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2021年3月 9日 (火)

【PMスタイル考】第174話 プロジェクトマネジメントに魂は必要か

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Tanbou◆はじめに

前回、プロジェクトに「心理的安全性は必要か」という議論をした。

【PMスタイル考】第173話 プロジェクトには心理的安全性が必要か
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2021/02/post-8fd0.html

今回は前回の続きで、心理的安全性を危うくするのは何かという話だ。


◆魂なきマネジメントをおこなうための5つの簡単な方法

ヘンリー・ミンツバーグが自身のブログの中から42編選んで作った書籍
「これからのマネジャーが大切にすべきこと」(ダイヤモンド社、2021)
の中に、非常に興味深い部分がある。それは、第5話の「「魂なきマネジメント」の蔓延」というブログ記事の中にある、
「魂なきマネジメントをおこなうための5つの簡単な方法」
というリストで、この中の一つだけ実行すれば魂なきマネジメントがを実践できるというものだ。ちょっと長くなるが、転載しておく。以下の5つだ。

(1)ひたすら財務諸表を気にしてマネジメントを行う。製品やサービスや顧客を尊重するより、お金をマネジメントすることによって利益が得られると考える。
(2)あらゆるこを計画通りにおこなう。物事を自然な流れに任せたり、その過程で学習したりすることは一切拒否する。
(3)マネジャーを頻繁に人事異動させ、流行のマネジメント手法以外は何も詳しくない自分物をつくり上げる。
(4)原材料や設備などの「資源」を売買する感覚で、「人的資源」を雇ったり首にしたりする。
(5)あらゆることを「5つの簡単な方法」の類に従って行動する。


◆簡単な調査

この記事はマネジメント全般に書かれたものだが、プロジェクトには魂が必要なのだろうかと思って、プロジェクトマネジャー(スポンサー)としてはリタイヤしている人数名に意見を聞いてみた。細かい話はあとで紹介するが訊ねた人全員が昔のプロジェクトのマネジメントには「魂が必要だったし、あった」と言っていた。

同時に、現役の若手のプロジェクトマネジャー数名にも意見を求めた。結果は割れて、3名は必要ない(ただし、うち2名はなかなかできないとのコメントあり)、1名が必要だというものだった。

これらの調査で出てきた必要だと思う理由は

・コストを抑えても、顧客が満足しなければ意味がない
・現場を管理するのはプロジェクトマネジャーだから数字だけではない
・計画はあくまでも目安だ。生産性のようにあまり根拠のない目標が入っている
・人的資源はパフォーマンスが変動するので、メンバーと同じように扱う

といった意見だった。逆に、必要ないと思うという理由は

・コストを守らなくてはプロジェクトとしては失敗だ
・いくら良い成果物を作っても、予算オーバーしたのでは意味がない
・計画通りに進まないとプロジェクトは破綻する
・学習はKPTに分けて、実践できるものだけ実践する
・人的資源は調達できなくてはプロジェクトは計画通りに進まない
・コストを調整するために、人的資源は有力な武器になる
・プロジェクトは短期勝負なので、魂などと言っている余裕はない

といったものだった。双方の意見ともよく分かるが、改めてPMBOK(R)の影響力は凄いなと思った。


◆魂のある組織とは

お気づきの方もいらっしゃるだろうが、実はこれまでに「魂のある」組織やマネジメントとは何かは定義していない。

実は、ミンツバーグのブログ記事でも明確な定義は書かれていない。ただ、長年に渡り組織論を研究してきたミンツバーグは組織に魂があるかないかを瞬時に感じ取れるときがあるという。

また、同じ記事の中で、魂のあるホテルのエピソードも出てくる。娘さんと一緒に宿泊したホテルで、レストランのウェーターにバイキングコースについて尋ねたり、受付の女性と話をしたり、ベットにおいてあるクッションをみたり、支配人や副支配人の勤続年数を尋ねたりしていると魂のあるホテルであることが分かった。

