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2019年1月11日 (金)

【PMスタイル考】第143話:ソリューションからセンスメイキングへ(2020/03/23改訂)

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Sensemakiing1

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◆センスメイキングとは

今回は少し大きな話をしたい。これからはソリューションの時代ではなく、センスメイキングの時代になるだろうという話だ。

多くの人はセンスメイキングという言葉や概念は聞いたことがないかもしれないが、これからの10年くらいのキーワードになってくるのではないかと思う概念だ。

2018年に読んだ本の中でもっとも素晴らしかった本として、クリスチャン・マスビアウの「センスメイキング」を選んだ。

クリスチャン・マスビアウ(斎藤栄一郎訳)「センスメイキング」、プレジデント社(2018)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833423065/opc-22/ref=nosim

この本が英語で出版されたのは、2017年である。

「Sensemaking: What Makes Human Intelligence Essential in the Age of the Algorithm」
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1408708361/opc-22/ref=nosim

この本でマスビアウは、

センスメイキングとはアルゴリズム思考の対極にある概念であり、自身の文化の土台になっている先入観や前提を捨て去り、対象世界の文化を調べ、全方位的に理解し、意味付けをすること、一言でいえば「本当に重要なものを見極めること」である

と説明している。

著者がセンスメイキングという言葉を初めて聞いたのは、カール・ワイクの

カール・ワイク(遠田 雄志、西本 直人訳)「センスメーキング イン オーガニゼーションズ」、文眞堂(2001)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4830943807/opc-22/ref=nosim

を読んだときだ。

組織文化との関係を知りたいと思って読んだのだが、この本は結構難解で、気になりつつ、そのままになっていた。2017年にマスビアウの本を読んだときに非常によくわかり、なぜ、欧米で注目されているかも理解できた。ちなみにマスビアウを読んだあとで、カール・ワイクを読み直してみたら、かなり理解が進んだような気がする。



◆ソリューションからセンスメイキングへ

さて、マスビアウは問題解決には問題を解決すること自体が「役に立つ」活動と、漠然とした課題に対して活動の「意味付け」をすることによって課題解決を図る方法があると考えている。

前者はソリューションと呼ばれ、後者がセンスメイキングであるが、マスビアウの目には今のビジネスはソリューションが圧倒的に重視されていると映っているようだ。その上で、いくつものセンスメイキングのコンサルティング事例を取り上げ、また、デザイン思考への批判も兼ねて、「意味付け」の重要性を主張している。

そして、時代はソリューションからセンスメイキングに移ってくると主張している。一言でいえば、ソリューションの効力が薄れている今、「本当に重要なものを見極める力」が必要で、それがセンスメイキングだという。

ソリューションに限界が見えるというのはよくわかる。これまでは解決しなくてはならない課題や問題があり、それを解決することによってビジネスが成り立ってきた。言い換えると「役に立つ」サービスを提供することによってビジネスが成立していたのだ。戦後、日本企業が急速に発展してきたのはこのようなビジネスが前提になっていた。

しかし、ここにきて雲行きが怪しくなっている。実際に問題を抽出し、問題解決策を考え、ソリューションとして実行してみてもあまり効果がなかったというケースが増えている。ソリューションの質が落ちているわけではない。


◆ポイントは課題や問題へのアプローチ

このような時代の一つの乗り越え方は、アマゾンのように課題を構成しているさまざまな問題に対して役に立つサービスを網羅的に提供することだが、これは現実にはなかなか難しい。世界的に見ても、アマゾン以外で成功している例は見られない。

では、どうすればよいのか?課題や問題へのアプローチにポイントがある。

興味深い例は、今、歴史的な転換点にあると言われる自動車だ。ソリューションの時代には、「役に立つ」自動車、例えば操縦性がよい、積載量が大きい、燃費がよいといったことを実現した自動車が売れていた。日本の自動車が売れているのもそうだが、もう新しい問題は残されていないし、ソリューションも出尽くした感がある。実際に日本車のように機能改善をしていっても、画期的なソリューションは出てこないだろう。だからイノベーションという話になるのだが、そもそも、イノベーションの余地が残っていない。

