【PMスタイル考】第75話:女性的リーダーシップの時代
◆「男性的価値感はもう通用しない」
最近、米国で話題になっている一冊の本が翻訳されました。「テルマエ・ロマエ」で知られるグローバルな漫画家ヤマザキマリさんの素敵な表紙の「女神的リーダーシップ」という本で、原題は「THE ATHENA DOCTRINE」というタイトルです。
ATHENAはアテネの守護神で、知恵・芸術・学芸・戦争などの女神です。ATHENAのドクトリン、つまり教義という意味のタイトルです。この本は、世界中のGDPの65%を占める13か国でその人口構成を反映する6万4千人という大規模な調査を行い、生まれた発見を書いた本です。そこには日本や米国も含まれていますし、フランスやイギリス、中国やブラジルなども入っています。
その結果は衝撃的で
「男性的価値感はもう通用しない」
というものです。数字でいえば、
「男性が女性のような発想をしたら世界が好ましい方向に変わる」
と考えている人が、全体で66%、日本だけに限れば79%に上るというものです。この結論は125のリーダーの資質をグローバルサンプルの半数である3万2千人に女性的、男性的、どちらでもないに分けて貰い、次にその属性を示さずに、残りの半数に重要性を聞き、それを突き合わせて出てきた結果です。
◆重要だと考えられる女性的リーダーの資質
この結果によると、理想的なリーダーに必要な資質の多くは女性的だとみなされているのです。たとえば、
計画性
表現力
合理性
柔軟
忠実
忍耐強い
などです。
男性的な資質だとみなされ、重要性が高いと考えられている資質には
決断力
逆境に強い
分析的
自立的
積極的
と いったものがあります。確かに、女性的な男性的なという区別、重要性は納得ができる結果ですね。詳しいことを知りたい方は記事の最後に参考文献に挙げてい ますので、本を読んでみてください。本では、統計的データ以外に各国のエスノグラフィーが掲載されています。これがこの本のメインで、実に興味深いです。
◆女性が男性的リーダーシップを身につける意味はない
さて、日本でも女性活用が盛んに言われています。PMスタイル考でも第69話で、
【PMスタイル考】第69話:女性活用問題について考える
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2013/07/post-4a19.html
という記事を書いてみましたので、よろしければ読んでみてください。
政 策としての目的は労働力の確保と世帯の収入の増大ですが、問題は企業側の目的で、タテマエをとしては多様性の確保だと言われています。確かに、女性と男性 は生物学的な違いもありますし、一般的には生活の仕方や家族の中での役割も違うことが多いと思います。その意味で、職場やチームに女性が入るだけで多様性 が出てくることは間違いないと思いますが、この調査の結果を見ていると、もう少し本質的な意味があるように思えています。
少なくともこれまで女性は出世するためには男性的な資質を身につけることを求められていたように思いますが、この結果を見るとそのような態度はむしろ企業にとってはマイナスであることが分かります。
さ らにいえば、女性が男性のロールモデルになる時代が来ているのではないかと思われます。もちろん、女性がすべて女性的なリーダーの資質を備えているわけで はありませんので、すべての女性がロールモデルになるとは思いませんが、もう少し女性的な資質を前面に出して仕事をし、それがロールモデルになると思われ ます。
◆男性は女性的リーダーの資質を身につける
では、男性はこの調査の結果をどう受け止めればよいのでしょうか?挙げられている資質を見ると、面白いことが分かります。上位の3つを見ると
計画性
表現力
合理性
と並んでいます(有用性の上位で、この調査結果には有用性以外に女性的、男性的の程度の軸があります)。これは、日本人は資質が低いと散々言われていることですし、この3つが女性の方が資質が高いというのも納得できます。
問題はなぜ、このような特性が出てくるかで、やはり、女性の立場と無関係ではないように思います。男性社会の中で、自分が納得のいく仕事をするには、この3つは不可欠なのではないかと思います。逆にいえば、男性は男性社会に甘えてこの3つをおろそかにしていると言えます。
現実問題として表面的にいろいろな取り組みをして男性社会を守ろうとすると、グローバルなビジネスがうまく行かないという壁に当たっています。この3つの資質を身につけることがグローバルビジネスをうまくやる近道だということにそろそろ気づくべきですね。
【参考文献】
ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ(ヤマザキマリイラスト, 有賀裕子訳)「女神的リーダーシップ 世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である」、プレジデント社(2013)
コメント