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2013年4月 8日 (月)

【PMスタイル考】第66話:チームになろうよう

Term ◆日本の最大の問題はチームがないことだ
 
昨年になりますが、米国の起業家である齋藤ウィリアム浩幸さんが、「ザ・チーム」という本を上梓された中で、「日本にはグループはあるが、チームがない。これが日本の最大の問題だ」と指摘されました。この指摘は多くの人に衝撃を与えました。日本人の多くは、自分たちはチームワークがよく、チームで仕事をしていると思っているからです。
 
齋藤ウィリアム浩幸「ザ・チーム (日本の一番大きな問題を解く) 」、日経BP社(2012)
 
5年以上前になりますが、PM養成マガジンでセミナーを盛んに行ってきたときに、実はチームをテーマとして手掛けようとしたことがあります。何回かワークショップをやって、いろいろと事情があって挫折してしまったのですが、このとき、いろいろと学ぶことがありました。
 
 
◆チームの成績と個人成績のどちらを追求するか
 
象徴的だったのは、あなたがイチロー選手だったら、個人記録と、チームの優勝のどちらを優先するかという議論をしてもらったときに、8割以上の人が個人記録だと言っていたことです(当時、マリナーズでメジャーリーグの記録をどんどん書き換えていた)。これは、日本人の根底にある考え方だと思ったのですが、ロジックとしては自分が活躍することによって、チームに貢献するというわけです。つまり、チームに先だって自分があると考えるわけです。
 
もちろん、チームに貢献したいという気持ちは強いのですが、まず自分です。スタープレイヤーがインタビューで、自分の成績よりチームの優勝と答えているのを聞くと違和感があるという意見を持つ人も結構いました。チームが優勝すれば報酬のベースが上がるので自分の報酬も増えるということではないかという考え方をする人もいました。当時に較べるとチームという考え方はずいぶん普及してきたように思いますが、この傾向がそんなに変わっていないと思います。
ところが、米国で仕事をしている人は、まずチームです。チームがあって自分がいる。分かりにくいかもしれませんが、活動の自然な形がチームなのです。
 
 
◆リーダーを決める日本
 
これを滅私奉公だと言った人がいますが、個人ありきの人からみればそう見えるかもしれません。個人ありきの人が集団の活動に参加する場合には、自分の意思で動かず、リーダーを決めてリーダーの指示に従うという発想をすることが多いからです。
 
ここ何年か対話が盛んになってきて、集団が話し合いをして物事を決めることが普通になってきました。ところが、リーダーを決めないと動けない人が多いようです。リーダーが自然発生的に生まれてこないと、本当の意味でチームは機能しません。チームビルディングの技術はいくらでも教えられますが、自分から動き、リーダーになっていくことだけは仕事を始めてから身につけるのはかなり難しいのではないかと思います。仕事の中ではどうしても利害関係が生まれてくるので、自然体で動くのが難しくなるからです。結局、野球の話のように、チームが優勝することが個人にとってメリットがあるので、まずはチームの優勝を考えようという利害調整をする中で動機づけをするしかありません。
 
小学生くらいから、チームが自然なのだと教えていくと、個人よりチームと自然に考えることができるのではないかと思います。
 
 
◆チームとグループの違い
 
さて、齊藤さんの指摘の中に、チームとグループという言葉がでてきます。これはいずれも組織論的にいえば、集団ということですが、グループはあるけどチームはないというのはどういうことなのでしょうか?
 
