【PMスタイル考】第152話:戦略的に働き方を決める
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◆働き方改革でビジネスのサイクルが鈍る
今回のPMスタイル考は働き方の問題をテーマに取り上げてみたい。
働き方改革が言われるように、もう2~3年になる。確かに、残業が減ったといった声はあるが、生産性が上がったという声はあまり聞こえない。むしろ、よく耳にするのは、残業は減ったがビジネスのサイクルが遅くなったという話だ。要するに、生産性が向上していないわけだ。
プロジェクトマネジメントでも最近よく聞くのは、顧客やステークホルダーとの納期交渉をするに当たって、ステークホルダーを満足させつつ、納期をできるだけ遅くしてもらうにはどうしたらよいだろうかといった話だ。
◆なぜ、残業しても生産性が向上しないのか
なぜ、こんな状況になるのだろうか?
最初の見通しでは、労働時間を少なくすれば作業効率が上がり、生産性も向上するというものだったはずだ。
どういう働き方をすれば生産性が向上するかは、組織や仕事、ビジネスの方法や取り扱っている商品によって異なる。当たり前のことだが、意外と考えられていない。
思考停止したように、
残業が減る
→ 集中力が高まる
→ 作業効率が上がる
→生産性が上がる
といったパターンがあると信じている。これが単なる思い込みに過ぎないことはすぐに分かる。例えば、GAFAの社員の仕事の仕方を想像してみてほしい。
◆GAFAの働き方
グーグルでは、創造力を引き出すための環境を整えている。そのために、仮眠や自由な食事があるそうだ。独自のマインドフルネスのプログラム(SIY)を開発し、大規模に適用しているのもこの一つであろう。
ジョブズ亡きあとのアップルではもっと型にはまった働き方をしている。これがiPhoneの次の商品が産まれてこない原因だといっている人もいるくらいだが、売上げは確実に大きくなっている。
アマゾンでは効率を重視した働き方をしている。これは、物流があるため、何よりも効率が重要だからだろう。徹底的に効率化するために、ロボットの導入も盛んに行っており、人間は補完的に働くことを余儀なくされているようにも見える。
フェースブックはコミュニケーションを重視し、コミュニケーションにより、自由な働き方をしている。一人一人のライフスタイルに合わせた働き方ができるようになっているという。これによって、オープンでイノベーティブな組織・文化づくりをしている。
この4社の例を考えてみても、生産性をあげるために、画一的な方法はないことは容易に想像がつく。
◆成果を1割増やすにはどうすればよいのか
従来、特に日本では、仕事は従事時間を1割増やせば、成果も1割増えると考えられてきた。ものを作ったり、売ることを考えると実際にそうなっていたので、効率を1割高めれば、成果も1割増えていた。
プロジェクトにおいても、スケジュールが遅れてくれば、人を投入すれば工数が増えてリカバリーできた。こういう世界では、そこで、長時間労働を解消すれば効率が上がるから、生産性も上がると考えられていた。
確かにそういう仕事もあるだろう。しかし、アマゾンのやり方を見ていれば分かるように、こういうタイプの仕事はこの先、ロボットに任せるようになり、人間の役割ではなくなっていくだろう。
◆VUCAの時代には従来の方法では生産性は高まらない
さらに、これからの時代はよく言われるように、VUCA(「volatility」(変動が激しく不安定)、「uncertainty」(不確実性が高く)、「complexity」(複雑で)、「ambiguity」(曖昧な))の時代である。VUCAの世界では、従事時間を増やせば、成果が増えるほど甘い世界ではない。作業効率を上げても成果には反映されるとは限らない。つまり、従来の方法では生産性は向上しない。
例えば、新しい商品を開発して販売することを考えてみてもこれは明らかだ。すでに誰かが作っているものをより進化させて展開していく分には時間を1割増やせば、売上げも1割増えるだろう。しかし、VUCAの世界ではそうはいかない。
全く新しい商品を作る。何を作っていけばよいかは分からないので、従事時間を1割増やしても1割たくさん売れるとは限らない。さらに、ここに誰に、どのようにして売るのかということが絡んでくる。誰に売れば売れるかは曖昧であるし、はっきりしても時間とともに変わっていくことが多い。あるいは、対面だと売れるが、ネットだと売れないいった構造的な問題があるかもしれない。すると、仕事の時間を1割増やしても、成果が1割増えたとしたらラッキーという感じになるだろう。
