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2021年5月 6日 (木)

【マネジメントスタイル:雑談13】障害物を取り除き、ハードルを下げることで、人々の行動を促す~カタリストのすすめ

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Catalyst1

◆カタリストが変化を加速する

この5年くらい、組織変革が注目されるようになり、取り組みの報告などを目にする機会が増えてきました。多くの人や組織が変わりたいと語る中で、もっとも感じるのは、うまく行くかどうかは別にして、成果が見られるには時間がかかることです。

人の変化にも時間がかかりますが、組織が変わるのはその時間が指数関数的に増えていくので、当然といえば当然です。

この変化のスピードの問題に対して、面白い考え方があります。それは、

「触媒(カタリスト)」

が必要だというものです。


◆一瞬で人の心が変わる伝え方の技術

提唱しているのは、ペンシルベニア大学ウォートン校のジョーナ・バーガー教授です。バーガー教授は全世界でベストセラーになっている「インビジブル・インフルエンス 決断させる力」(日本では東洋経済新報社より出版)の著者として知られていますが、行動変化、社会的影響、口コミ、製品やアイデア、態度が流行する理由を研究する研究者として有名です。

その教授の著書「THE CATALYST」が、かんき出版より日本でも出版されましたが、この本で主張されているのがカタリストです。

ジョーナ・バーガー(桜田 直美訳)「THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術」(かんき出版、2021)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4761275375/opc-22/ref=nosim

まず、バーガー教授の指摘を簡単に紹介しておきましょう。

バーガー教授は、人間や組織の行動には慣性が働くため、

・本当に必要なプロジェクトに予算を配分できない
・新しいプロジェクトをはじめられず、古いプロジェクトを止めれない

といったマネジメントでの行動を始め、

・選挙では自分の価値感に関係なく過去に投票した党に所属する候補者に投票する
・家族旅行は毎年同じ場所になる

といった生活にまつわる行動までさまざまな変化しない行動が生まれていると指摘しています。

そして、このような慣性に対して、情報や事実、根拠をこれでもかと提示し、力を入れれば人は変わると思っています。このため99%の人は強く押して突破しようとしますが、現実にはこれではうまくいかないと指摘します。

なぜなら、人は押されたら押し返すからだとし、変化を起こすために必要なのは、力づくで押すことではないし、説明がうまいとか、説得力があるということも関係ないと指摘します。この指摘は現在組織変革に取り組んでいる組織の多くにとって、結構、ショッキングな指摘ではないかと思います。

そして、変化を起こすために必要なのは、自分がカタリスト(触媒)になることだといういうのがバーガー教授の主張です。つまり、障害物を取り除き、ハードルを下げることで、人々の行動を促すことだというものです。


◆カタリストは変化を妨げている障壁を取り除く

この一連の議論を指摘と主張に分けて考えてみます。まず、押しても変化は起こらないという指摘の部分は、おそらく多く人が認識していること、あるいは潜在的に感じていることだと思います。これは、変革のためにリーダーシップより、ファシリテーションが重要だと考えている人が多いことからもだとな指摘だと考えられます。

次に自分がタカリストになることによって変化が起こるという主張についてです。ここで大きく考え方が分かれるところです。客観性こそ変化を引き起こすために重要だと考える人もいれば、当事者、つまりカタリストになることが必要だと考える人もいるでしょう。

バーガー教授の考えは化学反応のアナロジーに基づくものです。

カタリストとは、よく知られているように化学反応の触媒です。例えば、窒素ガスを肥料に変えるには、高圧の中で1000℃以上で熱するというエネルギーを加える必要があります。このときに特別な物質を使うともっと低い圧力と温度で、短い時間で化学反応を起こすことができます。このように化学反応の世界では、触媒(カタリスト)によって加えるエネルギーを減らして、より速い化学反応を起こすことができるのです。

このようにカタリストは化学反応の中に入って、変化を妨げている障壁を取り除き、化学反応を容易にし、スピードを上げるのです。ここ数世紀の偉大な発明の多くがカタリストを見つけ、使うことによってから生まれているくらい、重要な概念になっています。


◆ファシリテータはカタリストか

バーガー教授は、このカタリストは一般の社会でも応用できると考えているのです。それが、外から押すことではなく、中に入って自分自身が触媒になり、変化の障壁を取り除く活動です。この説明を読んで、なんだファシリテータではないかと思われた方も多いと思います。

そう思った人はバーガー教授が紹介している次の事例を考えてみてください。

FBIのある捜査官はロシア・マフィアを追って逮捕にこぎつけ、逮捕状が出て、容疑者の立てこもる建物にSWAT(察の特殊部隊)を呼び寄せます。

逮捕の計画を作るブリーフィングが終わった後で、SWATの一人から「犯人について教えてくれ」と依頼されます。意味を尋ねると「彼は普段どんなことをしている?趣味はあるのか?家族はいるのか、ペットはいるのか」といったことを教えてくれというのです。そして、最後に携帯電話を教えてくれと言われ、教えます。

そして、突入する時間がきて銃を構えますが、SWATは一向に動きません。そうしているうちに、建物のドアがあいて、容疑者が両手を上げて出てきました。

このSWATの要員はまず容疑者の話を聞き、信頼関係気づいた上で、容疑者の恐怖や動機に真摯に耳を傾け、家で彼らの帰りを待っている人たちのことを思い出させました。このために、家族やペットの状況を聞いたのです。