チームとグループの違いを指摘したのは、ジョン・カッツェンバックで、まだ、マッキンゼーのディレクターだった時代(1993年)にハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文です(この論文の翻訳は2003年にダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューに採録されています)。
 
グループとチームの違いは、簡単にいえば相乗効果が生まれるかどうかです。よく1+1が2以上になるのがチームと言いますが、そういうことです。
 
グループでは個人にまで作業を分業し、互いに干渉せずにできるようにします。ゴールを達成するために必要なスキルセットを集めて、必要なスキルごとに分業するわけです。
 
プロジェクトマネジメントはチームでもいグループでも作業ができることを前提にして考えられています。WBSでワークパッケージを定義し、アクティビティに展開します。ワークパッケージの実施単位は一般にはチームです。ワークパッケージのままでやってもいいですし、アクティビティをさらに小さくして個人単位に割り振っても構いません。
 
現場を見ていると、アクティビティをさらに小さな単位に分解し、個人に分けて、できるようにしているケースが多いようです。これは標準的な業務手順を前提にした計画の立て方に理由があります。標準的な業務手順は、最終的にはスキルに応じた分業になっているからです。
 
つまり、チームがなく、グループで仕事をしているわけです。これは齊藤さんのような米国人から見ると奇異に映るのだろうと思います。僕も別の米国人からどうしてそんなやり方をしているのかと訊ねられたことがあります。
 
 
◆チームは万能か?~ボルボのRPS
 
もう一つ議論すべき点があります。それは、工場でチームで仕事をすべきかという点です。工場におけるチームの例としてはボルボのリフレクティブ・プロダクション・システム(RPS)があります。この方式は、ボルボのウッデバラ工場で1988年から1993年までの5年間、採用されていた生産システムです。このシステムの特徴は、ベルトコンベアが廃止された現場で、7~8人の作業者らからなる自律的な作業手段(プロダクションワークショップ)によって、80分~100分という長いサイクルタイムのもとに自動車の完成品が1台組み立てられていました。RPSには持ち場はありましたが、常に対話を行い、問題が起こったときに相互に協力するチームとして機能していたそうです。
 
この方式はフォードとテイラーが考えた生産方式(通常のコンベアによる組立)へのアンチテーゼとして労働における人間性の回復を到達点としてに考えれらたものでしたが、生産性は低く、品質の問題もあり、結局5年で打ち切られています。ただし、人間性の回復という点では、今でも評価されています。
 
チームの議論には生産性と人間性のトレードオフの話がついて回ります。生産性を重視した場合、RPSの例から分かるようにチームは必ずしも生産性を上げるわけではありません。
 
 
◆チームが有効な場合と、その条件
 
チームによって1+1が2以上になるというのは多分に比喩的なものです。あるいは質的なものだといってもよいでしょう。自動車の組み立てのような作業は微妙です。RPSでは自動車の組み立て工程を、機能で完結するような工程に組み替えています。フォードの方式ウォーターフォールで使われるがWBS(Work Breakdown Structure)だとすれば、PRSはアジャイルで使われるFBS(Function Breakdown Structure)で作っているわけです。生産性はFBSよりWBSの方が高くなるというのが一般的な認識です。何をチーム制度の目的にするかにもよりますが、生産性を目的にする場合には車のようなケースはベルトコンベア方式を基本として、多能工化などの方法で柔軟性を持たせる方が適しているようです。
 
言い換えると、生産作業のようなグループに適した仕事は人数が多くなればなるほど、生産性が下がります。別の研究で5人が集まって作業をすると70%程度の生産性になり、それを如何に100%に近づけるかが(チーム)マネジメントの課題になってくるわけです。
 
これに対して、イノベーションのような仕事では、チームは生産性を上げます。一定の条件を満たすチームを作ると、イノベーションが製品になるサイクルが短くなる、イノベーションが製品になる率が高くなるといったことが起こります。
 
たとえば、ハーバード大学のリチャード・ハックマンは
 
・真のチームかどうか
・ゆるぎない方針があるかどうか
・チーム力が高まる構造になっているか
・チーム力が高まる制度があるかどうか
・適時、適切なコーチング体制があるかどうか
 
の5つの条件を挙げています。
 
また、冒頭に紹介した齋藤ウィリアム浩幸さんは、とにかく、パッションだと言っています。まあ、条件には諸説があり、これだというものはないでしょうが、自分なりの方法を見つけたいものです。
 
「チームになろうよ」

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