【コンセプチュアルスタイル考】第55話:コンセプチュアル思考でセンスを磨く!
【参考文献】
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532320623/opc-22/ref=nosim
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◆コンセプチュアルスキルってなんですか?
コンセプチュアルスキルという言葉はだいぶ普及してきましたが、意味を尋ねるとなかなか明確な答えが返ってこない言葉です。もし、あなたが、
「コンセプチュアルスキルって何ですか」
と尋ねられたらなんと答えますか。
多いのは、問題発見、問題解決や意思決定、経験学習のような思考活動という答えなのですが、これは厳密にいえば正しくありません。問題解決がすべてコンセプチュアルスキルとは限らないからです。
例えば、交通事故が起こったときに、警察官が行うのは運転の仕方や運転者のスキルなどに基づく原因分析(問題発見)ですが、コンセプチュアルスキルではありません。コンセプチュアルスキルと言えるのは、なぜ、そのような運転をしたかを深く分析する問題発見です。
これは、洞察といわれる思考活動ですが、見えない部分を分析することが多く、事実かどうかははっきり分かりません。例えば、直線の先にあるカーブでスピードの出し過ぎで事故を起こしたときに、ブレーキが効かなかったという理由であれば見えることとですし、ほぼ事実だと言えます。しかし、ストレス解消のためにスピードを出していたが、先にカーブがあることに気がつかなかったとすれば、本人にしか分からない推測の世界です。
警察の仕事は本人の供述以外には認知されない世界ですが、ビジネスではこの部分をどう考えるかが勝負の分かれ道になることが多いのです。言い換えるとコンセプチュアルスキルが仕事の成否を決めると言ってもいいでしょう。特に、VUCA時代には失敗を成功の一プロセスとして捉えなくてはなりませんので、この問題は影響が大きくなります。
◆失敗を活かすためには
例えば、よく失敗を活かして仕事を進めると言いますが、なかなかうまくできません。その理由として失敗は許されないので、無視するしかないなどという主張が多いのですが、本当の問題は失敗を無視することではなく、失敗した理由、特に目に見えていない理由を十分に考えられるかどうかにあります。
研修などで同じケース(問題現象)に対して原因の分析をすると、組織によって全く答えが違うというのは珍しくないのですが、その違うを生み出しているのは、分析の深さだったり、分析の方向性だったりします。
この原因の分析が適切にできていると有効な改善ができますが、不適切だと問題を大きくするばかりになりかねません。
深さに関しては、なぜなぜ分析という手法があります。トヨタの5WHYで知られるように、原因を5回も深掘りすれば見なないところが見えてきて、適切な解に行き着くだろうとよく言われます。しかし、実際にトヨタの人の問題解決行動を見ていると5WHYは深さだけではないことがよく分かりますし、現になぜなぜ分析をして同じ回数、深掘りしても、トヨタの人と他の人では答えのクオリティが違うのです。
◆コンセプチュアルスキルはセンスのよい活動の源泉
これは一般的にはセンスと呼ばれます。「センスは知識からはじまる」(朝日新聞社、2014)を書いた水野学さんは、
「数値化できない事象を最適化することである」
と定義しています。問題解決にセンスがあるのは、答えの2つの案のどちらがいいとは言えないけど、明らかの善し悪しがあるということからも明らかです。
センスという概念を持ち込むと、
×問題解決はコンセプチュアルスキルである
〇センスのよい問題解決はコンセプチュアルスキル
となります。もちろん、問題発見や問題解決に限らず、意思決定をはじめ、多くの活動においては同じことが言えます。コンセプチュアルスキルとはそういうものです。
つまり、コンセプチュアルスキルを身につけるとは、問題解決の方法を知ることではなく、センスのよい問題解決ができるようになるということです。まず、ここが一つ目のポイントです。
◆「センスがよい」=「コンセプチュアルである」
PMstyleでは、「センスがよい」ことを「コンセプチュアルである」と言っています。例えば、センスのよい問題解決をコンセプチュアルな問題解決と呼んでいます。
問題解決をするときに、センスのよい解決策とイマイチの解決策を考える人がいるのは周知の事実でしょう。問題解決において、センスのよい解決策というとイメージするのは
・状況に適した解決策である
・本質的問題を解決する方向性にある
・新しい要素がある
・・・
といったことでしょう。
◆センスのよい活動、コンセプチュアルな活動をするには
では、センスのよい活動、すなわちコンセプチュアルな活動をするにはどうすればよいのでしょうか。これは、コンセプチュアルスキルを発揮するにはどうすればよいのかという問題です。
しつこいようですが、単に「なぜなぜ分析をやっています」というだけでは駄目です。これは言い換えるとセンスとは何かという問題でもあります。この領域の話になると、曖昧にしている人が多いのですが、水野さんが非常に興味深い考察をしています。それは
