【プロデューサーの本棚】イノベーションの神話
スコット・バークン(村上雅章訳)「イノベーションの神話」、オライリー・ジャパン(2007)
イノベーションプロジェクトのマネジメントの勉強をするのに何か一冊、本を選ぶとすれば、文句なしに、「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」を選ぶ。
こんな内容の本だ。
スコット・バークン(村上 雅章訳)「アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法」、オライリー・ジャパン(2006)
今回紹介するのは、この本の著者であるスコット・バークンが独特の視点でイノベーションの陰に隠れた真実を引き出そうとした一冊。
改めて読んでみると、非常に的確なイノベーション観であり、「今、読むべきイノベーション書のナンバーワン」ではないかと思ったので、改めて紹介することにした。どのような形にしろ、イノベーションに関わっている人にはぜひ読んで欲しい。
スコット・バークンがこの本を書いた目的は、
神話の正体を暴く(現実を知らしめる)ことにより、イノベーションがどのように生み出されるかを明確にし、読者自身が自分の世界を理解し、イノベーションの際に過ちを犯さないようにすること
だ。このために、この本で著者は
(1)イノベーションにまつわる神話を洗い出す
(2)なぜそれが有名になっているかを解説する
(3)真実という観点からそれを探求し、教訓とする
の3つの作業を行ない、10の神話をとりあげ、その正体を暴いている。
神話として俎上に上げているのは
(1)イノベーションはひらめきである
(2)私たちはイノベーションの歴史を理解している
(3)イノベーションを生み出す方法が存在する
(4)人は新しいアイディアを好む
(5)イノベーションの発案者はたった一人である
(6)優れたアイディアは見つけづらい
(7)上司はイノベーションについてあなたより詳しい
(8)最も優れたアイディアが生き残る
(9)解決策こそが重要である
(10)イノベーションは常に良いものをもたらす
の10個。これをニュートンからグーグルまで引っ張り出してきた「小話」で説明し、また、反例を上げている。
この本に対して、最初に読んだときに、僕は以下のような感想を書いている。
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「アー ト・オブ・プロジェクトマネジメント」ほど面白いとは思わなかった。何が違うのかなと思って考えてみたが、結局、このアンチテーゼの元になっている神話そ のものが誰もが信じていることだけではないということに尽きるのだろう。僕の場合でいえば、このうちの8つくらいは反例を思いつくような神話だ。
その点は差し引いても、相変わらずアンチテーゼの視点や事例引用は鮮やかであるので、読んでいて刺激を受けることは間違いないし、イノベーション読本としては、間違いなく一級品である。
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今、 改めて読んでみると、この10個は多くのイノベーターが信じている神話だと思う。
興味深いには、いま、巷にあふれるイノベーションの本の中で、あまり指摘 されていないことがある。それは、(2)の私たちはイノベーションの歴史を理解しているとか、(9)の解決策こそが重要であるとかだ。
中でも興味深い指摘は、(10)のイノベーションは常に良いものをもたらすという神話だ。これは今、イノベーターがもっとも考えられなくてはならない問題である。
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