娘さんに「魂のあるってどういうこと」と聞かれて、「見ればすぐに分かるよ。それは職場の隅々に現れるんだ」と答えている。そして、魂のないマネジメントは、一度、構築した素晴らしい組織を崩壊させると指摘している。


◆魂のある組織は魂のないマネジメントで崩壊する

このブログ記事の冒頭で、ある産科医から聞いた話だということで、以下のようなエピソードを紹介している。

研修時代のいくつもの病院を行き来する日々を振り返ってみると、働くのが楽しいと感じる病棟があったそうだ。とても「幸せな職場」で、看護師長の気遣いの賜物だったという。彼女は思いやりがあり、すべての人を尊重し、医師と看護師のチームワークづくりに気を配っていた。

やがて、その看護師長が退職し、MBAを持つ看護師が後任に就いた。新しい看護師長は人の話を聞くこともなく、いろいろと問題点を指摘し始めた。看護師たちには厳しい態度で接し、厳しい言葉を投げかけた。以前は勤務開始前には笑いがあったが、今は誰かが鳴いていることも珍しくなくなった。看護師の士気は下がり、すぐに医者にも伝染し、わずか2~3ヵ月で素晴らしい職場が崩壊した。昔はわれ先に出勤していたが、もうその病棟に行くのは楽しくなくなっていた。

最初の看護師長のいたときの病棟は魂のある組織で、MBAの看護師長が就任した後の病棟は魂のない組織だということになる。魂のある組織は、魂のないマネジメントであっというまに崩壊したのだ。


◆プロジェクトの規模は魂づくりに影響があるか

この話を読んで、どう感じるだろうか。

まず、事実として捉えておきたいことは、一つの病棟の雰囲気が崩壊するのはあっという間だということだ。著者もこういう状況のプロジェクトに何回遭遇したことがあるが、実際のところ速い。おそらく、MBAの看護師長のようなプロジェクトマネジャーであれば、プロジェクトでチームビルディングする以前に崩壊するだろう。また、チームビルディングができて、順調に進んでいても、ちょっとした行違いからこういう状況になるのも数回見ている。これもあっという間だ。

このように考えると、プロジェクトマネジメントに魂が必要かどうかを議論するに当たって、プロジェクト期間が短いというはあまり関係がなさそうだ。

では、プロジェクトのメンバー数と魂はどういう関係があるのだろうか。病棟の例はせいぜい、数十名くらいの組織だろうから魂のある組織でつくうことは可能だ。メンバーの数が多くなれば、そもそも、魂のある組織をつくることは難しいのではないだろうと思った人もいるだろう。

確かにそういう一面はあるように思える。人数が多くなれば、魂のある組織をつくるのは難しくなる。プロジェクトも例外ではない。数名から数十名程度のプロジェクトでは、魂のあるプロジェクトを魂のあるマネジメントで動かしているケースも見かける。一方で、数百人といったプロジェクトが魂のあるプロジェクトだと思ったことはほぼない。

著者が大きなプロジェクトで魂があると感じたプロジェクトはリーダーが素晴らしかった。プロジェクトの中のサブチームのリーダーシップが素晴らしく、プロジェクトマネジメントもチーム単位でみれば、マイルストーンを守る以外は計画にはあまり拘っていない。これは、プロジェクトは一つであり、ばらばらに仕事をしていてもマイルストーンで全体が統合されることをよく理解しているからである。これは、リーダーがメンバーにそのことを繰り返し伝え、メンバーはオーナーシップを持っているからだろう。

重要なことは、このようなプロジェクトは各サブチームは自分たちのやり方で作業を進めていても、全体に一体感があることだ。これは魂のあるプロジェクトということだろう。

そして、その魂のあるプロジェクトをつくっているのはトップに立つプロジェクトマネジャーのリーダーシップだろう。例えば、プロジェクトの中でチームを超えて作業を協業したり、あるいはプロジェクト内の別のチームに人を動かすことがあるが、そのフォローをプロジェクトマネジャーがきちんとしている。これは、魂のあるプロジェクトにするためのマネジメントだと言える。


