プロジェクトにおけるアカウンタビリティとレスポンシビリティ
プロジェクトにおけるアカウンタビリティとレスポンシビリティ(2007/03/01)
◆アカウンタビリティとレスポンシビリティ
アカウンタビリティとレスポンシビリティという言葉がある。
日本語でいえば、両方とも「責任」である。しかし、微妙に違う。
このような責任概念はもともと企業経営の概念であるので、プロジェクトにおける議論をする前に、少し、一般的な説明をしておこう。
レスポンシビリティは、企業自身が負う内部的、「自己責任」のニュアンスで使われる言葉である。これに対して、アカウンタビリティは消費者、市民などから求められる「外部への責任」という意味で使われる言葉である。最近、アカウンタビリティが注目されるようになってきたのは、環境問題をはじめ、企業としての社会的な責任が問われるようになってきたためである。
◆プロジェクトマネジメントにおけるアカウンタビリティとレスポンシビリティ
プロジェクトマネジメントにおいても同様の概念がある。レスポンシビリティはプロジェクト内部のステークホルダに対する自己責任を持つことである。このために、例えば、プロジェクトマネジメントでは、RAMなどの手法を用いて、自己責任の分担を明確にするのだ。
PMBOKのツールと技法を極める 第1回 RAM
http://www.pmstyle.jp/honpo/pmbok_method/tool1.htm
アカウンタビリティそのものを扱う手法は存在しないが、コミュニケーションマネジメントなどではアカウンタビリティを確保する計画をすべきである。
◆アカウンタビリティは仕組みの問題、レスポンシビリティは人の問題
ここで注意しておきたいのは、レスポンシビリティは自己責任であり、個人の資質・モラルに関わる概念であるのに対して、アカウンタビリティは、システム・仕組み・組織などに関わる概念であることだ。その意味で、レスポンシビリティの確保はプロジェクトとして最低限のことはすべきだが、結局、その責任がきちんと果たされるかどうかは、個人の資質の問題であり、ある意味で、それ以上、どうしようもない。
しかし、アカウンタビリティについては、アカウンタビリティを確保するシステムを作る必要がある。従って、そのためのシステムとして、コミュニケーションマネジメントが極めて重要な役割を果たすのだ。
さて、では、プロジェクトの中でレスポンシビリティとアカウンタビリティがどのように機能するかについて考えてみよう。
◆それ以前の問題~コミットメント
この問題を考える場合には、実はもうひとつ、重要な概念がある。それはコミットメントである。
コミットメントは仕事(作業)遂行の約束である。計画を作ることの重要な一面は、コミットメントである。プロジェクトにおいては、作業や仕事を、達成すべき目標を加えてプロジェクトマネジャーが定義し、メンバーに渡す。メンバーはそれを引き受ける。これがコミットメントである。
プロジェクトマネジャーの最も重要な管理仕事は、メンバー個々に必要な作業を割り当てて、作業方法を教育し、進行プロセスの管理をすることである。
さらに、メンバーにスキル的な未熟がある時は、作業方法を示することによって、教育をすることもプロジェクトマネジャーの管理業務の範疇である。
◆コミットメントのプロセスがあるか?