「知識とは紙、センスとは絵」
というものです。つまり、センスはひらめきではなく、知識があればあるほど、自由な絵を描くことができるというのです。
そのため、「誰もが見たことがある当たり前のもの」の知識を集めることから始まるといいます。そうしてアウトプットの方向性を予測し、そこで従来には無かったものを思いつくのがセンスだというのです。
仕事柄、イノベーションの話を聞くことが多いのですが、イノベーションはまさにそういうものだと思います。一見、全く新しいイノベーションでも、何らかの前提になっている知識があることが圧倒的に多いのです(ちなみに、この前提がないものは発明と呼ばれます)。
極論すれば、センスがよい前提は知識が豊富なことで方向性を定められることであり、さらにその方向性において新しいものややり方をひらめく創造性があることです。
◆センスはコンセプチュアル思考で実現できる
これをコンセプチュアルスキルの世界で考えると、まず、大局的に状況を捉え、考える範囲を決めます。と同時に、分析との行き来をしならが、考えるべき方向性を見極めます。おそらく、センスを実現する中で一番、難しいのはこの部分だと思います。
方向性を決める前提として一つあるのは時間的な(長期なのか、短期なのか)問題です。つまり、どのような時間のスパンで「誰もが見たことがある当たり前のもの」なのかを見極めることが重要です。そして、新しいものを考える際には、どのくらいの時間新しいものにするのかを見当をつけるのです。
これによって、どの範囲を、どのくらいの時間で考えるのがよいのかという調整ができます。
さらにその方向性で、ありそうでなかったものを探すためには、抽象化が有効です。つまり、当たり前になっているものの本質がなにかを抽象的に見極めると同時に、それを具象化して、これまでにはなかったものを探していくのです。
具象化ではひらめきが必要になってくることが多いです。そこで、センスをよくするためには、抽象的な本質を具象化する際には、直観的に考え、そのアイデアを論理的に整理するという思考をするとよいと思われます。
さて、以上のような思考でセンスのよい活動しようとすると、必ずしも答えが一つに定まらないという状況に陥ります。イノベーションがその典型ですが、そもそも、センスが必要な状況は正解がない状況です。すると、上の4つのうち、少なくても大局と分析、抽象と具象、時間については、何らかの主観的な判断が必要になります。ただし、単に主観で決めればよいというものではなく、その判断を客観的に見た時にどう見えるかを意識しながら、主観的な判断をしていく必要があります。
このように5つの視点から見て、統合しながら考えていくことによって、センスがよい活動ができるようになります。この5つの視点からの思考を、PMstyleでは「コンセプチュアル思考」と呼びます。
コンセプチュアル思考を一言でいえば、
複雑にからみあう事象を概念化することにより、ものごとの関係性や本質を認識している思考
となります。
このようなコンセプチュアル思考によって、センスを実現し、センスのよい活動をするコンセプチュアルスキルを実現することができます。
◆コンセプチュアルリーダーシップ
PMstyleでは、コンセプチュアル思考を実践し、センスのよいコンセプチュアルスキルで価値のある結果を出す活動をしている人をコンセプチュアルリーダーと呼んでいます。一言で言えば、
複雑にからみあう事象を概念化することにより、ものごとの関係性や本質を認識して、はっきりするリーダーシップ
がコンセプチュアルリーダーシップであることになります。
VUCAの時代には、組織の全員がコンセプチュアルリーダーシップを発揮できる必要があります。VUCAの世界では、誰かの指示を受けながら粛々と業務を行うという働き方は成立しません。先を予測して、細かい指示をしても、刻々と状況が変わって、すべきことが変わってくるためです。
最低限でも、大きな方向性を示されて、その方向に業務を進めていく必要があります。その際に重要なことは、大きな方向性に向けて進めていくときに、具体的にどのような仕事をすればよいかを判断するのは担当者自身だということです。
そう考えると問題は方向性の示し方です。示されるものを大きい方から、目的、目標、タスクとすれば、古くははタスクを指示されていました。つまり、ある目標を達成するためにどのようなタスクをすればよいかを示されていたわけです。
ここに目標管理が導入され、指示されるものが目標になってきました。して欲しいことを目標という形で決め、その達成方法は任せられるようになってきました。
ところが、VUCAの時代になって、その業務の途中で目標を変えざるを得なくなるケースが増えてきました。実際に業務を遂行している中で、目標を変える必要が生じ、上司に相談しようとしてもなかなか時間が取れないという話はよく耳にします。
このような実態を考えると、もう目標を示すことが難しく、目的を示して目標を調整しながら仕事をすることが少なくともチーム単位ではできる必要あり、チームリーダーはコンセプチュアルリーダーであることが不可欠です。