◆コミュニケーションと魂

プロジェクトマネジメントには、コミュニケーションマネジメントというマネジメントがある。コムにケーション計画が相当緻密でなくてはプロジェクトを計画通りに進めていくことは難しい。

ところが、逆に魂のあるプロジェクトにしていくためには、計画的なコミュニケーションは阻害要因になっていることが少なくない。これは計画について回る義務感のようなものがもたらす影響かもしれないが、魂をつくるコミュニケーションが不足するからだだと思われる。

例えばアジャイルプロジェクトのように、自然の流れに任せてコミュニケーションを取っていると、結果として魂のある組織といえるプロジェクトになっていく。その意味で、狭い意味でのコミュニケーションマネジメントは魂を排除するマネジメントなのかもしれない。

ここでコミュニケーションの密度は、コストや進捗に大きな影響を与えることに注意しておく必要がある。著者の知り合いにコミュニケーションマネジメントは一切せずに、プロジェクトは計画通りに成果物を作り出すのが理想だと考えるプロジェクトマネジャーがいた。結局、コミュニケーションマネジメントをするという結末になるプロジェクトが多かったという。現実には、予算にしろ、スケジュールにしろ、計画的なコミュニケーションで計画的に積み上げていくことが必要なタイプのプロジェクトが多いのだ。

一方で、VUCA時代のプロジェクトや、事業変革や組織変革などの複雑で先の見えないプロジェクトでは、積み上げよりは試行錯誤が重要である。このようなプロジェクトにおいてはコミュニケーションマネジメントはコミュニケーションの阻害要因、ひいてはプロジェクトの阻害要因になりかねない。


◆心理的安全性で魂のあるプロジェクトをつくる

このように考えてみると、試行錯誤が必要なプロジェクトにおいては、魂のある組織やマネジメントが必要だと考えられる。問題はそのためにはどうするかということだ。仮に、魂のある組織は、魂のあるマネジメントの結果だと考えると、どういうプロジェクトマネジメントが必要なのかという議論になる。

この議論には答えはないかもしれない。例えば、

・プロジェクトチーム編成の工夫
・チームマネジメントの工夫
・プロジェクトプロセスオンアジャイル化
・プロジェクトチームのアジャイル組織(自律分散組織)化

など、有力だと思われるアプローチはいくつかあるが、いずれにしても、必ずそれでうまくいくというものではない。ただし、これらも含めて試行錯誤が必要なプロジェクトに共通したマネジメントのポイントがある。それは、心理的安全性を高めることである。

心理的安全性が高くないと、魂のある組織やプロジェクトにはならないし、魂のあるプロジェクトマネジメントではプロジェクトは動かないだろう。特に、(1)や(2)の実行によって魂のないマネジメントになってしまうだろう。

結局のところ、魂のある組織とはリーダーがさまざまな気配りをし、そこに集う人が幸せだと感じる組織をつくることだろう。そして、その気配りがマネジャーのすべき魂のあるマネジメントだ。

プロジェクトでいえば、プロジェクトマネジャーがあらゆる気配りをし、プロジェクトを参加者が幸せだと感じる場にする。実はこれはステークホルダーマネジメントの問題なのだ。

ステークホルダーマネジメントというと、プロジェクトに協力してくれない人を巻き込み、プロジェクトの協力してくれる人を推進力にしていくマネジメントである。そのマネジメントの方向性はプロジェクトの成果物に焦点を当てて進めていく。

志向錯誤が必要なプロジェクトではその方向を捨て、すべてのステークホルダーに心理的な安全性を与える場を作ることにステークホルダーマネジメントの焦点を絞るといいだろう。そのような場を作ることによって、プロジェクトの成果が生まれる可能性が高くなる。そのような前提のマネジメントが必要だ。

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