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2021年3月22日 (月)

【マネジメントスタイル:雑談12】リーダーシップか、マネジメントか

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Leadership5

◆はじめに

日本企業は改善活動が得意であり、競争優位の理由の一つであると多くの人が考えています。一方で、欧米、中国といった先進国が成長している中で、日本だけは成長が停滞しているという現実があります。

この問題について、目に見える問題現象を解決していく改善という活動に焦点を当てて、その利害を考えるとともに、VUCAの時代に対応するポイント点としてリーダーシップとマネジメントという視点から考えてみたいと思います。


◆「目に見える問題」だけに対処する限界

日本のコロナ対応をみていて改めて認識させられるのは、「目に見えている」問題の解決を繰り返していけば、いつかは真の原因にたどり着き、問題全体を解決できるという信念があることです。

直近で言えば、夜の飲食が感染源になっていることを発見し、飲食施設の営業時間に制限を加え、感染者数を一桁減らしました。しかし、現時点では下げ止まりをしており、リバウンドが始まったという状況です。

感染者の減少が止まったのは、よく言われるように飲食の制限だけでは効果に限界があるということなのでしょうが、飲食施設を応対のターゲットにしたのは。見えている範囲でもっとも大きな問題だと認識しているためでしょう。考えてみればこれまでもクラスターが生まれた高齢者施設、夜の街、劇場などに的を絞り、検査をして、感染者を減らすということを繰り返してきました。

このように「目に見える」範囲で類似施設を対策するだけでは、なかなか、根本的に感染を無くすのは難しいというのが現状だと思われます。


◆企業における問題解決への取り組み

これはコロナに限った話ではなく、企業で起こっている問題でも同じです。

日本企業の管理者や従業員は非常によく現象を観察しています。そして、望ましい状態からの乖離という問題現象が見えると、解決課題を抽出し、実行し、問題現象を解決します。いわゆる「改善」と呼ばれる活動です。ところが、問題は完全に消えず、別の問題現象として再現することが多くなります。現象として見えているのは問題の一部であり、全体はもっと大き(深い)な問題だからです。

見える範囲の問題を解決すれば、問題現象を無くすことはできますが、根本的な問題解決にはならないことが圧倒的に多いわけです。しかし、このような問題解決、課題実行を繰り返し行っていけば、いつかは問題全体を解決できるという考え方をするのが改善です。

日本企業の強みは改善ができることだとよく言われますが、問題はこのようなアプローチでは時間がかかり、改善をしているうちに問題の継続によって徐々に競争力が失われてくることにあります。バブル後の日本経済の衰退は、バブル崩壊の影響そのものより、改善発想が足枷になり、インターネットで高速化してきたビジネスのスピードについていけなかったことにあると思われます。

改善に着目すれば、企業には3つのタイプがあります。

一つは改善しようとしない企業です。これは今は少なくなっていましすが、それでも独裁的な経営者がいる企業などでは生き延びています。

二つ目は改善だけしている企業です。このタイプの企業がもっとも多く、持続的な改善によっていつか問題が無くなると考えていますが、実際には事業や作業の環境が徐々に変わるため、同じ問題が引き起こす問題現象も変わり、問題全体の解決はままなりません。

三つ目は改善と根本的な改革を持続的に行っている企業です。問題現象に対する解決を行いながらも、問題現象を引き起こしている本質的な問題を見つけ出し、抜本的な解決をしています。

バブルの崩壊後に、競争力を維持して、成長している日本企業は三番目のタイプだけだといえます。


◆成長への取り組み

問題解決に限らず、企業の成長も同じように改善との関係を見ることができます。

日本の戦後の復興を考えてみると、高度成長期には欧米の技術や製品より優れたものを開発するという方法で成長してきました。この成長において、国際競争力のある製品、技術力を初めとして多くの成果を得てきました。

