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2013年8月19日 (月)

【コンセプチュアルスタイル考】第3話:創造的問題解決とコンセプチュアルスキル

Mondai1◆はじめに

前回はコンセプチュアルスキルについてイメージを掴んで戴くために、概念化するとはどういうことかについて考えてみました。今回はもう少しイメージを明確にするために、問題解決のケースを使って、コンセプチュアルスキルの役割について考えてみることにします。

【ケース】
京都で帆布製バックを製造販売しているA社は観光客を中心に人気があり、80%の売り上げが観光客だった。

ある日、社長が「わが社もインターネットに直販サイトを作り、京都に来たときに買ってくれる人以外にも広く商品を使って貰いたい」と言い出した。そこで営業マネジャーのMさんは異業種交流会の活動でよく知っているウェブデザインを手がけるS社の社長に相談した。しかし、S社の見積もりはA社で考えている予算の倍で、他を探しても予算内では納まらないと思うよと言われた。

途方にくれたMさんはいろいろと考えを巡らせ、結局のところ、社長は何をしたいんだろうと考えてみたところ、直販サイトは思い付きで、「A社のバッグを良さを知って、貰って観光客以外の人にもバックを売ること」だという結論に至った。さらに、Mさんは考えた。本当に観光客以外でなくてはならないのか?京都の観光客数を考えると、A社のバックを購入している観光客は2万人に1人にすぎない。まだまだ、開拓の余地がある。ならば、観光客にも売ればよいと考え、自分の解決すべき問題は「A社のバッグの良さを知って貰って売る仕組み作り」だと決めた。そう考えると、インターネット通販に拘る必要はないし、インターネットを使わないクチコミというのも考えられる。そんな想像をめぐらしているうちになんとかなりそうな気がしてきた。



◆マネジャーの宿命

組織の中では、ケースのような状況に直面することが少なくありません。経営トップ(大企業であれば担当役員)が何かを思い付きでやりたいと言い出しましたが、それは何らかの理由で実現性がないというケースです。

このケースの場合であれば、「インターネット直販サイトを構築し、観光客として京都に来ない人にも自社のバッグの良さを知って貰った上で販売したい」と言い出したわけですが、予算の問題で実現性がありません。マネジャーはそれを収拾しなくてはならない運命にあります。

このようなときに、可能な予算でできるベンダーを探そうとか、可能な予算の中でできる範囲に収めようとかすることが多いと思いますが、関係者全員が満足するような成果 は出すことができません。そして終わったあとで振返ると、うまく行かなかったのは、社長との予算交渉やベンダーとの価格交渉の仕方が悪かったからだとか、うまくコミュ ニケーションが取れていなかったからだとか反省し、次はうまくやろうと交渉やコミュニケーションスキルのトレーニングに励むわけです。

しかし、問 題の立て方に難があるのですから、これではまた、同じような状況に陥ると同じ失敗を繰り返すことになります。ケースでいえば直販用のウェブサイトを作るという社長のお題を問題とし て考えている限り、サイトの仕様や予算をどうするかという問題でしかありません。当然、現実性の問題があるので交渉やコミュニケーションのスキルでできる範囲には限界があります。


◆「できる」マネジャーは問題の本質を考える

さで、では「できる」マネジャーはこんな場合どうするのでしょうか。彼らは「問題の本質」はどこにあるかと考えます。

ケー スの場合であれば社長が本当に望んでいるものは何かということです。Mさんは社長の「インターネット通販をやりたい」という発言の本質を「自社の商品の良さ を伝える」、「観光客以外に販売する」の2つだと考え、問題を「A社のバッグを、良さを知って貰って観光客以外の人にもバックを売ること」だと考えました。

そこからさらに本質を追求し、観光客は本質ではないという結論に至り、「A社のバッグの良さを知って貰って売ること」をこのプロジェクトのコンセプトとしました。


◆コンセプトが選択肢を広げる

このようなコンセプトのプロジェクトにすれば、通販サイトを構築することは一つの選択肢にすぎなくなり、予算の問題を解決できるアイデアが見つかる可能性が大きくなります。

さ らに、「良さを知ってもらう」、「販売する」ことに関して、インターネット通販よりよい方法が見つかり、予算をもっと効果的に使える可能性もあります。たとえば、観光客がもっと足を運んでくるように情報発信することもできますし、来店した観光客に京都ならではのエクスペリエンスを提供するのもよいでしょう。エクスペリエ ンスという視点からは、ネット上はコミュニティサイトだけでもよいかもしれない、などと発想は広がっていきます。


◆抽象化で問題の制約を回避する

ケースで起こっていることを別の角度から考えてみましょう。

「イ ンターネット通販サイトを構築し、観光客として京都に来ない人にも自社のバッグの良さを知って貰った上で販売する」という問題は極めて具体的な問題です。上に述べたように、仕様やコストなどに工夫の余地はあるかもしれませんが、さほど大きな幅はありません。具体的な問題だからです。具体的な問題には画一的とはいかないまでも答えがありますが、逆にいえば、ケースのように答えがない、つまり不可能なことも多いことを認識しておく必要があります。

そこでMさんは問題を抽象化してみました。そして立てた問題が「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題です。この問題には、最初の問題よりははるかに答えが多いことは容易に想像できると思います。


◆抽象化して想像力を働かせる

もっと重要なことは、「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題にすると、答えに想像力を働かせることができることです。

たとえば、「インターネット通販サイトを構築する」という問題に対して、「好きなバッグを貸出し、良さを知ってもらう」というアイデアは出しにくいものです。サイト構築と何の関係があるのか分からないからです。

ところが、「A社のバッグの良さを知って貰って売る」という問題にすれば、このアイデアを出すことには抵抗がありません。

このように抽象化することにより、それを実現する具体的なアイデアの幅が格段に広くなります。これが、問題解決における抽象化の効果であり、現場の人が抽象化を 嫌う理由でもあります。しかし、ここから窮地を救うアイデアが出てくることもあれば、イノベーションのネタになるアイデアが出てくることもあることを忘れてはいけません。


◆創造的問題解決とコンセプチュアルスキル

以上述べてきましたように、直面した問題の答えを見つけるのが難しい場合には、抽象化して考えてみると答えが見つかることが多いのです。また、抽象化し、構造的、概念的に捉えることによって、問題の捉え方を変えることができます。

「イ ンターネット通販サイトの構築」であれば、せいぜいユーザ視点からの仕様にするという程度の視点の転換しかできません。ところが、「A社のバッグの良さを 知って貰って売る」という概念化をした問題としてとらえることによって、良さを知ってもらう主体をA社ではなく、ユーザに変えるという視点の転換ができ、するとコミュニティといった答えがでてきます。

このような問題解決の方法は創造的問題解決といいますが、創造的問題解決のように「周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極めるスキル」は一般にコンセプチュアルスキルと呼ばれます。言い換えると、コンセプチュアルスキルが創造的問題解決を実現しているわけです。

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