについて、さまざまな事例を取り上げて、どのようにすればうまく行くかを検討している。検討のポイントは以下のようなものである。

・クラウドストーミングの利益と法律上の問題、機密保護、ブランド戦略の均衡点をどこに置くか
・参加者にどのような問いかけを行うか
・如何にして参加を促し、どのような報酬を提供するか
・優れた成果に結びつくパートナーシップの在り方
・最良の人材を招き入れる方法
・参加者をどのように組織するか
・どのような尺度で成果を評価するか
・コミュニティの管理と方向づけ
・プロジェクトを技術的に支援するツール

これらの検討事項について1ポイント1章割り当てている。

この中で本質的だと思うポイントはインセンティブと人材、コミュニティ管理である。まず、インセンティブについては本書では

・善行
・注目
・金銭
・経験

の4つとして、それぞれについてどのようなインセンティブが可能かを検討している。

人材については募集形態として

・サーチ型:専門人材
・協調型:アイデア提供者とサポート人材
・統合型:ビジネス展開まで行う人材

と分けて、必要な範囲の人材を募集するのがよいとしている。

さらにコミュニティ管理では管理者の8つの役割を示している。

・モニタリング
・サポート
・コミュニティの代弁
・価値の交換
・制裁
・集団的選択
・メンバーシップ
・多層化

また、これらの役割の中で、参加者の貢献度の評価とアイデアの評価をどのように行うかを検討している。

日本と比較すると米国ではクラウドソーシングの成功事例が圧倒的に多く、オープンイノベーションが進んでいる。日本が閉鎖的なのだと思っていたが、この本を読んで認識が変わった。クラウドソーシングには相当強力なマネジメントが必要で、そのマネジメント力がないだけなのではないかと思う。

本書はクラウドソーシングを実践するために十分な情報とノウハウ、事例を与えてくれる。また、オープンイノベーション自体の事例集にもなっているので、オープンイノベーションのイメージを作るためにも役立つ本だ。

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