【プロデューサーの本棚】「実行」に効く計画の技術
浦 正樹「「実行」に効く計画の技術」、翔泳社(2013)
計画は作っても有効に使われていないケースが多い。よい計画を作るには時間がかかるが、使わないものに時間をかけるのは無駄だと考えてしまうという悪循環が起こっている。この問題に一矢を報いる書籍が登場した。外資系の企業で、コンサルタントやスペシャリストとしてプロジェクトや事業の計画に関わってきた浦正樹さんが「計画」を技術として体系化したこの本だ。計画に関する本というのはありそうで、これだけ体系化された本はなく、注目の一冊。
本書ではまず、計画に対する誤解を解くことから始めている。計画には4つの誤解があるという。
誤解その1 計画は、地道な作業の積み上げだ
誤解その2 過去に失敗したことは、もう失敗しない
誤解その3 当てずっぽうな計画なら、立てないほうがまし
誤解その4 計画を立てたら、途中で変えてはいけない
の4つだ。このような誤解が実行できない計画を生み出している元凶であるが、本書では誤解を乗り越え、実行できる計画を作る技術を体系的に述べている。
計画を時間に間に合わせるための「日程計画」、数字を達成するための「予算計画」、方針を決めるための「仕様計画」の3つの計画に分けて、それぞれについて実行できる計画の方法を示している。
まず、実行に効く計画の条件を明らかにしている。つまり、
・網羅性が高い
・要素間の関係性が分かりやすい
・分類ができている
・理由や根拠が浮かび上がってくる
・メンテナンスが容易である
といった条件だ。このような条件を満たす計画を作るには、まず、全体計画を作り、そののちに詳細計画をするというアプローチが不可欠である。
全体計画は
・計画のフレームワークを決める
・前提条件を洗い直す
・計画上の注意点を特定する
・初めての箇所を特定する
という4つのステップを設定している。
まず最初のフレームワークの決定であるが、基本的には
・計画コンポーネントの洗い出し
・計画コンポーネントの分類
・コンポーネントへのフレームワークの当てはめ
・フレームワークを貫く論理の軸の決定
という手順で行う。日程計画ではコンポーネントは、作業の洗い出し、作業の依存関係の設定、作業期間の見積もりとする。予算計画では、要素単位での見積もり、時間軸での見積もりとする。仕様計画では、構成要素の洗い出し、構成要素の組立、構成要素の概要決定とする。
さらに、コンポーネントを構造を検討すべき組立タイプ、数字を配分すべき配分タイプに分けることができる。そして、組立タイプでは、「ツリー型」、 「マトリックス型」、「フロー型」のいずれかのフレームワークを適用する。同様に配分タイプでも「トップダウン型」、「ボトムアップ型」、「調整型」のい ずれかのフレームワークを適用する。
計画フレームワークの適用に当たっては「軸」を考えることが必要である。軸によって、要素をフレームワーク上に展開していくためだ。組立タイプ、配分タイプの双方につき、フレームワークごとに軸の作り方を具体的に説明している。
以上のように計画の形はできていくが、配慮すべき事項がある。一つ目は、目的や根拠、背景を見直し、「前提要因」を特定することである。前提要因には、
・目的や目標
・実行力
・支援体制
の3つが考えられる。本書ではそれぞれについて、3つの計画毎に、具体的に例を示しながら解説している。
二つ目は重点要因を特定することである。重点要因という言葉は分かりにくいが、実行において同じような失敗を引き起こす要因である。これについても、計画毎に分析の切り口を示している。
三つ目は新規要因を特定し、そこに時間をかけることだ。新規要因を洗い出す切り口としては
・実行チーム
・周辺環境
・実行プロセス
・成果物
などがあり、それそれについて新規要因を洗い出す方法を示している。
ここまでが理論部分であり、そのあと、3つの計画について、計画のプロセスを詳細に説明している。さらには、詳細化と計画変更管理についてその方法を説明している。
体系化しているために、かなり概念的な議論になっているが、その分、事業計画にも業務計画でも、プロジェクト計画でも、どのような計画にも使える手 法になっている。プロジェクト計画のように計画手法が体系化されている分野では逆に分かりにくいかもしれないが、ビジネスやマネジメントにおけるほとんど 分野ではそのような体系化された計画手法はない。そのため、計画もどきを作ってもほとんど使えない。
そのような分野に関わるマネジャーに真っ先に奨めたい本である。本書の詳細な体系とプロセスを辿っていけば、使える計画、本書の表現では実行に効く計画ができることは間違いない。
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