◆「自由」の重要性
フェースブックが分かりやすいが、このような時代には個人が「自由」であることが何よりも重要である。変化したり、曖昧な状況で仕事を進めていくには、組織としての判断より、コミュニケーションの方が重要で、その前提が自由に動けることである。極論すれば、自由にコミュニケーションすることだ。
同様に、グーグルでは、社員が自由に考えることができるし、アップルでは不確実性に対応した商品にしていくように社員が自由に考えている。
余談になるが、このような状況を目の当たりにして、妙な考えをしている管理者が出てきている。それは、従事時間を増やせば成果が増えるような領域の事業を求めている管理者である。これは、後で述べるように本末転倒である。これでは何のために仕事をしているのか分からない。
VUCAな世界では、過去のデータに基づいた対策や戦略では通用しなくなっている。ビジネスも、ビジネス環境も激しく変動し、不確実で複雑で曖昧なものになってしまったからだ。そのような世界では1割仕事時間を増やしても成果が1割増えるとは限らない。そもそも、残業をしても成果が上がらなくなってきたのは、この性質を見誤っていたためだ。
◆正解は見つからないのではなく、ない
これに対して、よく正解が見つからなくなったというが、VUCAの世界ではそもそも正解はない。
正解がないことを前提にして働くことが不可欠になってきた。つまり、「こうすればうまくいくだろう」という仮説を作って、仮説を修正しながら進めていく。場合によっては「こうしたい」と決めて実行していくといった取り組みが必要になってきた。
つまり、どのような働き方をすればよいかを決めるのは、一般的な常識ではなく、ビジネスモデルであり、もっと大きなところでは組織やビジネスのビジョンやミッションなのだ。これは、上に述べたGAFAの例を見ても分かる。GAFAにはそれぞれの企業のビジョンやミッションがあり、それを実現するために独自のビジネスモデルがある。
◆VUCAの世界で生産性を向上させるには
従って、生産性を向上させるには、ビジネスモデルの成功要因を分析し、どのような働き方をすればその成功要因を満たすことができるかを考えなくてはならない。言い換えると、ビジネスモデルに応じて、戦略的に働き方を選ばなくてはならない。労働時間を減らせば効率が上がるというような単純なものではないのだ。
では、なぜ、日本企業は残業を減らせば生産性が高まると考えているのだろうか。一つの大きな原因は、戦略があまり考えられていないことだろう。そのため、本当に達成できる目標や計画がはっきりせず、戦略実行のアプローチとしてのビジネスモデルも明確ではない。
もっといえば、ミッションやビジョンがあいまいであったり、共有されていなかったりすることだ。これによって、縦割りの組織のままで戦略実行をしている。従来であれば、それでも経営層で計画が作られ、その計画の実行によって成果は上がっていた。しかし、VUCAの時代には、そのような戦略実行はほぼ不可能だ。環境が変化すれば、プロジェクトやチームにおいて戦略実行のための方法を変えていかなくては成果は上がらない。そのためには、プロジェクトやチームの自由と相互のコミュニケーションが不可欠なのだ。
生産性を向上させたければ、この2点を実現しなくてはならない。そのためには、経営層の作った戦略を実行するためのプロセスへの固執から脱却し、プロジェクトやチームが自ら判断し、自由に行動できるようにすることが必要である。
◆コンセプチュアルスキルが重要
最後にコンセプチュアルスキルとの関係を述べておきたい。戦略、あるいはビジョンやミッションに応じて仕事を進め、成果を上げるためには、これらの抽象的な考えを具体化して、実行し、うまくいかなければまた、新たな具体化を考え、進めていく必要がある。
これがVUCAの時代の仕事の進め方であるが、これがどれだけ適切にできるかは、プロジェクトやチームのコンセプチュアルスキルがどれだけ高いかによる。その中で、誰が中核になるのかはリーダシップの問題だが、いずれにしてもプロジェクトやチームでコンセプチュアルな思考ができることは不可欠である。
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