ところが、このようなやり方では、当然のことながら欧米の製品に勝てるようになると成長が止まります。事実、そうなりました。

そこで、新たな成長のために取り組んだのが製品の改善でした。高度成長期の製品開発もキャッチアップし、さらにクオリティの優れたものにするという欧米の製品の改善だったのですが、新しく取り組んだのは新しい技術を適用することにより、パフォーマンスを向上させるような取組をしようとしました。しかも、継続的にこれを行いました。

つまり、製品コンセプト自体は変えず、適用技術をより優れたものにし、それによって顧客の要求を実現していくような開発をしていったのです。

これは上手くいった例があります。その代表が世界中を制覇したウォークマンです。ウォークマンは「音楽を持ち運ぶ」というコンセプトで、従来のポータブルカセットプレイヤーを超小型化したものです。録音しないとか、スピーカをつけないといった従来のオーディオにはない特徴があるので、「音楽を持ち運ぶ」という新しいコンセプトだとよく言われましが、著者は携帯オーディオとして本当に新しいコンセプトとを作ったのはiPodだと考えられます。これについてはこのあとをお読みください。

成長している時期には目先の競争相手に勝つことを目指して、製品を改善していけば、成長していくことができます。ところが、成長はいつか止まります。そこで求められるのは、改善点(課題)を探すことではなく、自ら「やりたい」ことを決め、それを実現していくことです。


◆インターネットの登場でパラダイムが変わる

80年代に日本企業が既存のコンセプトで、新しいテクノロジーによって顧客の要求に応えようとしていき、ウォークマンに代表されるように成功する例も出てきましたが、90年代になるとインターネットが登場し、世界が一挙に変わります。

インターネットで変わったことは、技術の使い方です。インターネットの技術的な基本は、70年代に考案されたハイパーテキストとTCP/IPプロトコールです。つまり、インターネットの開発の本質は技術ではなく、活用方法なのです。

最近、

馬田隆明「未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則」、英治出版(2021)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B08S6XH593/opc-22/ref=nosim

という本が出ましたが、この本の表現を借りれば、テクノロジーのイノベーションから、社会の変え方のイノベーションの時代になったわけです。

日本は、インターネットの登場時期にはトップを走っていました。それはWIDEプロジェクトに象徴されます。WIDEはインターネットというコンセプト上で、飛躍的なテクノロジーの開発にチャレンジするプロジェクトだったわけですが、日本の企業もそれまでの価値観(コンセプト)の延長線上で、飛躍的な技術をつくることによって成長できると信じていました。

ITに限らず、少なくとも90年代は、多くの企業が何かに役立つだろうと新しい技術を開発したり、あるいは顧客の声を集めて、その実現のために技術開発をするという活動に取り組んでいました。おそらくこれは開発を技術の改善活動として位置付けていたからだと思われます。

同じ時代に、米国では、アマゾンやグーグルといったインターネットの使い方を開発する企業ができて、それまでの時代には例のないようなスピードで成長していくわけです。言い換えると社会の変え方のイノベーションに取り組んでいたのです。


◆顧客の要求の本質を見抜く

顧客が欲しがっているものを作れば売れるというのは「顧客の要望を望ましい姿として、ギャップを無くしていく」という意味で改善の発想ですが、自分たちの「やりたい」ことを見つけるからといって顧客の声を無視してもよいというわけではありません。自分たちのやりたいことで社会を変えるためには、顧客の欲しいものの本質がどこにあるかは見極める必要があります。

顧客の要求の本質を見抜いて、社会の変え方のイノベーションに成功した例をご紹介しましょう。

マーケティング界の巨人の一人であるセオドア・レビットが言ったとされる「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という格言があります。この格言の最高の実践者はアップルのスティーブ・ジョブズでしょう。

ジョブズはソニーのウォークマンの全盛の時代に、iPodを開発して市場を独占しました。ジョブズがiPodを開発していた時代にソニーはデジタルオーディオ技術の向上に全力を上げ、デジタルの携帯オーディオでIC‐ウォークマンでデジタル携帯オーディオのシェアを取ります。

