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2012年5月10日 (木)

【PMスタイル考】第45話:「リーン」という思想

Lean◆広まっていくリーン

日本でもやっと、リーン製品開発を解説した本が出てきました。トヨタ生産方式から発展したリーン生産方式は製造業だけではなく、他の分野へも広く普及してきました。特にサービス業など、目に見えない生産活動に広まってきたのは特筆に値します。また、ソフトウエアの分野のように、リーン方式の開発手法を確立し、体系化している分野もあります。

これに対して、リーン製品開発は日本の企業ではほとんど行われておらず、これから普及していくのだろうと思います。

また、最近では、「リーンスタートアップ」という考え方が登場しています。事業や製品の立ち上げをリーンにしようという考え方です。

ということで、今回のPMスタイルは、「リーン」という思想について考えてみたいと思います。



◆リーンとは

リーン(lean)とは、痩せた、引き締まったと言う意味です。ここから、企業をリーンだという場合には、無駄がなく、力強いというイメージを言いますし、リーン生産方式の場合には、無駄がなく、生産性が高いことを言います。

リーンという考え方を導入するときに重要なのは、何が脂肪(無駄)で、何が筋肉(強さ)なのかをしっかりと見極めることです。無駄をとることによって、強化できる部分がある。これがリーンの本質です。


◆リーン生産方式

リーン生産方式の場合、よく知られているように、大量生産で作られる在庫を無駄だと考えました。在庫を減らすにはどうすればよいか。必要なものだけを作ればよいことになります。

ところが、大量生産はスケールメリットがあり、部品を大量に発注することによって、コストを下げることができます。自動車のドミナントモデルであるT型フォードは、大量生産によってそれまで大衆には手が届かなかった自動車を大衆のものにしました。今でいえば、自家用の小型ジェットを普通のサラリーマンが持てるようにしたくらいのインパクトだと思います。T型フォードでは、「ボディカラーはお好み次第。ただしそれが黒である限り」という有名な言葉がありますが、そのくらい大量生産に徹したわけです。

大量生産の場合、当然、在庫が発生します。これは大量生産の必要悪だとも言えますが、全くの無駄です。在庫を作らないようにするには、ロットを小さくする必要があります。そこで、考え出されたのがトヨタ生産方式です。多品種少量生産を基本とし、必要な生産数から、必要な部品を調達するカンバン方式に特徴があります。もちろん、カンバン方式を実現するために、発注先の選定基準を作るとか、部品メーカとの共同開発を行うなど、さまざまな部品調達の工夫があり、その集大成がカンバン方式だといえます。また、生産管理の面でも過剰生産の誘惑は常にあり、その誘惑に打ち勝つような人材育成の結果でもあります。

このようにして、大量生産のスケールメリットを捨てて取り組んだことにより、在庫がなくなり、工場のラインの流れがスムーズになり、リードタイムが短縮されました。結果として、生産性の向上と同時に、少量生産によるコストアップをカバーしてあまるコストダウンが実現されました。また、現場の従業員の改善意識が醸成され、士気も高まりました。これらが、筋肉の部分です。


◆リーン製品開発

製品開発のリーン化では、経営からの使命で行われてきましたグローバル化の中で、成熟市場、新興市場など、多様な市場にどんどん製品を展開していく必要が生じてきたわけですが、そのためには、リードタイムを短縮して、新製品をどんどん開発しなくてはならないという問題に行き当たります。リードタイムを短縮することが筋肉になるわけです。

そこで、無駄になっているのが、開発の終盤で起こる仕様変更による手戻りだと考えました。そこで、非常に大胆なアプローチをとります。終盤で手戻りが発生するのは、開発序盤における仕様の決め打ちが原因だと考えたのです。そこで、初期段階から仕様を明確化せずに、いくつかのやり方を同時に走らせることにしました。それによって、その製品開発で起こり得るトレードオフを序盤で徹底的に検討しながら、妥当な仕様にだんだん絞り込んでいくというアプローチをとったのです。

結果として、検討されたほとんどの仕様は作られることなく、終わるわけです。非常に無駄に見えるのですが、現実にはこのやり方でリードタイムが大幅に短縮されます。終盤の手戻りというリードタイムに致命的な影響を与える問題がなくなったからです。

さらに、リーン製品開発では、プロジェクトの序盤で行った検討(特にトレードオフの結果)を知識化して以降のプロジェクトで使えるようにします。これによって、検討作業は無駄ではなくなり、次のプロジェクトではさらにリードタイムの短縮ができるわけです。


◆日本人にはポートフォリオよりリーンが向く

リーン生産や、リーン製品開発は、いずれもトヨタの方式を参考にして体系化された方法ですが、体系化しなくても、リーンという思想は有用だと思われます。脂肪をなくして、筋肉をつけると言うのは、一種の戦略的思考です。通常の戦略的思考は優先順位で取捨選択を考えますが、日本人にはこのような方法は受け入れにくいものがあります。

「ストーリーとしての競争戦略」で有名な楠木建先生が、

強い日本企業の共通点は「一意専心」型で、日本企業はとにかくポートフォリオが下手だ。ポートフォリオ経営大魔王ともいうべきジャック・ウェルチが「事業と恋に落ちるな」と言っているように、ポートフォリオはこだわらないことが大切だ。これに対して、一意専心型では、こだわりが重要な意味を持つ。

という趣旨のことを言われていますが、リーン生産方式やリーン製品開発をみていると、ポートフォリオ的なリストラクチャリングよりは、リーンによるリストラクチャリングの方が適しており、知恵を使えるように感じます。

とくに、リーンには必ず、「人」的な要素がついてきます。生産であれば改善意識、製品開発であれば、製品へのコミットメントです。この部分を醸成できるのも、日本人には合うように思います。


◆リーンに関する本

・生産
ジェームズ・ウォーマック、ダニエル・ジョーンズ(稲垣 公夫訳)「リーン・シンキング 改訂増補版」、日経BP社(2008)

・製品開発
稲垣 公夫「開発戦略は「意思決定」を遅らせろ! トヨタが発想し、HPで導入、ハーレーダビッドソンを伸ばした画期的メソッド「リーン製品開発」」、中経出版(2012)

・事業開発
エリック・リース(伊藤 穣一解説、井口 耕二訳)「リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、日経BP社(2012)

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