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2013年5月 2日 (木)

【プロデューサーの本棚】マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか

4822248364 ヘンリー・ミンツバーグ(池村千秋訳)「マネジャーの実像 「管理職」はなぜ仕事に追われているのか」、日経BP社(2011)

1973年に「マネジャーの仕事」でマネジャーのイメージと実態のギャップを明らかにし、以来、「人間感覚のマネジメント―行き過ぎた合理主義への抗議」で人間の次元でのマネジメントの重要性を説く。また、「戦略サファリ」 で従来から考えられてきたサイエンスとアートの統合だと考えられてきた戦略計画の策定に「クラフト」という新しい視座を提唱。最近では、コミュニティーと リーダーシップを合わせたコミュニティシップを提唱するなど、常に、マネジメントに新しい視座・視点を提案してきたミンツバーグ博士の36年間の足跡とと もにドラッカー以来のマネジメントに関する多くの経営学者や心理学者の知見が一望できる一冊。そこから見えてくるものは、懐古ではなく、創造であり、実践 である。

本書は3つの性格の章から構成されている。一つは、マネジャーの仕事を再確認した章で、「マネジメントのダイナミックス」というタイトルのつけられ た章である。二つ目は、これまでの議論や提案を修正した章。マネジメントのモデルと、マネジメントの多様性について書かれている。三つ目は、まったく新し い議論をした章。マネジメントのジレンマと、有効なマネジメントのスタンスについて書かれている。

本書も含め、ミンツバーグの原点は、マネジメントの質を向上させるためには、マネジャーの仕事に関するイメージと実態のギャップを埋めることからは じめる必要があるというところにある。これが「マネジャーの仕事」というすごい仕事を生み出した原動力でもある。イメージとして、内省に基づき、体系的、 かつ計画的に行われていると思われているマネジャーの仕事には、

・いつも時間に追われている
・さまざまな活動を短時間ずつおこなう
・互いに関連性のない業務を細切れにおこなう
・頻繁に自分自身でものごとを実行する
・非公式・口頭のコミュニケーションを好む
・人とのコミュニケーションの多くを横の関係が占める
・しばしば目に見えない形でコントロールをおこなう

といった特徴がある。

このような特徴を持つマネジャーは、マネジメントを3つの次元でおこなう。現場からの距離の遠いものからいえば

情報の次元>人間の次元>行動の次元

の3つである。これらのマネジメントの活動で役割を果たす以前に、マネジャーは頭の中で二つの役割を果たしている。一つは、仕事の基本設定を考える ことであり、もうひとつはスケジュールを立てることである。仕事の基本設定を考えることにより、特定の決定を下したり、特定のテーマを重点項目に位置づけ たり、特定の戦略を立案したりすることを通じて、組織にとっての仕事の基本設定を決め、メンバー全員が仕事をするための枠組みを示す。

その上で、情報の次元では、マネジャーが情報処理し、その情報を使ってほかの人間を動かすことにより、必要な行動を取らせる。その中で、マネジャーは

・コミュニケーションを取ること
・コントロールする(情報を活用してメンバーに行動を取らせること)

の2つの役割を果たす。

次に人間の次元では、ほかの人たちの背中を押して、ものごとを成し遂げさせる。そのために、

・組織内の人々を導く
・組織外の人々を関わる

という2つの役割を果たす。

行動の次元ではこれまでの間接的な活動に対して、直接的に行動をマネジメントする。つまり、変革を推し進めたり、プロジェクトの進行を管理したり、トラブルの火消しをしたり、契約をまとめたりする。こうした活動は

・組織内でものごとを実行する
・対外的な取引をおこなう

のいずれかに帰属するものである。

行動の次元の活動は実務の現場では評価されるものである一方、マイクロマネジャーという批判が出てくる。これに対して、ミンツバーグは、マクロリー ダーであることは望ましいことではなく、情報の世界、人間の世界、行動の世界を結び付け、バランスを取る存在でなくてはならないとしている。

そしてのそのバランスはスタティックなものではなく、直面する課題に合わせて、さまざまな役割の比重をたえず変化させることによって、実現されるも のである。そのため、マネジャーに求められるスキルをすべて身につけたところでそれだけでは有能なマネジャーにはなれない。すべての要素をブレンドさせ、 状況に応じてその比重を変えつつ、バランスを取れるかどうかが問題だと指摘している。この指摘が、「MBAが会社を滅ぼす」 という議論になっていく。

次に議論しているのは、マネジメントの多様性についてである。マネジメントの多様性について影響を与えるのは、以下の5カテゴリー、12の要素である。

外部的要素:文化の違い、官民などのセクターの違い、業種の違い
組織的要素:組織のタイプ、歴史の長さ、規模、発展段階
職務的要素:組織内での職階、監督する業務・機能
一時的要素:短期的な圧力、マネジメント手法の流行
個人的要素:キャリアの長さ、個人的なスタイル

