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2012年8月22日 (水)

【プロデューサーの本棚】デザイン・ドリブン・イノベーション

4496048795ロベルト・ベルガンティ(佐藤 典司監訳、岩谷 昌樹、八重樫 文、立命館大学経営学部DML訳)「デザイン・ドリブン・イノベーション」、同友館(2012)

イノベーション論のバイブルの一冊がやっと翻訳された。ロベルト・ベルガンティのデザイン・ドリブンイノベーションである。


イノベーションに対する人々のニーズは2つに分けることができる。

一つは、実用的な機能であり、技術開発による製品の性能によってもたらされる。もう一つは、感性や意味に関するものであり、人々が製品を使用する深層心理的、および、文化的な理由である。

本書では、パフォーマンス(機能)と意味(言語)の2次元のフレームワークを提案している。パフォーマンスを「急進的改善」、「漸進的改善」、意味を「社会的文化モデルの進化への適応」、「新しい意味の生成」に分けることにより、イノベーションの戦略を3つに分けている。一つ目は急進的なイノベーションであるテクノロジープッシュ、二つ目は社会的文化モデルの進化への適応を漸進的に行うマーケットプル(ユーザ中心)、そして、三番目が本書のテーマである、急進的、あるいは漸進的に意味の生成を行うデザイン・ドリブン・イノベーションである。

産業界の競争の構造を変えるような大きな成功をおさめたデザイン・ドリブン・イノベーションには、急進的な技術のイノベーションと意味のイノベーションの相互作用を引き起こしているという共通点がある。

このようなイノベーションの事例として、本書ではアップルのiPod、任天堂のWii、スウォッチを詳細に分析している。

たとえば、iPodはデジタル・オーディオ・エンコーディングの技術の急速な発展と「シームレスで個人的な音楽のプロデュースを行う」と突発的な意味の生成により成功したと分析している。

ここで注意すべきことは、デザイン・ドリブン・イノベーションはユーザ中心イノベーションとは異なることだ。アップルのジョブズは、結局のところユーザは実物を見るまで自分たちの欲しいものは分からないと指摘している。アップルが行ったことはユーザの調査を丁寧にすることではなく、人々に提案することによって画期的なビジョンを市場に推し進めていったことだ。そして、その提案が受け入れられ、アップルは長期的に競争優位を獲得した。

では、デザイン・ドリブン・イノベーションの発生するプロセスはどのようなものなのだろうか。まず、キーコンセプトになるのが、意味の解釈者である。デザイン・ドリブン・イノベーションを生み出す会社は、意味の解釈者とのネットワークを重視する。

解釈者は会社、デザイナー、技術者、芸術家、学校などさまざまで、それぞれの立場から作品、研究、発言、プロトタイプ、製品などの様々な形で、洞察、解釈、提案を交換し、対話し、ビジョンを共有する。このプロセスがデザイン・ディスコースである。そして、デザイン・ドリブン・イノベーションはデザイン・ディスコースを基盤としておこなわれる。

その活動は
・デザイン・ディスコースに耳を傾ける
・解釈する
・デザイン・ディスコースに話しかける
の3つのプロセスである。このプロセスを通じて、iPodやWiiのように人々に魅力的な新しい意味を与えるのだ。

デザイン・ドリブン・イノベーションはデザイナーだけではなく、エンジニアにとっても極めて示唆に富んだ概念である。

デジタル・オーディオ・エンコーディングの技術を例にとれば、従来のテクノロジープッシュの発想であれば、単に大容量のポータブルオーディオができるだけである。それまで大量のカセットテープを持ち歩いていたものが、小型のオーディオ一つで済むというのは、画期的ではあるが、どこまでいっても代替に過ぎず、ユーザに本質的な変化を提案するものではない。しかし、そこに新しい意味が与えられることによって、人々が創造しなかったような画期的な変化が起こる。

今、新しいエンジニアに提案を求められているのは、機能の進化によってもたらされる意味の変化である。たとえば、フューチャーセンターのような場を活用してデザイン・ディスコースとの対話を行い、それを市場に対する提案としてまとめていく。そのためのさまざまなヒントがあり、また、気づきも多い本である。

次世代のエンジニア必読の一冊だ。

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