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2014年12月15日 (月)

【PMスタイル考】第95話:コンセプチュアルスキルで顧客の期待を超える

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◆iPhoneは顧客の声で作れるか

Suprise

アップルもスティーブ・ジョブズからティム・クックにバトンが渡り、ジョブズの時代には考えにくかった宿敵IBMとの提携など、独自の戦略でさらなる成長をしようとしています。同時に、製品はあまり目新しさがなく、それを批判する人もいますが、まあ、そこは、価値観の問題だといえるでしょう。

最近のアップルを見ていて思ったのは、iPhoneの最新バージョンであるiPhone6は最初の1ヶ月でこれまでにもっとも売れた製品ですが、iPhone5からiPhone6は顧客の声を聞いていたら作れそうな気がします。実際にスペックを見てもたとえばサイズを大きくしたことなど、顧客の声を取り入れて作ったように見えます。

ところが、初代のiPhoneは顧客の声を聞いていてもできなかったでしょう。そもそも、この段階では顧客とは誰かという問題もありました。iPhoneの2代目以降は主たる顧客は既存ユーザで比較的明確だったわけですが、顧客の声をあまり聞かないという傾向はiPhone3くらいまでは顕著だったように思えます。

良くいえば、顧客の期待を超える製品を出し続けてきた結果として、今のiPhoneがあると言ってもいいでしょう。事実ジョブズの有名な言葉に「ユーザは自分が何が欲しいのか分かっていない」という言葉がありますが、まさにこの前提で顧客の期待以上の製品を生み出してきたといえるでしょう。

今回のテーマは、顧客の期待を超えるにはどうすればよいかを考えてみたいと思います。


◆狩野モデルの品質モデル

さて、この議論の本質は顧客の声に応えるというのは絶対的な価値提供ではなく、要求の満足度というのは相対的な部分が多いという点です。

この問題に対して、品質マネジメントやマーケティングの分野で有名な狩野モデルというモデルがあります。これは狩野紀昭博士が品質のモデルとして考案されたもので、顧客要求には

・不満要因
・満足要因
・魅力要因

の3つのレベルがあるというものです。

不満要因とは、製品に期待されている要求事項で、顧客はあることが当然だと思っているので、それが実現されないと不満を感じます。たとえば、スマートフォンでいえば電話の通話品質が悪ければ不満要因になるでしょう。

満足要因は顧客が望んでいると明言している要求事項です。例えば、スマートフォンであれば、デジタルカメラに代替する高画質の写真撮影機能があることは満足要因になるでしょう。

このモデルの特徴は魅力要因というレベルを考えていることです。魅力要因は顧客の予期していなかった機能を提供することで顧客にサプライズを与える要因です。スマートフォンでたとえば、ハードウェアのモジュールを自由に組み合わせて、カスタマイズされたスマートフォンになることは魅力要因になるでしょう。

不満要因があれば競争力をなくしますが、今の時代、期待通りの満足要因だけでは競争には勝てません。顧客を本当に満足させ、競争に勝つには、魅力要因が必要です。言い換えると、顧客の期待を上回ることが必要なのです。


◆欲求、要求、要件

では、魅力要因を実現するにはどうすればよいのでしょうか?いろいろな方法があると思いますがは、今回はこの問題をコンセプチュアルスキルという観点から考えてみたいと思います。新技術やビジネスモデルではなく、コンセプチュアルスキルで実現することがもっとも合理性があると思うからです。

議論に入る前に、言葉の整理をしておきたいと思います。実はこれがもっとも重要なポイントだといっても過言ではありません。

「顧客が求めるもの」を表す言葉として、欲求、要求、要件という言葉がありますが、違いはお分かりでしょうか?

欲求はほしいものですが、必要であるとは限りません。顧客にどんなものが欲しいですかと聞くと、欲求が返ってくることが圧倒的に多いです。

欲求がどのような意味を持つかは、生産財か、消費財かによって大きく違うと考えられます。消費財であれば欲求の赴くままに購買行動に走る可能性も低くありません。しかし、生産財であれば、まずそれはあり得ません。合理的な必要性がないものは購買されないからです。

つまり、欲求の中で必要なものが要求です。上に述べたように生産財が購買されるには、合理的な要求が必要なのです。

しかし、要求に合理性があれば、必ず購買されるとは限りません。費用の制約があるからです。要求は合理的でも予算がなければ購入できません。そこで、予算との整合性が問題になります。つまり、コストを考えて、要求の中から実現する機能を選びます。これが要件と呼ばれるものです。


◆顧客は要求を教えてくれない

ここで話をややこしくしているのが、要求の表現方法です。人はしばしば、要求を一つの欲求として言います。たとえば、デジカメに代替する高解像度の写真機能が欲しいと言ったとします。これは欲求ですが、文字通りなのかどうかは分かりません。ひょっとすると、顧客は解像度を望んでいるのではなく、結果としてきれいな写真が撮れることを高解像度と言っているのかもしれません。自分がぼんやりとほしいと思っているものを手に入れるには何が手に入ればいいのかを明確に言い当てることは一般のユーザでは難しいからです。

その場合、欲求は何かの象徴であり、欲求としてとして言っていることと実際に要求しているものが違うわけで、まさにジョブズの言うとおり、何をほしいのか知らないということになります。ましては、ITの要求分析のように、顧客の要求を具体的に表現してくれと迫ることすらありますが、それは本質的に無理があるわけです。

つまり、顧客は何が欲しいか漠然とは分かっているわけですが、具体的に何が欲しいかと聞かれると自分の知っている範囲でそれを表現します。それが世の中にないものですと、既存の製品に加えてこれといった表現になることが多いわけです。

そこで、耳を傾けるべきなのは問題は欲求ではなく、要求です。ただし、上に述べたように顧客がそれを教えてくれるわけではありません。


◆要求とは欲求から本質を抽出したものである

具体的な欲求から本質的に必要なものは何かを抽出したものが要求です。つまり、個々のユーザが考える具体的な欲求を、抽象化し、要求を洞察していくわけです。

もちろん、抽象的な要求では実現することができませんので、要求にコストなどの制約を加味して、最終的には要件として具体的な仕様にしていくわけです。

さて、では、欲求ではなく要求を考えること、言い換えるとほしいと言っているものを抽象化することにどんな意味があるのでしょうか?

欲求を顧客やユーザの具体的な「声」を製品として作りこんでいっても顧客を満足させることはできても、顧客の声を超えることはできません。つまり、魅力要因を考えだすことはできないことになります。

そこで、上に述べたように要求を欲求を抽象化したものとしてまとめます。そして、実現するために要件に落とすところで、想定していないものを考えるのです。そうすれば、顧客の期待を超える要件ができることになります。


◆本質的な要求とは

スマートフォンの例でいえば、欲求としては高解像度のカメラもほしい、高品質のオーディオもほしい、あれもほしい、これも欲しいという話になります。一方で、小さくしてほしいとか、軽くしてほしいとかいう欲求も出てくるでしょう。

そこで、要求としてはこれらから実現する機能を選んだり、形状や重量に折り合いをつけるわけですが。ここで、本質的な要求は何かということを考えてみます。

そしてたとえば、そのユーザにとって必要な情報機器の機能をスマートフォンに集約し、機能をできるだけ小さく、軽く収めるという答えに行きついたとします。これが本質で、、ここから考えると具体的な形としてたとえばモジュール化という要件が出てくることはそんなに突拍子もないことではありません。

これが本質的な要求を見極め、具体化することにより、顧客の期待を上回るということに他なりません。

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