【プロデューサーの本棚】〈先取り志向〉の組織心理学--プロアクティブ行動と組織
古川 久敬、山口 裕幸編集「〈先取り志向〉の組織心理学--プロアクティブ行動と組織」、有斐閣(2012)
◆リアクティブとは
組織における「プロアクティブ」をテーマにした本。大学の研究者の研究成果に基づく共著なので、表現は固いが、内容は意外と実践的である。
プロアクティブに対する言葉は、リアクティブである。この本でいうリアクティブとは、
規則への順応、従前からの活動の反復継続、ほかからの指示や要請への対応、苦情や不具合への対処
などのことをいう。組織において、リアクティブな活動が確実に、安定的にできることは基本であり、かつきわめて重要である。
組織が社会に認められ、一定の成果を生み続けるためには、以下のことが必須である。
(1)自らの社会的責任を自覚し、コンプライアンスを遵守すること
(2)組織内外の現在を意識し、構想した課題や目標を、着実な活動によって達成すること
(3)組織内外の未来を見越して、これまでの前提を問い直し、発想を更新し、新たに取り組む課題や目標を定め、体制や活動、そして成果物の革新を図ること
(4)遭遇したリスク事象から、組織としての定常の活動へ、整然かつ迅速に復元できること
の4つがある。このうち、(1)、(2)はリアクティブな活動の重要性を示している。また、(4)もリアクティブな活動の重要性を示している。
◆プロアクティブとは
これに対して、プロアクティブは
新たな状況や課題の創出と解決に向けた自発的な先取り指向の姿勢や活動、
さらには、自発性と先取り性を基調とした新たな関係の創出とそのための率先巻き込み活動
をいう。上の条件でいえば、(3)および、(4)がプロアクティブな活動の重要性を示している。
◆プロアクティブな組織が成長できるには
プロアクティブな組織が成長できるには、以下の3つの条件が必要である。
・経営戦略が適切で、取り組む課題を明確にできること
・明確になった取り組み課題の特性に適切に対処できること
・これからの課題を特徴づける不明瞭な状況の下で、情報収集、判断、意思決定を適切にできること
さらに、組織を成長させるチームや個人には戦略を実行するために、未知課題の含まれるビジネスモデルの実現ができることが求められ、そのために個人には
・個人の役割の定義
・意欲高揚と新たな学習能力の向上
の2つが必要である。また、チームや職場には、
・職場内部のチーム力の向上
・対外的な巻き込みや連携など、外部から資源や能力を獲得できる力
が求められる。
◆本書の視点
以上のような視点から、本書では、
・人材育成、人事評価
・リーダーシップ
・チーム力の育成・強化
・組織コミュニケーション
・ワーク・ライフ・バランス
・社会的責任
の6つの視点から、具体的な方法論を示している。
組織が成果を出し続けるための条件の中で、(3)の実現方法としてもっとも一般的な方法はプロジェクトである。その意味で、プロジェクトの命は「プロアクティブ」であり、プロアクティブな活動を実現していくことがプロジェクトマネジメントの意義である。
その意味で、プロジェクトマネジャーやプロジェクトスポンサーは、プロアクティブに徹底的にこだわる必要がある。しかし、残念ながら、現在のところ、プロアクティブはリスクマネジメントにとどまっており、その壁を破る知恵がたくさん書かれている。
コメント