【プロデューサーの本棚】ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書
アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール(小山 龍介訳)「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書」、翔泳社(2012)
ビジネスモデルイノベーションを「ビジネスモデルキャンパス」というツールを使って、プラニングし、実行する方法を示した一冊。
基本的な前提は、イノベーションは一生懸命、計画を作って、その計画に則り行うものではなく、ビジネスモデルを固めて、ビジネスモデルを実現に試行錯誤で取り組んでいくことが必要だというもの。
この目的の限りでは、非常によくできた本である。
この本が何よりも素晴らしいのは、ビジネスモデルという抽象度の高いものに対して、設計、コミュニケーション、議論のベースになる「フレームワーク」を提供することにチャレンジしている点にある。狙いが達成できているかどうかは別にして、そのフレームワークを活用して、イノベーションのアイデアを考えたり、チームで議論することができる。これまでになかった画期的なワークブックである。
フレームワークは、非常にシンプルで、基本的には
価値のキャンパス(右)
効率のキャンパス(左)
に分かれている。そして、顧客、価値提案、インフラ、資金の4つの領域を設定し、9つの構築ブロックに分かれる。価値と効率の両方の重なるところに
(2)価値提案(VP:Value Proposition)
がある(番号は本書で構築ブロックにつけられている番号)。価値提案は特定の顧客セグメントに対して、価値を生み出す製品とサービスについて記述するブロックであり、これそのものが領域の一つになっている。
価値のキャンパスは、顧客領域と資金領域からなり、顧客領域は、
(1)顧客セグメント(CS:Customer Segment)
(3)チャネル(CH:Channel)
(4)顧客との関係(CR:Customer Relation)
の 3つのブロックから成っている。顧客セグメントは企業が関わろうとする顧客グループについて記述する。チャネルは顧客セグメントとどのようにコミュニケー ションし、価値を届けるかを記述する。顧客との関係は、企業が特定の顧客セグメントに対してどのような関係を結ぶかを記述する。たとえば、獲得、維持、拡 大といった関係が定義されることになる。そして、もう一つ、資金領域のブロックとして
(5)収益の流れ(RS:Revenue Stream)
のブロックがある。収益の流れは、企業が顧客セグメントから生み出すキャッシュフローである。
これに対して、効率のキャンパスは、インフラ領域と資金領域から成っている。インフラ領域は
(6)リソース(KR:Key Resource)
(7)主要活動(KA:Key Activity)
(8)パートナー(KP:Key Partner)
の 3つのブロックから構成される。リソースには、ビジネスモデルの実行に必要な資源を記述する。主要活動には、企業がビジネスモデルを実行する上で必ず行わ なくてはならない重要な活動を記述する。パートナーには、ビジネスモデルを構築するサプライヤーとパートナーのネットワークについて記述する。
効率のキャンパスにも資金のブロックがあり、
(9)コスト構造(CS:Cost Structure)
である。このブロックにはビジネスモデルを運営するに当たって発生するすべてのコストを記述する。
本書の基本はこのキャンバスで、書籍としてはビジネスモデルのパターンや事例をキャンバスを使って示している。最近、パターンランゲージが再び注目されるようになっているが、このキャンバス自体がパターンランゲージだと言っている影響かもしれない。パターンには
・アンバンドルドビジネスモデル
・ロングテール
・マルチサイドプラットホーム
・フリー戦略ビジネスモデル
・オープンビジネスモデル
といったものが定義されており、いずれもデザインの考え方と、事例が示されている。
さらに、ビジネスモデルのデザインテクニックも示されている。
・顧客インサイド
・アイデア創造
・ビジュアルシンキング
・プロトタイピング
・ストーリーテリング
・シナリオ
などだ。記述は分かりやすいが、それぞれのテクニックは非常に深いもので、おそらくこの本だけでは、実践では使えないので、それぞれのテーマの専門書を読む必要があろう。
また、戦略実行におけるビジネスモデルの環境、評価、ブルーオーシャンなどの戦略フレームワークをビジネスモデルキャンパス上で展開することにも言及しているが、この部分はあまり、実用的ではないと思われる。
ただし、ビジネスモデルイノベーションの震源地として
・リソース主導
・価値提案主導
・顧客主導
・ファイナンス主導
・複数の組み合わせ
というイノベーションモデルが示されているのは非常に有益だと思う。
最後に、ビジネスモデルのデザインのプロセスとして、
(1)リソースの結集
(2)理解する
(3)デザインする
(4)実行する
(5)管理する
の5つのフェーズからなるプロセスモデルを提示している。
全体的な感想として、この記事を書いていて思ったのは、ビジュアルなのでとっつきやすいが不ワームワークとしての抽象度は高い。たとえば、3Cのようなレベルである。したがって、うまく使いこなすにはそれなりに熟練が必要だろう。
一方で冒頭にも述べたようにコミュニケーションツールに使えることは素晴らしいことで、チームでうまく使うことで抽象度の問題は解消されるかもしれない。
本としてみれば、ビジネスモデルやイノベーションの実践的勉強には持ってこいの本である。このあたりのテーマに興味がある人は、購入し、隙間時間にぱらぱらめくってみるといいだろう。
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