【プロデューサーの本棚】フェイスブック時代のオープン企業戦略
シャーリーン・リー(村井章子訳)「フェイスブック時代のオープン企業戦略」、朝日新聞出版(2011)
顧
客に対しても、社内においても、オープン戦略が取られ始めている。まだ、大きなうねりになっているとまではいかないが、止まる流れではない。特に、
Twitter、facebookの急速な普及は、この流れを加速すると見られている。そのような中で、組織やリーダーシップはどうあるべきかを論じた一
冊。原題は、35ドル支払ったオンライン調査で圧倒的に人気だった「オープンリーダーシップ」だった。微妙な邦題だが、基本的にはオープンリーダーシップ
の本である。
◆オープンリーダーシップとは
本書の基本的な指摘は、このような状況において組織やリーダーは、コントロールを手放すことによって、新しい関係を築くことが必要であり、その関係を「オープンリーダーシップ」と呼ぶ。著者はオープンリーダーシップを
謙虚に、かつ自信を持ってコントロールを手放すと同時に、コントロールを手放した相手から献身と責任感を引き出す能力を持つリーダーのあり方
だと定義する。
そして、オープンリーダーシップを通じて、新しい関係を構築するために
(1)顧客や社員が持つパワーを尊重する
(2)絶えず情報を共有して信頼関係を築く
(3)好奇心を持ち、謙虚になる
(4)オープンであることに責任を持たせる
(5)失敗を許す
の5つのルールを提案している。
オー プンというのは矛盾に満ちている。たとえば、米国の海軍では、「夜間の着艦が怖い」といった素の自分をさらし出し、気持ちを通じることが推奨される一方 で、乗務員の任務は事細かに決められ、それがどんな状況でも間違いなくこなせるように、厳しい訓練が行われている。それが嫌だと抵抗することはできず、命 じられたままにするしかない。
つまり、コミュニケーションについてはおおらかで、自分の仕事の裁量権はほとんどない。これはオープンなのかという問題提起をしている。海軍は、ある面ではオープンだが、別の面ではオープンではない。
◆オープネスの10要素
本 書では、このような状況は自然な状況であり、オープンにすることは目的ではなく手段であり、目的に応じてバランスをとることが重要だと指摘する。そして、 バランスを採るために、オープネスの要素を分解することを推奨する。著者の考えるオープネスの構成要素は、情報共有と、意思決定のカテゴリーで、以下の 10要素である。
<情報共有>
・説明:戦略や方針、意思決定の理由を説明し、全員の意思統一を図る
・更新:会社の状況やプロジェクトの進捗などの新しい情報を継続的に発信する
・会話:顧客や社員と会話する
・オープンマイク:誰でも飛び入り参加できるイベントを行う
・クラウドソーシング:アイデアや提案を広く募る
・プラットホーム:標準やルールを決め、個人や組織のやり取りを円滑化する
<意思決定>
・中央集権型:意思決定の知識や材料を持っている少数の人間だけが決める
・民主型:ある程度絞り込んだ選択肢を示し、採決を行う
・コンセンサス醸成型:決定に関与する資格を持つ人、決定の影響を受ける人がすべて合意する
・分散型:意思決定に必要な情報や意識が存在するところに決定権を移す
◆オープン化のROI
オープン戦略を考えるにあたっては、目的に応じてこの10個についての組み合わせを決めればよい。成功した戦略に含まれる基本的な目的は、まずは
・学ぶ
ことであり、そのために
・対話する
・サポートする
・イノベーションを促す
の 3つが目的になる。だいたい、何を言っているか見当がつくと思うので、説明は省略する。本書では、各目的に対して、多くの事例を紹介しながら説明してい る。目的の設定において重要なのは、会社の戦略ゴールを整合することである。その点を踏まえながら、オープン戦略は以下のような手順で策定すればよい。
(1)オープン戦略の重点目標を見極める
(2)学ぶための環境を整える
(3)学ぶ以外の目的を明確にする
(4)必要なオープン度を見極める
(5)自社のオープン度をチェックする
本書にはこのためのツールがいくつか紹介されている。