ただ、同じ構図はメンバー一人一人の仕事の中にもあり、程度問題ですが、全員がコンセプチュアルリーダーシップを発揮する必要が生じています。つまり、全ての人がコンセプチュアルリーダーであって欲しいのがVUCA時代なのです。
◆コンセプチュアルリーダー塾説明会
新しいコンセプチュアルリーダー塾では、2021年は「センス」をテーマに掲げ、個人とチーム/組織の両面から活動を行います。
個人向けの説明会では、コンセプチュアル思考を使いこなすことによって、センスのあるマネジメントや業務のできるリーダーを育成する場としての活動を説明います。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆コンセプチュアルリーダー塾説明会<個人編> ◆
日時:2021年05月12日(水) 19:30-21:00
形態:ZOOMオンライン
講師:好川哲人(有限会社エムアンドティ取締役)MBA
詳細・お申込 https://coceptual-leader.peatix.com/
主催:エムアンドティ
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1.コンセプチュアルリーダーとは
2.コンセプチュアル思考で、コンセプチュアルリーダーになる
3.コンセプチュアルリーダー塾のご案内
4.質疑
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◆コンセプチュアル思考とコンセプチュアルリーダーシップのセミナー
コンセプチュアル思考とコンセプチュアルリーダーシップに関して、以下のセミナーを開催しています。今なら、コンセプチュアルリーダー塾に参加していれば、受講料半額になります。
まず、コンセプチュアル思考の公開セミナーはこちらになります。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆コンセプチュアル思考のポイントと活用
~VUCA時代の思考法◆(7PDU's)
日時:2021年 05月 17日(月) 13:30-17:00
~05月 18日(火) 13:30-17:00
形態:ZOOMオンライン
講師:好川哲人(有限会社エムアンドティ取締役)MBA
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_thinking.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、共催:PMAJ
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【カリキュラム】
【第1日】コンセプチュアル思考に慣れる
1.コンセプチュアル思考のイメージ(アイスブレーク、講義)
2.コンセプチュアル思考を実践してみる(個人ワーク)
3.コンセプチュアル思考の原理を学ぶ(ワークの振返り、講義)
【第2日】コンセプチュアル思考を活用する
4.コンセプチュアル思考の実際(講義)
5.コンセプチュアル思考で変化に対応する
(個人ワーク、グループディスカッション)
6.コンセプチュアル思考で不確実性に対応する
(個人ワーク、グループディスカッション)
7.コンセプチュアル思考を応用した活動(まとめ)
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次に、コンセプチュアルリーダーシップのセミナーはこちらになります。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆コンセプチュアルリーダーシップ~VUCA時代のリーダーのセンスを高める ◆
日時:2021年 05月 27日(木) 13:30-17:00
形態:ZOOMオンライン
講師:好川哲人(有限会社エムアンドティ取締役)MBA
詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_leadership.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス、共催:PMAJ
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1.リーダー行動とコンセプチュアルスキル(1.0時間)
・仕事の目的を決める
・目的の実現方法を試行錯誤する
・メンバーが主体的に動くように働きかける
・チームに学習を促す
2.コンセプチュアル思考の活用で成果のセンスを高める(2.5時間)
・コンセプチュアル思考とは
・目的決定のセンスを高める
・目標設定のセンスを高める
・メンバーの主体的行動を促すコンセプチュアル思考の活用
・チームに学習を促す・学力におけるコンセプチュアル思考の活用
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