【プロデューサーの本棚】ウォートン・スクール ゲーミフィケーション集中講義
ケビン・ワーバック、ダン・ハンター(三ツ松 新監訳、渡部典子訳)「ウォートン・スクール ゲーミフィケーション集中講義」、阪急コミュニケーションズ (2013)
ビジネススクールで初めてゲーミフィケーションの講義を取り入れたウォートンの教科書。MBAプログラムの体系と関連付けながらゲーミフィケーションの説明がされており、ゲーミフィケーションを取り入れた仕組みの構築に役立つ一冊。
ゲーミフィケーションの本は何冊か読んだが、面白いのだが、いまいち、どういうものかピンとこなかったし、何かに使うとなるとその方法が想像できなかった。この本を読んでゲーミフィケーションがどういうものかはっきりイメージできた。
ゲー ミフィケーションは動機づけの一つの方法として位置付けられ、マーケティング、生産性向上、イノベーション、顧客関与、人的資源管理、サスティナビリティ など、ビジネスで真摯に追及されている事項に対して、「楽しさ」が非常に有効なツールになることを前提としている。この前提が非常に大切である。ゲーミ フィケーションと似たような言葉にゲーム理論があるが、ゲーム理論とはこの部分の前提が異なる。
ゲーミフィケーションの有効な場面は
・内部
・外部
・行動変容(企業/個人)
の3つである。ゲーミフィケーションが効果があると考える理由は
・何かの関与をしてみようと思わせる仕組みを作ることができる
・実験によりあれこれと新しいやり方を試して可能性を広げることができる
・実際に効果がでている
の3つだ。
ゲーミフィケーションが自社のニーズに合う部分を探すには以下の4つの問いを考えているとよい。
(1)モチベーション
どの部分で行動を促せば価値を引き出せるか
(2)意味のある選択肢
ターゲットをするアクティビティは十分に興味深いか
(3)構造
一定のアルゴリズムで望ましい行動をモデル化できるか
(4)対立の可能性
モチベーションを引き出す既存の仕組みとの対立を避けることができるか
ゲーミフィケーションにより成功する仕組みを構築するためにはフィードバックが必要であるが、フィードバックについては以下の3つの教訓がある。
・予期しない情報のフィードバックは自律性と自分で決めて行う内発的動機づけを高める
・ユーザは自分の成績を知りたがる
・ユーザーは与えられた基準によって自分の行動を変える
このような仕組みを作るためには、PBL(ポイント、バッチ、リーダーボード)の3つの要素が基本になる。PBLを基本として、
・ダイナミックス
・メカニクス
・コンポーネント
の 3つからなるピラミッドを考えることによりゲームを統合する。ダイナミックスは、ゲームの一部ではないが、ゲーミフィケーションを使った仕組みの包括的な 側面である。マネジメントに例えれば、従業員教育やモチベーションの創出、大型目標などに当たるものである。具体的にはダイナミックスは
①制約(限界、または強制的なトレードオフ)
②感情(好奇心、競争心、欲求不満、幸せ)
③物語(一貫性、進行形のストーリーライン)
④進歩(プレイヤーの成長と発達)
⑤関係性(仲間意識、ステータス、利他的行為を実感させる社会的交流)
などである。
メカニクスは、プレイヤーの行動を前進させ、ゲームに関与させる基本的なプロセスであり、ゲーミフィケーションでは以下の10個のプロセスがある。
①チャレンジ
②チャンス
③競争
④協力
⑤フィードバック
⑥リソースの獲得
⑦リワード
⑧取引
⑨交替
⑩勝利
非常に興味深いのはこの10個のプロセスはビジネスのプロセスだといってもいいものである。さらに、この10個のプロセスは15の具体的なコンポーネントに展開される。コンポーネントはアチーブメント(目標)、アバターなどがあるが、PBLはこのレベルの要素である。
ゲーミフィケーションにおけるゲームのデザインは
(1)ビジネス目標を定義する
(2)対象とする行動を詳しく説明する
(3)プレイヤーを詳しく説明する
(4)アクティビティのサイクルを考案する
(5)楽しさを忘れない
(6)適切なツールを活用する
の6つのステップで行うのがよいとしている。
以 上がこの本の概要であるが、これから分かるように抽象度は高いが極めて実践的なゲーミフィケーションのガイドラインになっている。前半はマネジメントの視 点からゲーミフィケーションの位置づけを行い、後半は具体的なゲームのデザインの方法を説明している。後半については類書があるが、前半については類書が ない。プロセスデザインを行う人には必読の一冊である。
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