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2013年5月 2日 (木)

【プロデューサーの本棚】生き残る企業のコ・クリエーション戦略 ビジネスを成長させる「共同創造」とは何か

4198631603ベンカト・ラマスワミ、フランシス・グイヤール(尾崎正弘、田畑 萬、山田美明訳)「生き残る企業のコ・クリエーション戦略 ビジネスを成長させる「共同創造」とは何か」、徳間書店(2011)

1994年にコア・コンピタンス革命で新進気鋭の経営学者として注目され、ピーター・ドラッカーの後継者といわれたC・K・プラハラードの提唱したこれからの新しい経営思想である「コ・クリエーション」について事例を体系的に整理し、発展された方法論として概念をまとめた一冊。

◆独りよがり

この本の中で、非常に印象的な比喩が出てくる。

たとえて言えば、男女二人でタンゴを踊っているが、男が一方的に女を引っ張りまわしているようなものだ。男は「私にどう踊ってもらいたいですか?」 と尋ねはする。しかし女はその質問に答えることしかできない。その質問に答えたら最後、女はダンスフロアで男の動きに身を任せるぬいぐるみと化す。そして ダンスの最後にこう尋ねられるのだ。「私はあたなが要求したとおりに踊っていましたか?」

本書では、プロセスが仕様書に適合しているだけでは満足しなくなり、顧客のプロセスに即座に反応するようなプロセスを求めていると指摘する。つまり、心ないソロダンスではなく、相手の動きに合わせてくれるダンスを望んでいるという。

◆キーワードは民主化

この顧客の期待に応えるのが、コ・クリーションという概念である。コ・クリエーションとは、徹底的に民主化され、徹底的に分権化された価値創造のプ ロセスをいう。顧客は、企業のアクティビティチェーンが提供するものを受け取るだけでは満足しない。アクティビティチェーンに参加し、自分たちの積極的な 働きでより価値を向上していきたいと考えている。顧客だけではなく、従業員、パートナー、サプライヤーなどみんなそうだ。このような希望を叶えるためにカ ギを握るのは、「体験」である。

つまり、企業や経営者は「製品・サービスに着目した考え」から、「体験に着目した考え」へ根本的な転換を迫られている。

◆Nike+

これが本書の基本的な指摘である。この指摘の妥当性を示すために、まず、Nike+の例を挙げている。Nike+は、靴につけるセンサーとiPod Touchに内蔵された無線受信器からなり、受信機がセンサーの信号を受け取る仕組み。音楽を聴きながらジョギングをすると、センサーが走行時間や走行距 離を計測し、そのデータを記録していく。ジョギングが終われば、Nike+のウェブサイトにアクセスし、ジョギングのデータをアップロードする。すると、 そのデータをグラフ化したり、その内容を分析したり、ジョギング仲間とデータを共有したりできる。個人的な目標を設定したり、あるいは、他の人と記録を競 うこともできる。

これは単なる電子機器とウェブサイトの融合ではない。

・走行データを確認する
・ほかの走者に挑戦する
・コースを確認・共有する
・ジョギング用プレイリストを公開する
・ナイキ・ランニングクラブに参加し、主催イベントに参加したり、ウェブ上でコーチとトレーニングをしたりする

などあらゆるサービスの結果がユーザの「体験」になる。ナイキはNike+からさまざまな事実を学ぶ。たとえば、2009年の世界の平均ジョギング時間は35分である。

Nike+の効用は

・顧客の行動から直接学べる
・どんどん新しいアイデアを生み出せる
・すぐに新たな製品やサービスを試すことができる
・顧客の要望がダイレクトに伝わる
・コミュニティと深い信頼関係を構築できる
・ブランドとグッズに固定ファンをつけることができる

などだ。このような企業側の利益を本書では「戦略的資本」と呼んでいる。

コ・クリエーションは戦略的資本を通じて成長を加速させるだけではなく、リスクやコスト削減も可能にする。ナイキの場合であれば、

・肯定的な口コミを創出することで、マーケティング費用を削減できる
・アップルなどのパートナーに部分的に出資してもらうことで、製品やサービスの開発リスクを分散する
・実地テストが行えるため、資本投資のリスクを軽減できる

といったことであり、これらによって節約できたコストを、Nike+の改善に投入するという好循環を作ることができる。見事なコ・クリエーションである。

◆機会を見つける

コ・クリエーションの方法は2つある。一つは顧客のプロセスのほとんどが企業側のプロセスに含まれていないことに注目して、外から内へのコ・クリ エーションを行うことだ。Nike+は、ジョガーの体験を起点として、ジョギング体験を新たな形で企業に結び付けたプラットホームになっている。

