【プロデューサーの本棚】スクラムを活用したアジャイルなプロダクト管理
ローマン ピヒラー(江端 一将訳)「スクラムを活用したアジャイルなプロダクト管理―顧客に愛される製品開発」、 ピアソン桐原(2012)
スクラムは基本的に開発オペレーションマネジメントの手法で、プロダクトマネジメントと結びつけた議論があまりなされない。本書は、プロダクトマネジメントの視点からスクラムをどう運用すべきかを考察している。
スクラムは基本的に開発オペレーションマネジメントの手法で、プロダクトマネジメントと結びつけた議論があまりなされない。本書は、プロダクトマネジメントの視点からスクラムをどう運用すべきかを考察している。
まず、プロダクトオーナーの役割について簡単に紹介したあと、特性について、非常に詳しく述べている。このうち、特性については、
・明確なビジョンを持った実行家
・リーダーとチームプレイヤーの二役ができること
・コミュニケーターとネゴシエーターができること
・権限を付与された献身的な人であること
・顧客と市場に対する深い理解があり、ユーザエクスピアレンスへの情熱があること
・要件の説明能、予算管理、開発プロジェクトの先導ができること
などを挙げている。また、活動として、チームとの協働、スクラムマスターとの協働の方法、顧客、ユーザ、ステークホルダーとの協働についても言及している。
この本の最大の特徴といってもいいのは、ビジョンついてきわめて詳しい議論をしていることである。まず、ビジョンの必要条件として以下の質問に答えることを挙げている。
・製品を買うのは誰か
・想定する顧客は誰か
・製品を使うのは誰か
・想定ユーザは誰か
・製品はどのニーズに対処できるか
・製品はどのような価値を提供できるか
・選択したニーズを満たすため、どの製品属性が不可欠か
・製品はだいたいどのような見栄えで、何ができるか
・製品はどの分野で秀でているか
・競合他社や自社の他の既存製品と比較したか
・製品独自のセールスポイントは何か
・目標価格はいくらか
・製品を販売することで会社はどのような利益を得るか
・何が収入源で、どのようなビジネスモデルか
・実現可能な製品か
・会社は製品を開発し、販売することができるか
その上で、ビジョンの品質について
・共有と求心力があること
・幅広く魅力的であること
・簡潔であること
の指標を示している。また、最少の需要がある製品と、顧客ニーズと製品属性の議論をしている。さらに、ビジョン構築の具体的なテクニックとして、
・試作品とモックアップ
・ペルソナとシナリオ
・ビジョンボックスと業界紙レビュー
・狩野モデル
について説明し、最後にロードマップとランナップの議論をしている。
そののちに、プロダクトマネジメントの視点から、プロダクトバックログの使い方、リリース計画、スプリントの運用について、プラクティスの摘要方法、留意点を述べている。紹介は割愛するので、興味がある人は読んでみてほしい。
最後に素晴らしいプロダクトオーナーになるために心掛けるべきことを簡潔にまとめている。この中で、プロダクトオーナーとしてすべきこと、すべきでないことをまとめているが、これは非常に参考になる。
まず、すべきことは
(1)「何」をすべきかを明確にする
(2)チームと挑戦する
(3)ハイパフォーマンスのチームの構築に貢献する
(4)実際の事業価値で思考を駆動する
(5)外部の雑音からチームを保護する
(6)スプリントの間に組織を改善する
といったことだ。逆にすべきでないことは
(1)「方法」や「期間」を指定する
(2)チームをいじめる
(3)短期的なことのみ注目する
(4)当初のスコープとアプローチに固執する
(5)実際に問題が発生するまで、闇雲に変更してチームを悩ませる
(6)スプリント中にタスクの追加や変更を強制する
といったことである(番号が対応する項目)。
もう一つのこの本の特長は、大規模なプロジェクトへの対応を簡単に示している点にある。具体的な方法は分からないが、考え方は明確で、大規模開発にスクラムを適用するときのヒントになるだろう。
プロダクトマネジメントとアジャイルをうまく統合することはチャレンジだ。このチャレンジをしようとした枠組みとして、ジム・ハイスミスのAPMがあるが、スクラムでもこういう議論をどんどんしていくべきだ。
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