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2013年5月 2日 (木)

【プロデューサーの本棚】アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力

4862761178スコット ベルスキ(関 美和訳)「アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力」、英治出版(2011)

ク リエイターの成功はアイデア自体ではなく、アイデア(ひらめき)を実行するアイデア実現力にあるとし、アイデア実現力を構成する3つの力について述べた 本。多くの成功しているクリエイターのベストプラクティスが紹介されているので、クリエイターに役立つことはもちろんであるが、一般的なプロジェクトにも イノベーションが求められる今、すべてのプロジェクトに適用できる方法論だ。

◆アイデアを実現する3つの力

著者の基本的な前提は、多くのクリエイターは100のアイデアがあっても1つのアイデアしか実現で きないということである。新しいアイデアが生まれても、生活や仕事にまぎれて、ほとんどのアイデアは忘れ去られてしまう。もっと本質的な問題は、アイデア を形にする力は、アイデアの源となる創造性と相いれないことだ。アイデアが生まれても整理しようとせず、そのうち忘れ去られてしまう。

では、アップル、IDEO、ディズニー、ザッポスなどの企業や、ステファン・サグマイスター、セス・ゴーディン、クリス・アンダーソンなど、みんなが憧れる企業やクリエイターには、アイデアを実現していくのに役立っている共通した特性があるという。共通した特性とは

1 物事をきちんと整理し、次々と片づける(整理力)
2 仲間を引き込み、コミュニティの力を利用する(仲間力)
3 プロジェクトを率いる戦略がある(統率力)

の3つであると指摘する。そして、アイデア実現力とは

アイデア実現力=整理力+仲間力+統率力

に他ならないと主張する。

◆プロジェクトを3つに要素に分けて整理する

まず、整理力に関しては、アクションメソッドと呼ぶ方法を提案している。この方法は、伝統的な計画策定と上意下達に重点を置くプロジェクトマネジメントに対して、自分だけのやり方でプロジェクト管理をしている人たちの原則を取り入れた方法である。

アクションメソッドの前提は、

「すべてがプロジェクトである」

というものである。この前提をもって、プロジェクトを3つの要素に分ける。

・アクションステップ(すべきこと)
・レファレンス(参考資料)
・バックバナー(後回しにすること)

アクションステップはプロジェクトを進める具合的な作業である。たとえば、報告書を書き直して送る、ブログを書く、電気代を払うといったことである。

レファレンスは、プロジェクト関係の資料、スケッチ、メモ、議事録、マニュアル、ウェブサイト、あとで参考になるかもしれない現在進行中の議論などである。レファレンス自体は行動には移せない。行動の参考にするだけである。

バックバナーは予算の関係なので、現在は実行に移せないが、将来その可能性があるものだ。たとえば、予算のつかないクライアント向けのアイデアなどが相当する。

◆アクションメソッド

ア クションメソッドの面白い点は、前提であるすべてがプロジェクトであるという考え方にある。人生のあらゆることはプロジェクトであり、すべてのプロジェク トはアクションステップ、レファレンス、バックバーナーに落とし込めると考える。プロジェクトをアクションという単位に分解したら、必ず、アクションとし て複数のプロジェクトに関連するものが出てくる。そのプロジェクトは仕事である場合もあれば、個人的なものである場合もあるだろう。これを区別しないこと は現実的な方法である。

アクションステップでもっとも重要なことは、すぐに書き留めることである。そして、書き留めたことに対して、誰か 一人が責任を持つことである。書き留めても責任のはっきりしないアクションステップは実行されない。アカウンタビリティの問題である。リーダーはアクショ ンステップには4つの種類があることを認識しておく必要がある。

・自分自身でしかできないアクションステップ
・誰かに任せたアクションステップ
・確認が必要なアクションステップ
・待機中のアクションステップ

の4種類である。

チームを行動的にするには、アイデアをすぐに書き留め、書き留めたものを後で見直す習慣を身につける必要がある。これらはいきなりアクションステップとして扱うのではなく、レファレンスにもしない。バックバーナーとしておくのが適切である。

三番目の要素はレファレンスである。実際にレファレンスとして保存しても、役に立つとは限らない。体系的にレファレンスを保存するメリットは

・取りちらかったものを減らすこと
・心の平穏を得ること

の2つである。レファレンスを整理するには、

・なぜ必要かを自問する
・ラベルを貼る
・ファイルする

の3つの方法がある。

◆アクションメソッドの実践

アクションメソッドを実践する際には、以下のことに気をつける必要がある。

・アクションステップをメールを区別する
・受け入れられてはじめて、本当に「任せた」ことになる
・同時並行ではなく、順番に実行する

大 規模なプロジェクトを要素に分解すると、管理しやすくなるが、一度に集中できるアクションステップは一つだけなので、優先順位を付ける必要がある。そのた めに、「最高」、「高」、「中」、「低」、「休止中」の5つからなるエネルギー表を作り、どのプロジェクトにどのくらいのエネルギーを注ぐかによってプロ ジェクトを分類する。

