【プロデューサーの本棚】リ・インベンション: 概念のブレークスルーをどう生み出すか
三品 和広、三品ゼミ「リ・インベンション: 概念のブレークスルーをどう生み出すか」、東洋経済新報社(2013)
神戸大学経営学部の三品和弘先生が前作
「三品和広「どうする? 日本企業」、東洋経済新報社(2011)」
のこれからの日本企業の生きる道として最後で提唱されている、リ・インベンションについて海外事例を中心にまとめた本。
この本ではまず、イノベーションの限界を織機の発展の歴史をみながら、考えている。繊維産業は日本の高度成長に大きく寄与し、日本の技術発達による製品の 高品質・低コスト化により貿易摩擦を引き起こした産業である。どのように偉業を成し遂げたかは本書の第1章を読んで戴くとして、圧倒的に先進的な技術を手 に入れ、持続的なイノベーションの結果、技術的にはトップを走り続けたにも関わらず、織物は利益がでなくなっていく。イノベーティブな織機の効果は数年利 益を押し上げるが、すぐに利益がでなくなり、全体的な傾向として徐々に利益が下がり、やがて産業として衰退していく。三品先生いわく、世界一になったの に、日本の織機メーカに勝者はいない。これが、繊維産業の歴史である。
織機では、自動化の範囲とスピードという2つのパラメータで持続的のイノベーションを起こしてきたが、このようなイノベーションは不毛であり、世界と戦うためにはもっと根本的なところで、革新を起こさなくてはだめだというのが本書の問題提起である。
リ・ インベンションとは何か。前作ではもう一つはっきりしなかったが、今回の本ではその点が明確になっている。リ・インベンションとはコンセプトを改訂するこ とである。コンセプトとは「誰に、何を、どのように提供するものなのか」を規定する基本的な考え方であり、コンセプトの改定の焦点は
誰に:製品を購入する顧客
何を:顧客に提供する価値
どのように:価値提供するための製品や事業設計
であるとする。もう少し、具体的には以下のように定義している。
あ る製品について、いまとなっては解消できるようになったにもかかわらず放置されている不合理や、かつては合理だったもののなかに新たに芽生えた不合理を解 消すべく、当該製品を特徴づけると長らく考えられてきた特性パラメーターを無視して、誰に、何を、どのように提供すべきものなのかにまで立ち返り、評価軸 自体を作る替えること
このように定義すると、イノベーションとの違いが明確になる。
(1)狙い
イノベーションは相対有意が争点になるが、リ・インベンションは従来製品では満たされなかったニーズに応えることが狙いである
(2)従来のパラメータに対する態度の違い
イノベーションは従来のパラメータを肯定的に捉えるが、リ・インベンションは従来のパラメータを否定する
(3)必要とされる力の違い
イノベーションの成否は技術的なブレークスルーにかかっており組織的な技術力が問われるが、コンセプトのブレークスルーをするリ・インベンションでは構想力が問われる
以上の枠組みを提示した上で、リ・インベンションの例として数多くの製品や事業を紹介している。
製品レベルのリ・インベンションでは
・ボウディングの自転車用ヘルメット
普段はスカーフになり、衝突時には頭部全体を保護するヘルメット
・レボライツの自転車用灯火装置
ハンドルや支柱ではなく、回転する車輪に取り付ける自転車用のライト
・スマートペン
録音と再生、保存と検索、共有ができるペンと専用ノート
・OXO
使いやすさを追求するキッチン用品
・エアマルチプライアー
羽のない扇風機
・iPad
・ベイブレード
業ではなく、頭脳で勝負する電子ベーゴマ
・ネスプレッソ
誰もが簡単に楽しめる家庭用のエスプレッソ
・ウォークマン
などの事例を取り上げ、どのようにリ・イノベーションを実現したかを紹介している。さらにこれらの事例を分析し、
・リ・インベンションの着眼点
・リ・インベンションの推進体制
などの分析をし、インプリケーションを示している。
一般的な言葉でいえば、リ・インベンションの領域もイノベーションと言っているが、あえて、リ・インベンションとして括りだすことによってコンセプトが明確になり、何をすべきかの焦点が絞れ、非常に参考になる本になっている。
逆にいえば、イノベーションとしてやってはならないことは何かが本書を読めば一目瞭然であり、その意味でも参考になる本である。
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