【PMスタイル考】第80話:ロバート・カッツの3つのスキルの関係について
◆ロバート・カッツの3つのスキル
60年近く前にハーバード大学のロバート・カッツ教授はマネジャーが必要とするスキルには、業務を遂行する上で必要な「テクニカルスキル」、人間関係を管理する「ヒューマンスキル」、および、事柄や問題の本質をとらえる「コンセプチュアルスキル」があるし、マネジャーとしてのレベルがだんだん上がってくるにつれて、「コンセプチュアルスキル」の重要性が増してくることを指摘しました。
コンセプチュアルスキルについては、PMスタイル考の第64話をお読みください。
【PMスタイル考】第64話:概念化スキルについて考える
今回はこの話を別の側面から考えてみます。それは、コンセプチュアルスキルがテクニカルスキルやヒューマンスキルにどのような影響を与えるかです。
コンセプチュアルスキルが高くなると、対人関係や、業務遂行がどのように変わってくるのでしょうか?
◆コンセプチュアルスキルとテクニカルスキルの関係
まず、業務遂行について考えてみましょう。仕事のできる人の特徴として、
・呑み込みが早い
・応用が利く
といったものがありますが、このような特徴はコンセプチュアルスキルに依存している考えられます。複雑な仕事でも呑み込みの早い人は、抽象的なモデルを頭の中に作りながら、仕事を覚えていきます。
◆コンセプチュアルスキルがテクニカルスキルを高める例
簡単な例で考えてみましょう。議事録を書くことを考えます。たとえば、
0.会議名(テーマ)
1.日時
2.場所
3.出席者
4.要旨
5.本文
6.次回会議日程
7.所見
という風に書くように指導されて、やがて覚えていきます。ところが、コンセプチュアルスキルの高い人は、
・会議の特定
・内容の復元
・今後の予定と進め方
を 書けばよいという風に覚えていきます。前者のように書くべき項目と書き方を覚えるのと、後者のように覚える(理解する)のでは大きく違いが出てきます。ま ず、前者だと項目と項目ごとの書き方を覚えていく必要がありますので、結構大変です。ところが後者だと、目的で覚えていますので、項目も考えれば分かりま すし、書き方もスムーズに覚えることができます。
さらに、社外の人が入る会議と、社内の人だけの会議で書くべき項目が違うとすれば、前者 の場合、別々に覚える必要がありますが、後者の場合には項目建ては変わるかもしれませんが、書くべき内容そのものが変わるわけではありません。したがっ て、それぞれについて何を書けばよいかをケースバイケースで考えて書けばいいわけです。こういうことができることを応用が利くといいます。
一般的にテクニカルスキルはトレーニングを経て、経験やOJTで強化していくわけですが、コンセプチュアルスキルが高い人は経験以上のスキルを発揮したり、あるいはOJTで教えられた以上のスキルを発揮することが可能になるわけです。
◆コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルの関係
では、ヒューマンスキルはどうなのでしょうか?
マネジャーのコミュニケーションについてはの第4回で話題にしたことがありますので、こちらをご覧ください。
【コンセプチュアルスタイル考】第4話:コンセプチュアルスキルによるコミュニケー
ション革新
ここではもう少し一般的な議論をしてみたいと思います。
◆コンセプチュアルスキルがヒューマンスキルを高める例
例 としてプレゼンテーションを取り上げてみましょう。ロジカルシンキングが普及してきて、できるだけ説明を論理的にしようと思う人が増え、その結果、やたら と長いプレゼンが目立つようになってきました。研修のようなトレーニングの場であれば、5分間で発表してくださいといっても、論理的に説明しようとするあ まり、9分、10分となることは珍しくありません。本当のプレゼンの場だと完全にアウトですね。
どこに問題があるのでしょうか。よく訴求点が絞れていないとかいいますが、要するに具体的なレベルでしかプレゼンの内容を作りこまないので、内容を絞り込めない。そこに論理的に説明しようとするので、長くなってしまいます。
た とえば、事業部長に受注開発のプロジェクトの状況報告をすることを考えてみてください。プロジェクトはいくつかの技術的な問題があり、また、顧客側の対応 の問題があり、スケジュールが遅れています。このままでいくと、3月末の納期を守ることは厳しく、予算もオーバーしそうです。
大抵の人は、まず、事実を示し、問題点を説明。原因と対策を述べて、そこから論理的に見通しを説明しようとします。これだと時間がいくらあっても足りません。
ちょっと気の利く人なら、納期遅れと予算オーバーが起こりそうだという結論から入り、その結論に至った理由を論理的に示します。これだと結論の説明に必要なところだけを説明しますので、かなり、話は短くなります。
ただ、ここで考えなくてはならないことは、本当に事業部長が知りたいのは、プロジェクトの見通しなのかということです。3月の決算を通過しますので、事業部長によって問題の本質はプロジェクトが遅れそうなことではなく、それによっていくら業績が下に振れるかです。
つ まり、遅れそうだという状況を踏まえて、まず年度をまたぐ処理をどのように行うか、そしてどれが売上げにどのような影響を及ぼすかを説明する必要がありま す。言い換えると、相手にとっての本質を見抜いて、その本質に訴えかけていくことはコンセプチュアルスキルのある人だけができることです。
このようにコンセプチュアルスキルはヒューマンスキルの質を向上させます。極論すると、ヒューマンスキルをいくら磨こうとしても、コンセプチュアルスキルがない人はあるところから進歩しません。これは実際に見ていても顕著です。
ヒューマンスキルといいますが、ヒューマンスキルには表現方法や態度などのHOWの部分と、何を相手に投げかけるかというWHATの部分があります。WHATの部分はいくら表現や態度を磨いても向上しません。ここはコンセプチュアルスキルの領域なのです。
逆にいえば、本当の意味でのヒューマンスキルを身につけたければ同時に、コンセプチュアルスキルを磨くことを考える必要があるわけです。
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