こ の本の興味深い点の一つは、このような進め方において、ROIの取り扱いについて具体的に議論していることである。現実問題として、オープン戦略におい て、情報開示についての危惧と同時に、投資効果についての疑問が出てきて、相乗効果を持つことが多い。逆にいえば、ROIが明確になると、情報開示の問題 によい影響を与える可能性があり、この点は重要である。
上に示した4つの目的に対する効果は、
・摩擦をなくす
・少ない労力で大きな成果が上がる
・すぐに反応がある
・献身的な協力が得られる
の4つであるが、これらをリターンとして、4つの目的のそれぞれについて、ROIの試算をしている。
◆オープネスのコントロール
さらに、オープン戦略を実行に移す前に、オープンネスのコントロールを施策の必要性を説き、そのための方法として「サンドボックス協約」を提案している。これは、オープン戦略を実行するにあたってのルールで、
・社員との約束:ソーシャルメディアガイドライン
・顧客との約束:コミュニティへの参加・投稿・情報開示の方針と信頼関係を醸成するための行動規範
の2つから構成するのがよいという。
◆オープン戦略の実行プラン
戦略ができたら実行に移す。オープン戦略の実行プランには、
・ソーシャルグラフィック・プロフィールの作成
・オープン戦略の影響を最も受けるワークフローとステークホルダー特定
・適切な組織モデルの検討
・実行担当者の指名
・トレーニングとインセンティブシステムの設計
を含めるとよい。組織モデルとしては、
・有機モデル:オープンにしやすいところからオープンにする
・中央集権モデル:担当者を決め、戦略を作り、計画的に準備し、ある意味で社員を統制しながらオープン化進めていく
・協調モデル:中央集権モデルと同じように準備をするが、実行は個人に委ねる
といったものがあり、オープン化の目的に併せて選ぶのがよい。
◆オープンリーダーのタイプと仕事
さて、オープン戦略の実行に欠かせないのが、オープンリーダーである。著者は、オープンリーダーのタイプを
・楽観的か悲観的か
・個人プレーか、チームプレーか
という2軸で分け、
・楽観的な現実主義者(楽観的×チームプレー)
・慎重な実験者(悲観的×チームプレー)_
・一途な伝道者(楽観的×個人プレー)
・心配性の懐疑論者(悲観的×個人プレー)
の4タイプを示し、状況に応じて組み合わせをするとよいとしている。また、オープンリーダーの重要な役割は次世代のリーダーを育てることで、そのためにはまず、候補を選ぶ必要がある。候補は
・ビジョンへの共感と熱意
・人間好き
・冒険心
などの基準にして選び、
・オープンリーダーの資質を備えた人材を積極的に採用する
・オープン戦略が浸透しやすい環境を作る
・障害物を取り除く
・リスクテイクを奨励する
などの方法を取ることが有効である。
オープンリーダーの重要な役割の一つは、上手に失敗に対処することである。失敗への対処において、オープンリーダーにできることは
・失敗を認める
・信頼関係を築く
・個人攻撃をしない
・失敗から学ぶ
の4つである。
オープン化には最終的に文化の変化が必要であり、オープンリーダーはチェンジエージェントになることが求められる。そのためにオープンリーダーがすべきことは
・ビジョンを掲げる
・リーダーが道を示し手本となる
・古い企業文化を新しい文化に活かす
・ルールとシステムを変える
ことである。
◆今、もっとも必要なリーダーシップ
オープンリーダーシップは、いま、多くの日本企業にもっとも必要なリーダーシップではないかと思われる。かつての日本の企業は、
クローズなコミュニケーション×ゆるい業務の統制
というスタイルであった。このスタイルは情報統制で業務統制をするという、情報の持つパワーをうまく活用した、見えにくい統制で、キャッチアップ×終身雇用を前提にしたときには、非常に合理的な方法であったように思う。
今は、イノベーションを求めている。したがって、この方法では難しい。その代わりになりうるのが、本書で提案されているオープンリーダーシップである。
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