このように書くと当たり前だと思うかもしれないが、実は、このコミットメントのプロセスはあいまいになっていることが多い。ある意味で「あたりまえ」だと思うせいか、コミットメントを明確なプロセスで行うことをしない。これが、達成できない目標の設定になり、無責任の原因になっていることも少なくない。
ここで、目標について理解しておくべきことは、目標は達成すべきものであって、単なる口約束ではないことだ。口約束にしないためには、達成できるための方法(対策)を決める必要があることは明らかである。それが決まって初めて、達成すべき数値を含んだ目標ができるのだ。
言い換えると、この一連のプロセスがコミットメントであり、コミットメントがあるから、初めて、内部にしろ、外部にしろ、責任が生じる。
ところが現実にはこのプロセスがきちんと行われていない。目標を達成するための方法を明確にしないままで、目標の設定をしているケースが多い。これはプロジェクト内でもそうだし、プロジェクトそのものに対してもそうだ。「まるなげ」というのはこういう状況を言っている。
◆レスポンシビリティのためのコミットメントの方法
レスポンシビリティは前回触れたように、コミットメント(契約)を前提にした個人の責任であり、プロジェクトメンバーでいえば、作業遂行責任ということになる。まさに、RAM(Responsibility Assignment Matrix)をイメージしていただければよいと思う。
前回述べたように、責任が発生するのは、コミットメントが成立した後である。
プロジェクトマネジメントの中では、一般的には、計画の中でWBSによって成果物(目標)を明確にし、その目標達成に必要なアクティビティに対する責任の明確化のためにRAMを作る。さらに、それぞれのアクティビティに対して、所要時間や共同作業者、作業順序に対する制約などをセットで決める。これらが、マネジャーから指示された作業方法ということになる。
作業者のレベルによって異なるレベルの指示が必要であるが、これについては、WBSの詳細度、アクティビティ定義の精度などでカバーしていくことになる。
つまり、プロジェクトマネジメントのプロセスをきっちりとやれば、前回述べたコミットメントのプロセスをきちんとカバーしていることになる。これが、前回の記事の答えだ。
◆レスポンシビリティを果たす
逆にいえば、WBSやアクティビティ定義、RAMといったドキュメントがない場合にはコミットメントのプロセスがきちんと実行されていないことになり、メンバーに責任(レスポンシビリティ)が発生しているとは考えられない。堅苦しく感じるかもしれないが、この部分はプロジェクトマネジメントの基本中の基本であるので、よく考える必要がある。
さて、コミットメントがある前提の中で、レスポンシビリティとは
コミットメントされた作業の中で、発生した障害の報告、経過の報告、目標の達成度の報告を行い、さらに、目標達成に有効な対策を立案したり、あるいは、目標の修正を行うこと
と定義できる。作業責任という場合、ここまでの範囲が含まれる。これから分かるように、リスクマネジメントでいう「是正」はレスポンシビリティの範囲で行われることになる。
ただし、レスポンシビリティを果たすことは単にメンバー(担当者)だけの責任ではない。プロジェクトとしてのレスポンシビリティを果たすため、プロジェクトマネジャーやプロジェクトマネジャーに指示されたリーダーは作業の指導を行う責任がある。
あるいは、必要な場合には、作業方法の変更を指示する必要もある。これらができて初めて、レスポンシビリティを果たしたことになる。お気づきだと思うが、RAMでは、これらの責任についても明示的に決定することになる(ただし、PMBOKの標準RAMでは少し弱いと思うが)。
◆アカウンタビリティを果たす
さて、ではアカウンタビリティとは何か?前回述べたようにこれは外部に対する責任を意味している。この内外の関係はさまざまなものがある。作業者個人が共同作業をしているチームに対するアカウンタビリティもあれば、チームがプロジェクトに対するアカウンタビリティもある。もちろん、プロジェクトとして外部のステークホルダに対するアカウンタビリティもある。
いずれの場合も、プロジェクト作業の結果を報告し、次の作業へのコミットメントを新たにするのがアカウンタビリティである。アカウンタビリティのためには、以下の2つのポイントがある。
・目標との差異を数値で報告すること
・結果を分析した振り返りが含まれること
ここで振り返りとは、目標に対して差異の発生した原因を定量的、かつ、論理的に説明し、その差異を克服するための対策を立案することを言っている。
◆プロジェクトマネジメント
=コミットメント+レスポンシビリティ+アカウンタビリティという構図
これで、お分かりいただけたと思うが、コミットメント、レスポンシビリティ、アカウンタビリティは普通にプロジェクトマネジメントを実施していれば実現できる。前回から述べてきたことをまとめると、プロジェクトに従事する人が責任を果たすとは
(1)作業遂行の約束
(2)責任を持って作業を遂行する
(3)振り返りを含む説明の責任を果たす
のサイクルをきちんとするということである。従って、結果が出ればプロジェクトマネジメントなどは不要であるということで済まされる議論ではない。
これらの責任は、今後、内部統制が厳しくなるとともに、だんだん、厳格な運用が行われるようになることが予想されるので、改めて認識を新たにしておきたい。
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