この中で、調査対象とした29人のマネジャーのうち、とび抜けて影響が大きかった要素は「組織のタイプ」だった。ミンツバーグは組織のタイプを
・起業家型組織
・機械型組織
・専門家型組織
・プロジェクト型組織
・ミッション型組織
・政治型組織
に 分けているが、この中で、専門家型組織において、組織のタイプがもっとも強烈な影響を及ぼすことが分かった。マネジメントのさまざまな要素は絡み合ってい るが、マネジャーの仕事に同じ仕事はない。したがって、類型化には無理があるが、敢えて類型化するとすれば、「マネジメントの基本姿勢」に着目した類型化 である。ミンツバーグは
(1)業務の円滑な流れを維持する
(2)組織を外部環境と結び付ける
(3)すべてをブレンドする
(4)リモートコントロールする
(5)組織文化を強化する
(6)戦略的に介入する
(7)ミドルマネジメント層の枠内でマネジメントする
(8)ミドルマネジメント層の枠外に踏み出す
(9)側面から助言する
などの基本姿勢があるとしている(これに加えて、新任マネジャーや不承不承のマネジャーには独自の基本姿勢がみられるという)。
これらの9つの基本姿勢はどれもマネジメントでは必要な姿勢であり、マネジャーが適切に業務を実行するためにはこれらをブレンドしなくてはならない。

 

マネジャーの仕事には、

・どうして、もっと広い視野でものをみられないのか
・どうして、もっと権限委譲を行えないのか
・どうして、組織階層の下から上に情報が伝達されないのか

といった疑問がついて回る。このような疑問の根底にあるのはマネジャーの仕事には本質なジレンマがあることだ。ジレンマの中で折り合いをつける必要があることが、マネジャーの仕事を難しくしている。

ミンツバーグは、マネジャーのジレンマを13に分けている。

・思考のジレンマ:「上っ面症候群」、「計画の落とし穴」、「分析の迷宮」
・情報のジレンマ:「現場との関わりの難題」、「権限委譲の板ばさみ」、「数値計測のミステリー」
・人間のジレンマ:「秩序の謎」、「コントロールのパラドックス」、「自信のわな」
・行動のジレンマ:「行動の曖昧さ」、「変化の不思議」
・全体的なジレンマ:「マネジャーにとってのジレンマ」、「私にとってのジレンマ」

説明しなくても想像のつく、なかなか、印象深いネーミングである。このうちのいくつかはシステム思考の原型にもなっており、かなり、本質的なジレンマである。

最後の章では、マネジメントの失敗事例を元に、マネジャーの選考、評価、育成の3つの問題について論じている。

マネジメントの失敗のパターンには

・本人の資質が原因の失敗
・職務内容が原因の失敗
・適材適所でないことが原因の失敗
・成功が原因で生まれる失敗

などがある。このような失敗と成功がなぜ起こるかを考えるには、タペストリーを織りなす5つの「糸」のメタファが有効である。5つとは

・振り返りの糸
・分析の糸
・広い視野の糸
・協働の糸
・積極行動の糸

である。さらにここに、

・個人的なエネルギーの糸
・社会的な統合の糸

を加えることもできる。この章ではこのメタファにもとづいて、選考、評価、育成の議論をしている。

その中で、「自然」なマネジャーの育成について論じている。マネジャーを自然に育成できれば、マネジメントが自然におこなわれるのではないかという仮説に基づくものである。自然に育成するために求められる姿勢の要点は

・マネジャーは教室ではつくれない
・マネジメントとは、さまざまな経験や試練を通じて仕事の場で学ぶもの
・マネジャー育成プログラムの役割はマネジャー自身の経験の意味を理解する手助けをするもの
・マネジャー育成の取り組みは、マネジャーが学習の成果を職場に持ち帰り、組織に好ましい影響を与えることを目指すべき
・マネジャー育成に関わる活動はすべて、マネジメントという行為の性格に沿って構成すべき

などである。

自然にマネジメントをおこなうカギになるのがコミュニティシップである。

組織を得体の知れない階層の積み重なりと考えるのではなく、積極的に関わりある人々のコミュニティとみなすことほど、自然な発想はない。そのようなコミュニティでは、誰もが敬意を払われ、ほかの人たちに敬意を払う

と指摘する。そして、コミュニティの中で

マネジメントを成功させるためには、人々を関わらせ、自分自身が関わること、人々を結び付け、自分自身が結びつくこと、人々をサポートし、自分自身がサポートされることが必要である

と結論している。

本論は、ここまでで、最後に、付録として8ケースの観察の記録が採録されているが、本論の読み返しながら、この記録を読んで見ると実に面白く、有益であった。

この本では、文脈の中でおおよそ、考えられる文献は引用され、論が構成されている。その文献の年代が極めて広範である。だからといって、それらは過去の説として引用されているわけではなく、新たな知見は加わっても、今でも通用するものばかりである。

つまり、ドラッカー以来、50年以上の間のさまざまな知見を一つのタペストリーとして折り込んだのが本書なのだ。ミンツバーグはこの本の中で何度か、

私たちは変化しているものしか目に入らない。しかし、ほとんどのものは昔と変わっていない

と述べている。昨年はドラッカーの「マネジメント」がブームになった。多くの人は今なお、ドラッカーを読んで感激し、目からウロコが落ちるという。まさにマネジメントのほとんどは昔と変わっていないのだろう。それは、人間の活動を扱うものだからだろう。

この本を読んでいると、新しいマネジメントの手法だけに価値があるわけではなく、「基本」があるから、新しいものに価値があるということを痛感させられる。

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