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2013年7月30日 (火)

【プロデューサーの本棚】コネクト ―企業と顧客が相互接続された未来の働き方

4873116198デイブ・グレイ、トーマス・ヴァンダー・ウォル(野村 恭彦監訳、牧野 聡訳)「コネクト ―企業と顧客が相互接続された未来の働き方」、オライリージャパン(2013)

「コネクト」というコンセプトを中心におき、未来の企業の形態を、その兆候が見られる事例とともに描いた一冊。

コンセプトはシンプルであるが深く、実現は容易ではない。コネクトにたどり着くまでのステップも明確にしており、その意味でダニエル・ピンクが推薦の言葉として言っているように、ロードマップとなる本である。



まず最初にコネクト型企業のイメージを紹介しておこう。この本ではいくつかのコネクト企業の例を挙げているが、その中の一つにノードスト ロームという百貨店がある。ノードストロームはノーと言わない百貨店として有名であるが、それを実現しているのはコネクト型の組織設計だという。ノードス トロームでは、販売員は売り場に束縛されない。ある客が衣類や靴、香水などを求めるなら店中を案内して構わない。さらに、今ではツイッターや電子メールな のでつながっている。さらに、商品の貸し出しもする。これらがノーと言わないの所以が、このような顧客と従業員の関係がコネクト型と言われるものである。 顧客と企業ではなく、顧客と従業員、あるいは小さなチームが直接つながっている形態である。

さて、本書であるが、前半はいろいろな側面からコネクト型でなくてはならない変化や、変化に伴う問題を述べている。

もっとも大きな変化は、経済がサービス化したことである。サービスであるにも関わらず、それ以前のモノと同じようなビジネスをしている点に、顧客を満足させられない原因がある。つまり、サービスは作って顧客に提供するモノと違い、顧客と一緒に作っていくものである。

一 方で、サービス企業だけはなく、製造企業も収益性を確保するためにはサービスに投資する必要がある。サービスに投資することは製品群に柔軟化させ、企業の 適応力を高め、品ぞろえの変更や顧客要求への対応が容易になるためだ。サービスに投資するには、サービスが支配するロジックに従うことになる。

す なわち、顧客の行動は千差万別でで標準化をすることは無理がある。顧客に企業が決めた標準に従って行動をしてもらわなくてはならないからだ。したがって、 マクドナルドのような例外を除くと、うまくいっておらず、顧客に不満を残す。もちろん、サービスを改善しようと努力をしての結果である。

たとえば、アクセンチュアの調査によると、64%の顧客が過去1年間の劣悪なサービスを理由に取引先企業を切り替えている。アメリカン・エクスプレスの調査では三分の二の顧客は企業のサービスの改善に気がついていない。

この問題を解決するには、根本的な変革が必要である。その変革のコンセプトはコネクト型企業になることである。

コネクト型企業とは適応型複合系と呼ばれるオープンシステムである。適応型複合系は、相互間、あるいは環境との間でインタラクションを行う主体(エージェント)が動的なネットワークを構成している系だ。

コ ネクト型企業には複数の目標がある。その目標は、顧客のために行うことの中、つまり仕事や仕事の仕方の中にあり、目標を持つことによって学習が生まれる。 ここで重要なことは、目標は常に変わるということだ。自分自身、あるいは競合が顧客の望むものをあたえると、顧客の要求は高くなり、目標も変えざるを得な い。したがって、学習をしないと企業は取り残される。

サービスでは、その質を評価するのは顧客であるので、サービスの質を上げるには2つ の方法しかない。自分たちのパフォーマンスを上げることと、顧客の期待を下げることである。基本的には企業の約束によって顧客の期待が決まるので、約束を 守り、顧客の期待に応える成果を上げる必要がある。

サービスのやっかいな問題は、上に述べたように顧客の多様性である。すべてのサービス ビジネスでは多様性は避けられないという前提で、「アシュビューの法則」がある。アシュビューの法則は指揮系統はすべて指揮の対象システムと同等あるいは それを上回る多様性を準備しなくてはならないというものだ。ここで、マクドナルドのように多様性を下げることで成功するのは例外的で、多くの場合、多様性 を吸収しなくてはならない。このために組織の再編が必要で、コネクト型組織を目指す。

コネクト型企業の基本はポジュラー的組織と呼ばれる 組織形態である。これは、機能や専門に業務を分割するのではなく、業務を「ビジネスの中の子ビジネス」に分割していく。分割された業務は完全に独立した サービスとして振る舞う。もう一度、最初に述べたノードストロームの例を思い出してほしい。一人一人の販売員が百貨店と同じ性質の子ビジネスを行ってい る。

このような例はそんなに多くないのだろうが、モーニングスターというトマトの運送会社、ラショナルソフトウエア、一時期日本でも話題になったブラジルのコングロマリットであるセコムなどを事例として挙げている。

さ て、では具体的にこのような組織形態をどのように実現していくかだが、本書では「ポッド」という概念を提唱している。ホジュラー組織では、意思決定を顧客 の近くで、迅速に行わなくてはならない。ノードストロームでは販売員に権限委譲しているわけだが、このように小さなユニットを作ってそこに権限委譲する。 このユニットがポッドだ。ポットには

・柔軟かつ、敏速
・失敗が許される
・迅速に規模を拡大できる

といった性質を持つ。

さらにポッドにはプラットホームが必要である。プラットホームはポッドの作業をサポートし、各ポッドが多様性を吸収し、当事者間で調整できるようにすることを目的としている。

たとえば、アマゾンのマーケットプレイスというプラットホームを考えてみてほしい。ポッドとしていろいろな店が出店している。このマーケットプレイスはどんな店でも簡単に出店できるようになっている。つまり、多様性を吸収しているわけだ。

コネクト型企業はひとつのネットワークであり、他のネットワークの中で生存している。ネットワークの中で力をふるうには

・状況認識
・影響力
・互換性

が問題になる。そして、これらの要素に対応して以下の3つの原理があることを知っておくとよい。

(1)発見の原理:状況認識の能力が高いと、より多くの環境変化に気づく
(2)反応の原理:影響力と互換性が高ければ、変化に対してより効果的に応答できる
(3)プラットホームの原理:プラットホームへ多くの影響を与えれば、ネットワーク全体に大きな影響を与えることができる

コネクト型組織のリーダーには

・前線でのリーダーシップをとる
・リーダー自身が学習の場になる
・影響力を持つ

といったことが求められる。

さらに経営者は

・システムの設計
・システムの運営
・システムの調整

を行わなくてはならない。システムの設計においては

・個人の自由と公共の利益のバランスを取る
・その範囲の人たちを参加させる
・重要なリソースに余裕を設けて可用性を高める
・つねに当事者同士での合意を信頼する

といった行動が必要である。

以上が、コネクト型組織のポイントであるが、著者たちの調査によるとコネクト型組織へのロードマップは

(1)有機的な道のり
(2)リーダー主導のトップダウンの変化
(3)試験的ポッド
(4)ネットワークの構築

の4つのプロセスからなっていることが多いそうだ。

この本の根本的な問題提起である、サービスの基本的なロジックを踏まえていないことによって業務の推進がうまくいっていない企業が非常に多い。たとえば、システムの開発業務がその典型だろう。そして、この本が否定している、プロセスをカイゼンするという方向に走っている。

この本は、そのような多くの企業によって明確な方向性を示してくれる。経営者にぜひ読んで欲しい。


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