もう一つは企業のプロセスの多くが顧客に知られていないことに注目して、顧客がそれらのプロセスにかかわれるようにする、内から外へのコ・クリエー ションだ。ナイキでは、NIKEiDという参加型プラットホームを立ち上げ、シューズのデザインプロセスを顧客に解放し、顧客がインターネット上で自分の シューズやウェアをカスタマイズできるようにした。

ナイキはカスタマイズ内容を管理することにより、顧客が何をカスタマイズしたがっているか、その理由は何かといった情報を常にNIKEiDを通じて 得ている。そして、その体験を積極的に利用している。たとえば、チームのメンバーが自分の好きなデザインを入力して公開し、そこにほかのメンバーを招いて デザインを評価するチームロッカーというサービスを提供している。

これ以外にも、ナイキはGoogleと共同でサッカーに特化したジョガというSNSをはじめ、・ビデオのアップデートと評価、アワード
・ストリートサッカーの競技会
・サッカーシューズのデザインコンテスト
といった取り組みをしている。

このように複数の戦略を連動させることによって、多くのサッカーファンを取り込み、そこから多くを学んだ。

もうひとつ、スターバックの事例が総合的な事例として取り上げられている。

◆本書で取り上げられている事例

ナイキやスターバックスはコ・クリエーションのほとんどの要素を含む事例であるが、このあと、

(1)参加型プラットホームによる感動体験
・クラブツーリズム(近畿日本ツーリスト)~対面交流
・デル~ウェブサイトで顧客の会話に参加する
・アップルストア~小売店における顧客体験の改革
・レゴ~現実体験とデジタル体験
・ネスレとノキア~コールセンター改革
・グラクソ・スミスクライン~非公開コミュニティ空間の活用
・HUL~公開コミュニティ空間の活用
(2)アイデアのコ・クリエーション(アイデア創造体験)
・カミゼテリア~顧客こそがチームデザイナー
・ワコール~製品開発プロセスの開放
・オレンジ~企業内起業
・アップル~開発の喜びを体験させる
・インフォシス~アイデアのコ・クリエーションを可能にするIT
(3)事業ネットワーク内の関係者とのコ・クリエーション
・ブラザー~販売業者の参加
・GEヘルスケア~中小企業との強い結びつき
・トヨタのサイオン~消費者と関係者のネットワーク
・クラッシュ・パッド~理想的なコ・クリエーション生態系

の事例を分析している。また、参加型プラットホームについては、進化の方向性について例を挙げてコメントしている。

さらに、社会生態系を形成するコ・クリエーションとして

・ITE~eチョウパル
・BEME~零細企業のコ・クリエーション参加
・ABB~環境や社会への影響力
・アショカ財団~非営利市民セクターの力

を分析している。次に、企業改革にコ・クリエーションを応用した例として、フランス郵政公社の例を詳しく取り上げている。

コ・クリエーションはオペレーションだけではなく、経営にも活用できる。これについてもいくつかの視点から事例を取り上げ、分析している。まず、最初の視点は意思決定である。

・シスコの分権型管理組織への改造
・HLCの従業員体験に基づく組織デザイン
・ERMの成長

などを取り上げている。また、ビジネスを双方向から変えるためにコ・クリエーションを活用した例として、プレディカの商品開発を取り上げている。

さらには、戦略プロセスの開放で、匿名のケミカル企業の例を使って分析をしている。極めつけは、制度改革をコ・クリエーションしている事例も紹介している。

コ・クリエーションは新しい経営思想である。企業中心でもなく、また、顧客中心でもない。まさに、コ・クリエーション、共同創造である。この手の話題は、おおむね方向性には賛成だが、当社には無理難題があるという理由で先送りにされることが多い。

そして、冒頭で述べたような、偽物の顧客主義にしがみついている。

この本の素晴らしいところは、コ・クリエーションには順序はないと考えているところだ。つまり、コ・クリエーションを否定するのであれば話は別だ が、肯定する場合、たとえば、Nike+のような取り組みは当社では文化が違うということであれば、従業員との間のコ・クリエーションから実行すればよ い。

つまり、コ・クリエーションのシナリオを書くことこそ、ポイントで、この本の豊富な事例は間違いなく、シナリオ作りをインスパイアしてくれる。

 

 

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