【プロデューサーの本棚】デザイン・ドリブン・イノベーション
イノベーション論のバイブルの一冊がやっと翻訳された。ロベルト・ベルガンティのデザイン・ドリブンイノベーションである。
◆技術によるイノベーション
イノベーションブームの中で、技術によるイノベーションの時代は終わった。コンセプトの時代だと盛んに言われるようになっています。そして、イノベーションの対象はビジネスモデルに変わってきたと言われます。今回はこの問題について考えています。
まず、技術によるイノベーションとはなんだったのかについて考えてみましょう。この30年間くらいを考えて、もっともイノベーションが起こった分野の一つは、情報技術です。僕が仕事を始めたころに、空調がきいた部屋一杯に置かれていたコンピュータが、パソコン一つになり、さらにはネットワークでつながっているわけですので、大変な革新です。
これは技術の進歩によってもたらされたイノベーションです。プロセッサーの高速化、半導体の集積密度の向上、記憶デバイスの大容量化、ファームウェア技術の進化、基本ソフトウエアの進化など、あらゆる分野の技術のイノベーションがもたらした結果です。
このような産業の成長の中で、いわゆるITのハイテク企業では、新技術開発=イノベーションという構図ができてしまった。そして、その中で技術の競争の方向が変わるときに、イノベーションのジレンマが起こる。そして、新しい土俵で新しいプレイヤーによる技術イノベーションが始まる。これを繰り返してきました。
そして、今、盛んに言われているのは、技術ではイノベーションを起こせないということです。つまり、新しい技術がイノベーションになるという構図は終わったということです。
よく例に挙げられるのはアップルのiPodです。iPodは技術を組み合わせることによって非常に革新性の高い商品を作り上げたと言われています。彼らにとって、技術は自分たちのゴールを実現するための商品を組み立てる道具に過ぎないわけです。
ただし、ゴールの実現にもっとも大きな影響を持つ(広い意味での)ユーザインタフェースについては徹底的にこだわるわけです。ここでいうユーザインタフェースとは、単に画面や(物理的な)ボタンの場所などだけではなく、ユーザが持ったときの感覚や、持ち運びができるかどうかなど広範にわたる、いわゆる「デザイン」です。