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2012年5月18日 (金)

【プロデューサーの本棚】デザイン思考と経営戦略

4757122942奥出直人「デザイン思考と経営戦略」、エヌティティ出版(2012)

デザイン思考の道具箱」の奥出直人先生の新著。デザイン思考を経営とどのように結びつけるかを議論した一冊。

問題意識として、デザイン思考のワークショップを2年くらい続けて、イノベーションに値するアウトプットを出しても、経営的な意思決定ができず、無駄に終わってしまうことが多いという経験があるそうだ。

書籍の作りとして、1章は戦略経営の基本的な説明をし、デザイン思考をうまく戦略経営の中に取り込んでいる、GEやP&Gとの比較で、多くの企業がデザイン思考をなぜ、うまく活用できないのかを指摘している。


◆デザイン思考以前の問題とデザイン思考の役割

デザイン思考以前に、プロジェクトが成立するために必要なことがある。

1.何を作るのか
2.なぜ作るのか
3.どうやって作るのか
4.とうやって生産するのか
5.どうやって届けるのか

の5つが明確になっていなくてはならない。

その上で、デザイン思考により、事業機会の発見と独自の戦略ポジションを作り上げる。これがデザイン思考の戦略上の役割である。


◆デザイン思考をマネジメントするための七つの「やってはいけないこと」

本質的な問題は、デザイン思考そのものではなく、イノベーションを経営の中に取り込んでいく仕組み(組織とプロセス)の欠如であり、そのため、戦略とデザイン思考を使ったイノベーションの摺合せが十分になされていないことと指摘している。また、デザイン思考自体の質の問題もあり、表面的な活動に終わっていることを指摘している。これを防ぐためのアンチな思考規範として、IDEOのライアン・ジャコビの「デザイン思考をマネジメントするための七つの「やってはいけないこと」を紹介している。

1.答えはここにあるのであって、外にはないと考える
2.話ばかりして作らない
3.可能性を検討しているときに、実効性を議論する
4.利口に振る舞う
5.間違いを許さない
6.他部門が集まれば多様な視点を得られると勘違いする
7.プロセスを守ればうまく行く


◆デザイン思考でイノベーションをマネジメントする

では、デザイン思考でイノベーションをマネジメントするには、どうすればよいか。

この際に重要なポイントになるのは、いま、求められているイノベーションは破壊的なイノベーションであるということだ。ところが、経営層はこの点に気づいていない。日本企業において、経営層の頭の中にあるのは、漸進的イノベーションとブレークスルーイノベーションという2種類の持続的イノベーションである。破壊的イノベーションの提唱者であるクリステンセンによると、破壊的イノベーションはローテクの技術によって可能になり、パフォーマンスも低く、実証済みの古い技術の固まりだという。デザイン思考を使うと、破壊的イノベーションを起こすことのできる、顧客が求めている製品のコンセプトをそれほど困難なく作れるが、経営層はそれを認めようとしない。まさに、クリステンセンのいうイノベーションのジレンマが発生する。また、仮に認められたとしても、そのコンセプトをプロタイプに落とせる人材がいない。

このような前提で、デザイン思考でイノベーションに貢献する方法を考えていかなくてはならない。そのためには、3つの要素が必要である。

一つ目は、イノベーションのための組織横断的なチームを編成することである。そしてそのチームを通じて、イノベーションを事業として展開していく努力をすることである。

二つ目は、製品コンセプトを作り、ソフトとハードを同時に摺合せて開発するプロデュース力を持った人材がいることだ。製品コンセプトを考えるとは、新しい社会システムを考えることであり、そのシステムの中でわれわれがどのように生きていくかを考えることである。そこを十分に理解し、プロトタイプを素早く作る設計力を持った人材が必要だ。

三番目は、事業のアークテクチャーを設計できる人材である。製品開発は顧客の要求をデザインに反映させるだけでは不十分で、会社に利益をもたらさなくてはならない。その可能性をいろいろと試行できることが、アークテクチャーの設計力である。


◆デザイン思考ワークショップ

本書の後半は、著者が実際に行っているワークショップの紹介を通じて、前半の述べたことをより深く理解させようとしている。ワークショップは初級と中級がある。初級は、前著で紹介されているので、紹介は割愛する。中級は以下のような構成になっている。

第1回 チームを作る
ステップ1:自己紹介
ステップ2:哲学をビジョンを作る

第2回 誰のために作るのかを考える
ステップ3:ステークホルダを決める
ステップ4:技術の棚卸を決める
ステップ5:フィールドワーク計画を立てる

第3回 解釈学的民族誌
ステップ6:フィールドワークの準備をする
ステップ7:濃い記述(エスノグラフィー)を書く
ステップ8:フィールド・ワークマスターの記述をする
ステップ9:フローモデルを描く
ステップ10:シークエンスモデルを描く
ステップ11:アーティファクトモデルを描く
ステップ12:物理モデルを描く
ステップ13:文化モデルを描く

第4回 メンタルモデルを作る
ステップ14:ターゲット・ペルソナを作る
ステップ15:メンタルモデルを作る

第5回 創造性のジャンプ~アイデュエーション
ステップ16:ポストイットによるブレーンストーミング
ステップ17:紙粘土によるブレーンストーミング
ステップ18:実物大モデルによるブレーンストーミング

第6回 コンセプトを作る
ステップ19:コンセプトを作る
ステップ20:コンセプト・チェックリストを作る

第7回 ペルソナを作る
ステップ21:コンセプトが利用されるコンテクストに関係する人々を明確にする
ステップ22:コンセプトを利用する具体的なユーザを明らかにする
ステップ23:複数のペルソナを作る
ステップ24:スキットを行う

第8回 スケッチからプロトタイプへ
ステップ25:コンセプトの詳細化
ステップ26:ビデオスケッチ

第9回 フレームワークを作る
ステップ27:コンセプトを詳細化する

第10回 ポジショニング・哲学・ビジョン・ターゲット・セグメント・SWOT分析
ステップ28:セグメンテーションの再考、SWOT分析
ステップ29:ポジショニング

第11回 プロトタイプを見せてビジネスを考えよう

背景にある理論や、具体的な内容、留意点は書籍を参考にしてほしい。


◆プロジェクトマネジメントが不可欠ではないかと思う

デザイン思考ワークショップの紹介を通じて、前書よりは、デザイン思考をすることのイメージが明確になった。また、デザイン思考の商品開発の中での位置づけも明確になった。一方で、経営戦略との関係では、破壊的イノベーションを引き起こすにはどうすればよいかは説明されているが、事業戦略の実行の中でイノベーションのワークショップをどうインボルブするかという肝心の問題ははっきりしなかったような印象がある。

個人的には工業デザインにあまり知見がないので、第2章のデザインの歴史と流れを詳細に説明されている部分が非常に面白かった。

全般的には、デザイン思考だけではイノベーションのマネジメントは難しく、プロジェクトマネジメント、あるいはプロダクトマネジメントとの併用が不可欠であるという印象が残った。

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