【プロデューサーの本棚】アナロジー思考~「構造」と「関係性」を見抜く
細谷功「アナロジー思考」、東洋経済新報社(2011)
著者が抽象的に考えることの原点だという、「アナロジー思考」について、例を多用して読者に伝えようとチャレンジした一冊。話があっちにいったり、こっちにいったりしている印象がある。本から何か知識を得たいと思って読むと物足らないかもしれないが、考えながら読む本としては、ストーリー、例ともに良くできた一冊だ。
30年前に大学で学んだシステム工学の中で、キャリアの中でもっとも役立ったと思うのがアナロジーという考え方であった。システム工学になぜアナロジーが必要かを考えると非常に分かりやすい。
今 ではシステムというと情報システムを指すことが多いが、30年前はコンセプチュアルなものであった。システム工学が日本で関心がもたれるようになった契機 はアポロだと言われている。システム工学科に来た人の中にはロケットを飛ばしたいという動機を述べた人が結構いた。ロケットは、機械系(エンジンなど)、 電気・電子系、燃料系(流体、エネルギーなど)、情報・制御系、通信系などから構成されるシステムである。
システム工学は何かというと、 機械や電気・電子などさまざまな対象をモデル(数学、定性)化することでシステムとして抽象化し、抽象的なレベルでコントロールしたり、最適化する方法を 考え、それを現実のさまざまなシステムに適用し、コントロールしたり、最適化することを目的とした工学である。
この背景には機械も電気も類似性があり、抽象度を上げると同じモデルとして表現できるという前提がある。このような考え方がアナロジーである。
このように30年前はシステムは情報システムだけでもなければ、機械だけでもなく、これらの共通点に注目した概念であったわけだ。このようなものの見方はこれからどんどん重要性を増してくるであろう。その意味で、アナロジーはどんどん重要になってくる。
さ て、本書では、まず、カバンと予算管理の例を使って、アナロジーのイメージを示している。予算を細分化するとどのようなことが起こるかは、カバンの仕切り を考えてみれば想像がつくと言う話だ。それは予算管理とカバンの間にアナロジーがあり、カバンの世界の話を予算管理に借りてくることができる。借りてくる 力がアナロジーである。
その中で、注意しなくてはならない点として、アナロジーは論理ではなく、あくまでの仮説であり、評価・検証が必要だということを述べている。これは大切なポイントだ。
次に、アナロジー思考の手順について述べている。それは、
(1)ターゲット課題の設定
(2)ベース領域の選定
(3)ベースからターゲットへのマッピング
(4)評価・検証
というものである。ターゲット課題は解決したい課題、ベース領域はそのためのアイデアを借りてくる領域である。予算管理の例だと、ターゲット課題は予算管理の細分化、ベース領域はカバンということになる。
このサイクルを回すときにポイントになるが、
・抽象化、一般化
・構造・関係の明確化
・共通点と相違点の明確化
の3つである。
特 に重要なのは二番目の構造の明確化である。著者は似ているのは表面的なものと構造的なものがあると言っている。構想レベルの共通点を抽出し、構造が似てい るものから借りてくることがアナロジーのポイントだといっている。実は、構造・関係の共通点を抽出したものがシステムである。
ここで注意 しておかなくてはならないのが、一番目の抽象化とアナロジーの関係である。抽象化レベルを上げれば上げるほど、異質性の高いターゲットから借りてくること ができる。しかし、遠ければよいというものではない。遠すぎると、見当はずれになることもあるからだ。その意味で、抽象化レベルが重要になる。
同時に、ターゲットとベースの共通点はもちろんだが、相違点を明確にすることも重要だ。これからから、著者はアナロジーを適切に用いるポイントを
(1)合目的性
(2)適切な抽象化レベル
(3)相違点が合目的性に影響を与えないこと
の3つを挙げている。
冒 頭にも述べたが、本書は考えさせることに主眼を置いているように思える。したがって、読めばなんか役にたつことがあるだろうとは考えない方がよい。もちろ ん、アナロジーの基本概念を知らない人にはその部分は知識として得るものがあると思うが、それ以上は考えながら読まないと得るものは少ないと思う(著者の ベストセラー、「地頭力を鍛える」もそれに近いが、クイズ的な要素が大きいので楽しみながら読めた。同じような構成の部分もあるが、全体的にはもっと退屈であ る)。
ただ、考えながら読めば非常に有用な本である。こういう表現になるのは、アナロジー自体が概念的な話であるし、また、具体的な例で学ぶことはあまり意味がないことに理由がある。
この本を読むこと自体が、抽象的思考、概念的思考のトレーニングだと思って、読んで欲しい。
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