【プロジェクトリーダーのための技術マネジメント入門】第1回 技術とは
◆プロジェクトと技術
どんなプロジェクトでも、プロジェクト(プログラム)の成功要因には、ビジネスマネジメントの側面とプロジェクト(プログラム)マネジメントの側面がある。技術を付加価値の源泉にしている、言い換えると、技術により稼いでいる企業においては、ビジネスの側面で圧倒的に重要なのは「技術」である。技術のマネジメントが適正に行われない限り、適正な収益を実現しているとは言い難い。
一方で、現場を見ると、プロジェクトにおいて技術に関する明確な方針がなく、過去の経緯や、プロジェクトメンバーの保有技術、あるいは技術的な流行だけで適用技術が決められていたりすることは珍しいことではない。
本来、技術の問題はプロジェクトや部門で考えるべき問題ではなく、事業部、あるいは全社レベルで考える問題であるが、現実にそのようなマネジメントを行っている企業は少ない。その中で、現実的な対応をするためにはプロジェクトリーダーは技術マネジメントに関する見識を持ち、プロジェクトマネジメント、あるいは組織的プロジェクトのマネジメントの一環として実践していくことが大切である。
具体的な実践の場は、プロジェクトのシナリオ作成が考えられる。プロジェクトシナリオを作る際にシナリオの中に技術要素を入れ込み、プロジェクトの技術的方向性に対して組織としてのコンセンサスを作っていくことが望ましい。
◆技術とはなにか
そこで、本連載では、プロジェクトリーダーが持つべき、技術マネジメントの知識について一通り基本を解説する。まず、初回は技術とは何かについて説明したい。
辞書を引くと
技術とは社会の各分野において目的を達成するために用いられる体系化された手段・手法
という説明がされている。技術という概念は工学(エンジニアリング)に限られたものではなく、たとえば、会計にも技術があるし、人事にも技術はある。企業で行われている活動の大半は技術に基づき行われているといっても過言ではない。
ただし、技術マネジメントの対象になり得るのは、経営活動の中で「付加価値」を生み出す技術である。それは一般的に考えれば、エンジニアリングの技術ということになる。この連載で、技術という言葉を使う場合には、これがスコープになる。
言葉の問題でもう一つ明確にしておくべきは、技術というのはスキルとは別の概念である。よく「あの人は技術がある」といった言い方をする。スキルを持っているという意味だが、これは技術を使いこなす能力を持っていることを意味している。この連載の中では、これは技術とは呼ばず、「技能」と呼ぶことにする。
◆3つの技術
技術とビジネスの関係を考えた場合に、技術は2つに分けることができる。商品やサービスを構成するために不可欠な技術と、商品やサービスを生産(提供)するために必要な技術である。前者は製品技術、後者は生産技術と呼ばれる。
この区分については、いくつか注意をしておくべき点がある。まず、一つは製品技術と生産技術は厳密に分かれるとは限らないことだ。新規技術を適用した製品開発をして量産をし、販売をするというビジネスモデルの場合には、製品技術と生産技術はかなり厳密に区別できる。ところが、建設やITやエンジニアリングのように受注生産を行う場合には、製品技術と生産技術の依存関係が強い。たとえば、建築物でメンテナンスのために新しい制動方式を採用した屋上クレーンを設置したが、そのクレーンは建築中にも使うとする。このクレーンは製品技術なのか、生産技術なのかはっきりしない。あるいは、情報システムで、ユーザがカスタマイズするために、インタラクティブにUIを構築するツールを準備し、開発中もこのツールを使って開発を行った。これも同様である。
この議論は技術戦略の策定に影響を与えるので、覚えておいてほしい。
2点目は、上で技術という言葉を限定すると述べたが、受注生産の生産技術には、必ずしもこの範囲ではないものがある。たとえば、生産性の向上を目的とした生産技術の中で、チームビルディングの技術は極めて重要な技術である。あるいは、人事の技術で評価技術についても同じことがいえる。この連載は基本を解説するというスタンスなのでこのあたりにはあまり立ち入らないが、技術にはそういうものもあることと覚えておいてほしい。もう少し、広くいえば、マネジメント技術は生産技術の一種であるということだ。
3点目。これがもっとも重要であるが、製品技術と生産技術とは別にこれらを統合した技術を考える必要がある状況が増えている。たとえば、複数の商品やシステムを組み合わせて、一つの商品として提供する。この場合、組み合わせること自体が極めて重要な技術である。たとえば、アークテクチャーの設計技術や、アラインメントの技術などだ。このような技術をこの連載では、「システム化技術」と呼ぶことにする。そして、これを製品技術、生産技術と並ぶ第三の技術として取り扱う。
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