このようなやり方で、容疑者の不安、恐怖、敵意を取り除き、最終的には彼らが自分の状況を客観的に見つめ。最初は完全に拒絶していたことが、実は最善の選択だと気づくことを目指すのです。

カタリストは日本ではあまり知られていませんが、当事者として、状況を冷静に観察し、変化を妨げているものの正体を突き止め、それを巧みに取り除きます。

つまり、化学反応における触媒と同じで、加えるエネルギーを少なくすることで、変化を起こすのを容易にしているのです。これが押しでなく、カタリストの本質なのです。ファシリテータには客観性が求められ、同じような行動をしていても本質は違うと思われます。

◆日本におけるカタリスト

いきなり余談になりますが、日本でも、ユースケ・サンタマリアの主演した「交渉人 真下正義」や、天海祐希の主演した「緊急取調室」などのカタリストを扱ったドラマがあります。ところが、これらのドラマをみていて、違和感を感じる人が少なくないようです。

なぜでしょうか。それは、日本のような階層文化の強い組織では、自分自身が触媒になるのではなく、触媒を放り込むような態度で接するのが自然だと考える傾向があるからだと思われます。

一つ典型的な例を挙げると、日本的な組織を動かすための行動として調整という活動があります。調整は本来交渉相手に対して、上から目線で行おうとしてもうまく行きません。実際に達人と言われるような人はそこをよく理解しており、対等な立場で話をしようとする人が多いようです。

そこに組織の階層が入って来ると話が少し変わってきます。大岡越前の越前裁きのような調整の方法がまかり通るのです。

このような感覚をファシリテーションに持ち込んでいるファシリテータも少なくありませんが、これでは本来の調整やファシリテーションの機能は果たせないと思われますし、このようなやり方では変化は起こらないでしょう。多くの組織が変革を唱えながらも、思ったように成果が出ていない一因にはこのような問題があると考えられます。


◆モチベーションが上がれば変化できるか?

もう少し、この問題を深掘りしてみましょう。この問題をややこしくしているのは、モチベーションの向上と、変化することがごちゃ混ぜになっていることです。

例えば、日本でも褒めるということが普通に行われるようになってきました。多くのリーダーはフォロワーを褒めて、モチベーションを高めようとしています。モチベーションが高まるとパフォーマンスが向上することは間違いありませんが、ここで問題になるのは、変化を起こせるかどうかにあります。

例えば、組織として新しいことを積極的に取り組んでいたとします。その中で、何か新しいアイデアを出して、褒められたとします。すると、そのあと、どんどん、新しいアイデアを出そうとするでしょう。これはパフォーマンスの向上です。

ところが、このような取組で、本当に新しいことをやろうとする組織になるかどうかは別問題です。

実際に、このようなチームや組織は最近、時々見かけますが、変化に至っている組織はあまり見かけません。理由ははっきりしていて、新しいアイデアを提案しても、結局、上司が慎重になっているとか、コストがかかるといった理由で実現しないことにあります。これを繰り返しているうちに、新しいことを考えることを止めてしまい、そのまましりすぼみになります。つまり、組織は変化しないのです。

このようにモチベーションの向上にはつながるが、変化を起こすことには直結しないと感じることがよくありますが、向かう方向や、やり方を変えなくてよいとき、つまり、単にパフォーマンスを向上したときには、人をおだててその気にさせる、説得する、背中を押すという方法をとることは加速させるためには、有効です。しかし、やり方を変えたいときには、驚くくらい無力なのです。

◆変化できないのは障害があるから

この例のように変化を起こせないのは、何か障害物があるからです。この障害は、例えば、組織というのはそういうものだから、頑張って突破してみろといっても変化しません。つまり、押しても変化しないのです。

にもかかわらず、多くの人は、押すためのアドバイスをして、任せてしまう。すると、結局、うまく行かず、また、振り出しに戻って、同じことを繰り返すことになることが多いのです。これは、階層意識の中で、自分はそういう役割だと思っているからです。

ここでカタリストは、必要なのは押すことではなく、障害物を取り除くことだと考えます。例えば、プロジェクトマネジャーは実務感覚のある人が多いので、結構な割合の人が一緒に障害物を取り除いて、プロジェクトを進めていこうとする人が結構います。これは立派なカタリストです。


◆障害物を取り除き、ハードルを下げることで、人々の行動を促す

触媒(カタリスト)になるというと大変なことだと思う人も多いと思いますが、実際に必要なスキルはそんなに大仰なものではありません。簡単に言えば、問題発見のスキルが必要なだけです。問題を見つければ、あとはみんなで解決すればよいわけです。

ところがここに一つ決定的な要素があります。それはその問題の当事者意識を持つことなのです。上では階層を例にとって話をしましたが、押すということは当事者ではないことを意味しています。カタリストが当事者になって一緒に問題解決をしていかない限り、人や組織は変化しません。。ここが、パフォーマンスの向上と、変化の本質的な違いでもあります。

本当に変化を起こしたければ、組織の役割が云々といっていいないで、当事者になることです。当事者のなり方はさまざまで、逆にそのために組織上の役割を重ね合わせることもできるでしょう。

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