【PMスタイル考】第39話:チームと個人
◆意思決定は個人がするもの
PMstyleで「ファシリテーション・グラフィック」というセミナーを担当して戴いている日本ファシリテーション協会 フェローの加藤彰さんが、堀公俊さんと共著で5冊目の本を書かれました。タイトルは「ディシジョン・メイキング」。全体的には合意形成を如何にファシリテートするかという内容ですが、1章に多少違和感があるくらい、「意志決定は個人が行うものだ」と書かれています。
先日、機会があって加藤さんにその話をしたところ、加藤さんも堀さんもこの点にはこだわりがあるからとのことでした。
意思決定の本質は決めることではなく、決めたことを実行することにあります。とくに最近のように不確実性が高い環境においては、実行の重要性は高まっています。決定に仮説としての性格が強くなっているためです。
意思決定をグループやチームで行うことの意味は、そのグループやチームの全員が実行にコミットすることにあります。そのプロセスのイメージは、メンバーの各人が自分の意見を持ち、その意見の対立を乗り越えて、一つの決定に至り、それを実行していくというものです。
ところが、必ずしも、そうはなっていないケース、つまり、メンバーは意見を持たず、グループやチームの誰かの意見に対して、反対か賛成かの意見しか持たないケースが多いのです。合意形成というのは、賛成するということではありません。ちょっと微妙な言い回しになりますが、チームのすべての人が同じ意思決定をするということです。
◆意思決定をしないプロジェクトマネジャー
これは、プロジェクトチームだけの問題ではありません。
プロジェクトマネジャーで、プロジェクトの進め方の決定を自分の問題だと捉えていない人は少なくありません。あるプロジェクトでトラブルが起こりました。原因は作業内容に漏れがあり、スケジュールスケジュールが遅れてきたことでした。ところがこのプロジェクトのプロジェクトマネジャーは、計画を作って組織の承認を受けている。承認した以上、その進め方でうまく行かないときは組織の責任であると言い放ちました。
ここまではっきり言う人は珍しいと思いますが、内心そのように思っている人は少なくないのではないでしょうか。
◆ホールシステムアプローチの前提
この何年か、ホールシステムアプローチが注目されるようになってきています。ホールシステムアプローチは、組織やプロジェクトの境界を越えてできるだけ多くの関係者が集まって自分たちの課題や目指したい未来について話し合う対話の手法です。ホールシステムアプローチは、対話によりさまざまな活動の可能性を広げてくれるという意味で、たいへん素晴らしいものです。ただ、ホールシステムアプローチには大きな前提があります。AIにしろ、ワールドカフェにしろ、OSTにしろ、そこに参加する人は独立した個であるということです。テーマについて自分の意見を持っている人(あるいは自分が何者かを知っている人)が、自分の意志で参加するという前提のものです。この前提が満たされたうえで、個人ではできないことがホールシステムアプローチによって可能になることがあります。
この条件が満たされない限り、大きな成果は望めません。
たとえば、意思決定の例でいえば、問題に対して自分なりの意見を持っている人が集まり、話し合いをすると、自分の意見を超えた素晴らしい結論が生まれることがあります。当然、それぞれの人はその結論にコミットして行動しようとするわけです。自分の意見との違いを調整できている場合には、比較的自発的に取り組むことが可能です。
◆チームや対話はカタリストである
ところが、そもそも自分の意見も持たず、対話への参加も自分の意思ではない場合、どう決まっても当事者意識を持つことができず、実行にはやらされ感が生まれてしまい、そのメンバーがチームのパフォーマンスの足を引っ張ることになる可能性が大きくなります。
このようにチームでの活動をする場合、常に内発性に基づく部分と外発性に基づく部分があります。そのときに、内発性に基づく部分がない人がチームや対話に参加すると、外発性だけで動いてしまい、結果としてチームの努力や対話を台無しにしてしまうケースは少なくありません。
チームや対話というのは個人の智慧が集まることによって、足し算以上のパフォーマンスを生み出しますが、その効果は基本的にはカタリストです。つまり、個人が活動しない限り、何も起こりません。自分が何もしなくても、誰かがしてくれる。自分はそれに対する意見を述べたり、あるいは手伝えばよい。そのような考え方ではチームの活動自体が意味のある活動にならないことを認識しておく必要があるでしょう。
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