【プロデューサーの本棚】レジリエンス 復活力
アンドリュー・ゾッリ+アン・マリー・ヒーリー「レジリエンス 復活力--あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か」、ダイヤモンド社(2013)
急激な状況変化が起こることの多い時代に適応する注目の新コンセプト「レジリエンス」について事例を紹介しながら、体系的に解説した一冊。急変に適応できる高い組織や機関、システムはどうすれば構築するにはどうすればよいかを「レジリエンス」を軸に考察している。
さまざまな分野で急激な変化が避けられない現在において、新たな方向性となるレジリエンスのバイブルだといってもよい一冊。読み物としても面白い。
レジリエンスという言葉は、分野によって微妙に異なる意味でつかわれている。土木においては一般的には橋や構造物が損傷を受けたときにベースラインまで回復する性能を意味している。
緊急対応では、生活に欠かせないシステムが地震や洪水の被害からどのくらいのスピードで復旧できるかを指している。日本でレジリエンスという概念が注目されるようになったのは、東日本大震災からであった。
生態系では回復不能な状態を回避する生態系の力を意味している。
心理学では、トラウマに効果的に対処する個人の能力を意味する。
ビジネスにおいては、自然災害や人災に遭遇しても業務を継続できるようにバックアップを整備する意味でつかわれる。
これからわかるように共通しているのは、継続性と回復である。
これらの意味を考慮して、本書では、レジリエンスの一般的な意味として
システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したときに、基本的な目的と健全性を維持する力
と 定義している。レジリエンスの概念をより明確にするために、本書ではレジリエンスではないものを示している。それによると、まず、ロバストネス。ピラミッ ドは何千年と存在し続けるだろうが、一度崩壊してしまうと自力で復元することはない。ロバストであるが、レジリエンスではない。
二つ目は冗長性。レジリエントなシステムは冗長であることが多いが、平常時は効率の阻害要因となり、さらに状況が大きく変わると有効性を失う可能性をはらんでいる。その意味で平時に健全性を含んでいるとはいえず、したがって、冗長=レジリエンスではない。
三つめは分かりにくいが、レジリエンスはもとの状態への回復を意味しているわけではない。土木分野のレジリエントのようにベースラインまで戻ることがレジリエントだと考えるケースもあるが、ベースライン自体が存在しないようなレジリエンスもある。
このようにレジリエンスを定義した上で、レジリエンスを高める原則として以下の2つを上げている。
(1)回復不能なダメージを被りかねない領域に押しやられないように抵抗力を身につける
(2)閾値を超えてしまったときに、システムが健全に適応できる領域を維持し、拡張する
さらに、この2つの原則を満たし、レジリエンスの高いシステムを実現するには
・信頼性の高いフィードバックループ
・ダイナミックな再構築
・固有の対抗メカニズム
・分離可能性
・多様性
・モジュール構造
・単純化
・高密度化
といった仕組みが必要だとしている。
これらの仕組みは、本書で紹介されているさまざまなレジリエントなシステムの事例分析、ロバストがゆえに崩壊したシステムの事例分析から得られた教訓である。
まず最初にサンゴ礁の崩壊による漁場の崩壊、インターネットのセキュリティの崩壊、金融システムの崩壊などの事例を通じて、なぜ、システムが崩壊するかを分析している。また、それらの特性をうまくカバーして、レジリエントなシステムにしている事例も紹介している。
次にレジリエントなシステムの基本動作として「感知、拡大、集散」というダイナミクスを
・アルカイダ
・結核菌
・スマートグリッドとマイクログリッド
を使って説明している。
次のポイントとして、多様性の集積を取り上げ、
・都市
・熱帯雨林
を例に説明している。
さらに後半では、個人のレジリエンス(如何に心の傷から回復するか)について議論している。特に注目すべき性格として
・自己回復力
・自己統制力
の2つに注目している。また、関連するファクターとして、信仰、コミュニティ、遺伝などとの関係についても議論している。
さらに、社会的レジリエンスとして
・信頼と協力
・リスク志向を抑制する多様性、寛容さ
・コミュニティの適応能力
・コミュニティを支える通訳型リーダー
について各1章を割いてたくさんの事例を紹介しながら、必要なメカニズムについて議論している。
最後にレジリエンスを習得するためのポイントについてまとめている。
・脆弱性、限界点、フィードバックループのマッピング
・アドホクラシー
・徹底的なデータ活用
・将来に向けてのリハーサルを積む
・レジリエントな場所に学ぶ
といったことを取り上げている。
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