また、エネルギー配分をしても、予期せぬ出来事が発生し、そちらに引っ張られることがある。その中で、長期のプロジェクトをうまく進めていくには、緊急性と重要性のバランスをとることが必要である。バランスをとるには

・リストを2つもつ
・大切なプロジェクトを5つ選ぶ
・その日の「集中分野」をつくる
・あせらない
・緊急の用件を部下に任せる
・責任分担表を作る
・邪魔されない時間を作る

などの方法が重要である。

実行においては、実行から逃げたくなる自制心を失わないことが重要である。特に、実行が行き詰り、踊り場にきたときに、別のアイデアに逃げることがあってはならない。実行の姿勢を見直し、行動し続けることが重要である。

行動し続けるための一つのポイントは確信がなくても行動することである。次に、会議を行動に結び付けることである。

また、生産性を上げるためには、「制約」が重要である。特に、問題解決において、制約を敬遠するのではなく、制約によって可能性の範囲が明確になり、より集中して行動しやすくなるという風に、制約を利用することが重要である。

◆コミュニティによる仲間力

二番目の力は仲間力である。

ア イデアを前進させる上で、コミュニティは重要な役割を果たす。コミュニティとは、チーム、指導者、クライアント、協力者、家族や友人などである。コミュニ ティの人は必ず3種類の人がいる。「夢追い人」、「片付け魔」、「両刀使い」の3つ。「夢追い人」は常に新しいアイデアを考え、新しい商売にすぐに飛びつ く。片付け魔は実行の手順に常に集中しており、夢想しない。著者たちが会った成功している夢追い人は、片付け魔と組んでいることが多い。両刀使いは、アク ションステップに落とし込み、アイデアをきちんと実行できる人だが、著者たちは世界的に有名なクリエイターに両刀使いはいないという。

仲間力の二つ目の視点は、アイデアの共有である。アイデアは隠したがるものだが、成功しているクリエイターはアイデアをシェアしていることが普通だ。共有されないアイデアは消え去る運命にあると同時に、共有することによってフォードバックを受けることができる。

アイデアのフォードバックは、「すべきこと」、「やめるべきこと」、「続けるべきこと」方式で行うと効果的である。フィードバックを促すのは、透明性である。

◆サークルを作る

コミュニティの力を発揮させるには、サークルを作るのがよい。サークルを作る際には、

・人数を15人以下に抑える
・明確で一貫した会合のスケジュールを決める
・頻繁に会い、責任を持つ
・リーダーを任命する
・サークルをオンラインに拡大する

などに留意するとよいだろう。

仲 間力でもっとも重要なのは責任である。責任のシステムを作る方法の一例として、TED賞を取り上げている。TEDのキャッチフレーズは「みんなに宣伝した くなるアイデア」である。そして、TED賞を受賞すると、毎年、フォローアップされ、責任を持ってアイデアを実行せざるを得なくなる。

◆統率力

三番の力は統率力である。クリエイティブなプロジェクトの質と量は、つまるところ統率力にかかっていると断言する。

統率力の最初のポイントは報酬である。ザッポスはハピネスを報酬だと考えるという話は有名だが、このように報酬を根底から見直すことが重要である。たとえば、

・伝統的な見返りを求めない
・段階的な報酬制度を設けることでやる気を維持する
・ハピネスはそれ自身がご褒美

といった方法がある。また、遊びの要素を入れたり、仲間の貢献を認めたりすることも効果的である。

次に、チームに雰囲気をよくすることだ。このためには、イニシエータ(率先して働く人)の存在が重要である。そして、イニシエータの集団になれば、チームは自発的に動くようになる。

もう一つ重要なことは、専門性を補い合うようなチームにすることだ。IDEOではT型人間を採用し、チームを作るそうだ。それによって、専門性突き詰めながらも、その垣根を超えて協力しあうことができるようなチームになるからだ。

創造的なチームにするには、やる気を植え付け、プロジェクトをメンバーのものだと思わせるようなリーダーシップが不可欠である。特に、あるアイデアを実行するプロジェクトにおいては、アイデアそのものをチームのものだと思わない限り、機能しない。

◆もっとも難しい自己統率

最後に統率の問題でもっとも難しいのは、自己統率である。自己統率力を上げるには、

・自分を良く知る
・あいまいさを許容する
・失敗から学ぶ
・自分だけは特別だと思わない
・逆張りで常識に挑む
・起業家として考える
・反骨精神を持つ
・人生の期限に目を向ける
・愛の不思議を知る

といったことが効果的である。

プ ロジェクトマネジメントとは何かといわれたときに、この本で提案されている、整理、仲間、統率という3つの要素を組み合わせることだという意見は非常に納 得性がある。クリエイティブでは特にこの3つが重要であるが、逆に、この3つにフォーカスすることで、プロジェクトがクリエイティブになるともいえるだろ う。その意味で、プロジェクトマネジメントの中にプラクティスとして取り入れたことが非常にたくさん書いてある本である。

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