これに対してジョブズは「携帯オーディオを買う人が欲しいのは、外出先でも、いつでもどこでも音楽を楽しむことだ」と考えました。そこで、まず、iPodで膨大な量の音楽を持ち運ぶことができるようにし、この段階で携帯オーディオの市場を制覇します。ここでウォークマンとは持ち運ぶという概念が違うことに注意しておいてください。ウォークマンはカセットやICメモリというパッケージがありました。つまり、いろいろな場所で音楽を楽しむためには、パッケージに収納する音楽を選ぶ必要がありましたが、iPodはパッケージという概念を無くしたのです。壁を破りました。

さらに、iPhoneでは移動中に自由に音楽をダウンロードして聞くことができるようにし、その時の気分時代で音楽を楽しめるという環境を提供し、コンテンツ市場まで制覇します。このようにして、顧客の要求の本質を実現し、市場を独占したわけです。

ジョブズの成功の要因は、iPodやiPhoneというハードウェアではありませんし、デジタルフォーマットといった技術でもないことは明らかです。顧客の要求の本質を洞察し、それに応えることでした。

ちょっと脱線しますが、著者はiPodが登場してきた時期にちょっとした機会があってウォークマン開発の責任者と話をする機会がありました。このとき、彼は、音質は勝っているし、技術的にもiPod以上の容量を持たせることは容易にできると言っていました。結果として、ウィークマンは衰退していきました。競争の本質を見誤っていたわけです。


◆改善の限界

改善は目の前で起こっている問題や、顧客の要求に対して、対応していくことですが、日本人の得意な現場改善は、起こっている問題を解消することや、顧客の表面的な要求に応えることでした。改善でデジタルウォークマンはできても、iPoadはできなかったのです。できなかった理由は、顧客の欲しがるものは所詮自身が知っているものだからということに尽きます。

インターネットで自由に情報が入手できるようになっても、自分の認知を超えた情報を入手できる可能性は非常に小さいものです。だからこそ、ジョブスがそうだったように開発者が自分のやりたいこと、ほしいものに拘る必要があるのです。

この問題に対して、例えば、カスタマージャーニーにような形で、顧客の要求を拡大していこうという方法が取られるようになって来ています。

カスタマージャーニーを架空の経験の共有のような位置付けて使っているプロジェクトもありますが、これは、経験が役立つことを前提としています。しかし、経験を役立てるためには、経験から何を読み取るかが重要で、目に見えている経験から直接的に得られることは少ないものです。ましてやVUCAの時代になって、何が起こるか分からないという中では経験から何を読み取るかがすべてだと言ってもよいでしょう。

そこから何を読みとるかは、結局提供者側のコンセプチュアルスキルの問題だということです。


◆失敗を成功の一部だと考える

こういう流れの中でもう一つ、重要なことがあります。それは失敗を成功の一部だと考えることです。これは、VUCAな世界での活動にとって極めて大切なことです。

プロジェクトXを見ていると、昔の人たちはそういう発想だったと感じることがあるのですが、今の時代、部下に「失敗してもいい」と言っている多くのbマネジャーやリーダーの本音は「失敗は悪だ。できれば失敗はしたくない」です。

一昔前なら、経験により、部下がやることは上司はその成否を見極められていました。ところが、今は違います。技術ややり方のライフサイクルが短くなり、直接、類似の経験をすることも珍しくなりつつあります。

やり方どころか、VUCAではゴールすらも正しいかどうかを誰も判断できないことが珍しくありません。このような環境においては、上司は部下がやろうとしていることがうまく行くかどうか分かりません。だから、「失敗してもいいよ」というわけです。

しかし、VUCAな世界では、失敗は成功の可能性を高めるものに他なりません。失敗すれば成功の可能性がだんだん高まってくるわけです。

「失敗は悪ではなく、善」、つまり、「成功するためには失敗しなくてならない」のです。これは単なる精神論ではだめで、評価制度をはじめ、多くの制度の変更を必要としますが、こういう発想が必要です。

この議論は改めてしたいと思います。


◆マネジメントか、リーダーシップか

「正しい物事を行うのがリーダーシップで、物事を正しく行うのがマネジメントである」とよく言われます。事実、多くの組織よりマネジメントより、リーダーシップが重視されているのも事実です。ゴールが分からない中で成果を上げていくには、リーダーシップが重要です。これも、また、VUCAの時代だからでしょう。