さらに、自動運転になると、画期的なソリューションは登場してくることは期待できない。「役に立つ」をいう観点からは、いわゆる、コモディティになっていくだろう。

そこで注目されるのが「意味がある」という観点だ。意味があるというのは、その人の人生にとって意味があるということだ。自動車の例でいえば、例えばその車に乗ることに喜びを感じるといったことだ。

ランボルギーニという車を考えてみてほしい。「役に立つ」という観点からは、燃費も悪いし、積載量も小さいので日本車の方が優れている。しかし、「意味がある」かどうかという観点からは明らかにランボルギーニの方が上だ。ランボルギーニに乗る人は自分の人生にとって意味があるから乗っているのだ。

このように「意味がある」あるいは、「意味付けをする」ことがセンスメイキングであり、「役に立つ」ソリューションの効力が小さくなってきた今、新たなアプローチとして期待されている。


◆センスメイキングの事例

センスメイキングに関して、マスビアウ氏が興味深い事例を挙げているので紹介しよう。認知症の介護の課題だ。

この課題に対して、高齢者の多い国の多くの施設では、問題の分析を行うと、解決する資金と要員が不足が不足しているので、ソリューションを提供するために身体介護に重点を置き、標準化し、コストダウンをすると同時に作業を単純化し、従事できる介護従事者を増やすアプローチを採っている。

日本でもこのようなアプローチをとり、介護従事者の賃金が安く、要員が足らないため、十分な介護ができないという壁に遭遇している。このように問題事象の解決をしても課題の解決にはならない。

ところがある施設で、「社会的文脈の中で一人一人の利用者を知り、その人のニーズに最適な方針を打ち出す」というアプローチを始めた。この施設では、センスメイキングを行い、それそれの被介護者や介護人にとってもっとも意味のあることを考えることによって、各被介護者にとって最適な介護方法を考えた。

すると、コストも下がり、もっとも効率的な方法であることが分かったという。

つまり、個々の被介護者にとっては満足度の高い介護活動が提供できたと同時に、介護活動自体がスムーズになり、徒労が格段に減少した結果、トータルのコストが下がるとともに、介護スタッフの目的が明確になり、意欲が高まった。


◆現実的とセンスメイキング

このように通常のビッグデータやロジカルシンキングなど数理的な問題解決によるソリューションでは出てこないようなアプローチをセンスメイキングにより発見でき、システムをうまく機能させることによりより効率的な解決を可能にする。

現実に今残っている多くの問題は、数理的なアプローチではできなかった、すなわちソリューションが見つからなかったものがほとんどである。このような問題に対して有効な解決方法を見つけることができるセンスメイキングが重要になってくるのはある意味で当然だといえるだろう。

そうはいっても、ビジネスの場でいきなり、「役に立つかどうかはどうでもいい、乗り手が走る喜びを感じる車を作る」といってみても、おそらくビジネスにならないという一言で片付けられてしまうだろう。ここをどうするかがセンスメイキングのアプローチの課題である。


◆「役に立つ」と「意味付け」の統合

この課題に対して効果的だと考えられるのは、「役に立つ」と「意味がある」を統合することだ。自動車でいえば、BMWやベンツ、Audiといったドイツ車がそのようなアプローチをとっている。これらは役に立つと同時に意味も持たせている。

ここが日本車との根本的な違いになり、その違いは価格差になっている。役に立つという観点からみれば同じようなレベルの自動車が2~3倍の価格つけされている。

このような「役に立つ」ことと「意味付けする」ことを統合することは、コンセプチュアル思考の軸と整合していることが分かる。つまり、主観や直観の世界でビジョンを考え、それを論理的、客観的に具体化していくことによって新しい製品を生み出すことによって、その人にとって意味のある製品が生まれてくることが期待できるだろう。


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