ただ、一方で、ヘンリーミンツバーグがいうように、「最良のリーダーシップは質の高いマネジメントという形で実践される」ことも事実です。間違った方法では、正しい物事を考えることはできても、実行できないからです。

プロジェクトにおいても、プロジェクトリーダーとプロジェクトマネジャーをおいて、プロジェクトの進むべき方法とその方法の責任者を決めている企業もありますが、うまくいったプロジェクトでは、プロジェクトリーダーとプロジェクトマネジャーの間のコミュニケーションが良かったという振返りがあることが多いそうです。

余談になりますが、PMBOK(R)では。プロジェクトリーダーはプロジェクトスポンサーと呼び、プロジェクトマネジャーと双頭体制で進めることになっています。ところが、プロジェクトリーダーが機能している企業は珍しいと思われます。VUCAの時代には、プロジェクトリーダーが機能しなくては成果は生まれません。成果物=成果ではないからです。

ただし、マネジメントの重要性は低くなってきている理由は、マネジメントの問題だと思われます。例えば、ゴールのはっきり決められない業務において、詳細な計画を作り、厳密に進捗管理していくとが正しく行っていることになるとは思われません。

VUCAの時代には、マネジメントもまた新しい形が必要なのだと考えなくてはなりません。この記事では述べませんが、これから議論していきたいことです。どのあたりがポイントになるかは、こちらの記事をお読みください。

「VUCAな世界のマネジメントにはどのようなスタイルが適しているか」
https://note.com/ppf/n/n11b23dc86521


◆VUCAマネジメント塾のご案内

このような場としてVUCAマネジメント塾を作りました。興味がある方は登録をお願いします。こちらです。

「VUCAマネジメント塾 ~ VUCA時代のマネジメントスタイルを探求する」
https://www.facebook.com/groups/vucamgmt

◆2021年4月以降のコンセプチュアルマネスキルスキル&マネジメント講座

━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆コンセプチュアル思考のポイントと活用
              ~VUCA時代の思考法◆(7PDU's)
 日時:2021年 05月 17日(月) 13:30-17:00
         ~05月 18日(火) 13:30-17:00
 形態:ZOOMオンライン
 講師:好川哲人(有限会社エムアンドティ取締役)MBA
 詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/conceptual_thinking.htm
 主催 プロジェクトマネジメントオフィス、共催:PMAJ
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【カリキュラム】                     
【第1日】コンセプチュアル思考に慣れる
1.コンセプチュアル思考のイメージ(アイスブレーク、講義)
2.コンセプチュアル思考を実践してみる(個人ワーク)
3.コンセプチュアル思考の原理を学ぶ(ワークの振返り、講義)
【第2日】コンセプチュアル思考を活用する
4.コンセプチュアル思考の実際(講義)
5.コンセプチュアル思考で変化に対応する
  (個人ワーク、グループディスカッション)
6.コンセプチュアル思考で不確実性に対応する
  (個人ワーク、グループディスカッション)
7.コンセプチュアル思考を応用した活動(まとめ)
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━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆クリティカルシンキング入門~考え抜く技術◆(7PDU's)
 日時:2021年 05月 20日(木) 13:30-17:00、
          05月 21日(金) 13:30-17:00
 形態:ZOOMオンライン
    ※ZOOMによるオンライン開催です。2日間に分割して開催します
    ※少人数、双方向にて、演習、グループディスカッションを行います
 講師:鈴木道代(プロジェクトマネジメントオフィス,PMP,PMS)
 詳細・お申込 https://pmstyle.biz/smn/critical.htm
 主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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  【カリキュラム】
   1.クリティカルに考えるとは
   2.ロジカルシンキングとその落とし穴
   3.何を疑うのか(合理性)
   4.何を疑うのか(内省)
   5.クリティカルシンキングの4ステップ
   6.具体的状況におけるクリティカルシンキング演習
   7.クリティカルシンキング総合演習
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