【PMスタイル考】第136話:高品質・低価格という発想を捨てる
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「日本企業の生産性が低い背景にあるのが、高品質・低価格という価値観である。」
といわれると反論したくなる人も多いと思うが、今回のPMスタイル考はこの問題について議論してみたい。
業種に限らず多くの企業は、生産性を犠牲にしても「高品質・低価格」を実現すべきだと考えている。
これはこれで、一つの価値観・方向性であるが、問題はこれで甘えの構造ができていることだ。それは主に
・高品質・低価格を実現するには生産性が犠牲になるのはやむをえない
・新しいものより、高品質・低価格が重要だ
の2つである。
現実には、高品質・低価格は求められていないことが多くある。いくつかのパターンがあるが、その中には、提供者がひたすら高品質・低価格の重要性を主張し、消費者を洗脳してしまうといったパターンもある。まさに甘えの構造ができてしまっている。
◆生産性に対する誤解
このように高品質・低価格に拘る背景には、
「第132話:生産性と効率性」
https://mat.lekumo.biz/pmstyle/2018/03/post-2dba.html
で指摘した効率性と生産性の混同による生産性への誤解がある。簡単に復習しておくと
効率性:ある作業の労力や時間、資源をどれだけ小さくすることができるかを示す指標。例えば、作業で1日に何個の商品を作れるか、仕事で1日にどれだけの(作業)成果物を作れるかが効率性である。
生産性:使える資源をすべて総合的に使って、どれだけ新しい価値を生み出せるかを表わす指標である。価値というのは、仕事の成果物とは限らない。仕事において作られた成果物がどれだけ事業(の目的)に役立つかが価値である。仕事の最終的な成果だといってもよい。
という違いがある。働き方改革で向上したいのは、当然、生産性である。
生産性と効率性を混同しやすいのは、事業成果を収益(あるいは売上げ)だけでとらえているからだ。収益だけでとらえれば効率よく作業をすることが生産性を向上させることに直結する。しかし、事業成果は、ブランド価値など、効率性が向上しても生産性が向上するとは限らない。
生産性の向上へのアプローチはこの点をよく考え、高品質・低価格という価値観を捨てるところから始めるべきだろう。
◆おもてなしの功罪
もう一つ見落としてはならないのは、セルフレス・ホスピタリティと英訳される「おもてなし」の精神である。
もちろん、おもてなしの精神自体が悪いというわけではないのだが、サービスをセルフレス(無私)だと位置付けていることが客をワガママにしていることは間違いないだろう。平たく言えば、客であれば、金さえ払えばどのような要求をしても応えてもらえるという思い込みがある客が少なくない。
一方で、強く要求しているわけではないのに対応してしてしまう提供者側の 言い訳の背景になっているのもおもてなしだ。おもてなしだから客が要求しなくても「喜んでもらうために」高品質・低価格で提供しようとする。
高品質・低価格という理不尽な状況に関する議論をする際にはここも踏まえてきたいポイントである。
◆生産性より、高品質・低価格
日本は現場力が高い、そして現場力の象徴は高品質・低価格な製品の提供であるという考え方がある。この考えは非常に根強いが、本当にそうなのだろうか。まず、ここから考えてみたい。
生産性が注目される中で、高品質・低価格と生産性の関係でよく見かけるのは、
高品質・低価格は日本の伝統的な価値観であり、生産性が多少下がっても守らなくてはならない
という考え方である。
この考え方に対して、ゴールドマン・サックスで日本の不良債権のレポートで注目を浴び、その後、小西美術工藝社の社長に就任、日本の伝統工芸の在り方にさまざまな影響を与えているデービット・アトキンソン氏が興味深い指摘をしている。それは
「戦後の日本は輸入を厳しく制限し、国内の価格を高くし、それをベースとして輸出をしていた。1990年代にこのモデルが崩れ、高品質・低価格に移行していくが、その背景には生産性の低下がある。1990年代以前は生産性は低くなかった。」
というものだ。
確かにそのとおりで、バブルの後、生産性の低下と相まって、高品質・低価格という価値観が出てきたように思う。そして、それが「失われた30年」を生み出した。
◆トッププレイヤーは高品質だけでは通用しない
ここで重要なポイントになっているのは、キャッチアップの時期から、トップになっていったことだ。キャッチアップの時代には、高品質だけで十分だった。
品質の差別化で競争に勝てるので、多少高くても売ることができた。ところが、トッププレイヤーとして先頭に立って新しいことをしようとすれば、新しいアイデアが必要になる。これが生まれなかったことに本質的な問題がある。
この問題に対処するために、日本が特に海外に対して行ったことは高品質・低価格化である。品質を高いままに、低価格にすることによって競争力を持とうとした。これが、伝統的な価値観だと思い込んでいる高品質・低価格が生まれた背景である。これに伴って、効率性を向上させることに執着した。
◆意味のない高品質・低価格のパターンから脱却する
第132話で述べたように、ここですべきことは、効率性を上げることではなく、製品やサービスの付加価値を向上し、生産性を上げることだ。
そのための第一歩が高品質・低価格を捨てることであるが、そもそも、どういう形でこの価値観が登場しているかという点に関して、アトキンソン氏が興味深い指摘をしているので紹介しておこう。アトキンソン氏によると高品質・低価格だと思っているが、意味のない製品には6つのパターンがあるという。
・求める人がいなくなっている高品質・低価格
・誰も求めていない高品質・低価格
・適切な価格にすると「やらなくてもよい」と言われる高品質・低価格
・供給側が勝手に高品質だと思い込んでいる高品質・低価格
・消費者を洗脳した高品質・低価格
・低価格がもたらす妄想の高品質・低価格
特に現場で感じることが多いのは、3番目の高品質・低価格である。アップルの製品がよい例だが、品質が高いと高価格で提供できる。しかし、日本製品は現実にはできないことが多い。その理由は二つある。
一つは価値を機能にしか置いていないこと。アップルを見ればわかるように、製品の価値は機能や技術だけではない。ブランドなど他にもいくつか要素がある。
二つ目は品質をモノの物理的な品質でしか考えていないことだ。品質にはいわゆる「知覚品質」と呼ばれる主観的評価がある。企業イメージ、ブランドなどによって生まれるものだ。価格を高価格にしようと思えば、知覚品質を向上させる必要がある。
この2点を実現していけば、高品質・高価格で提供できる製品を創っていけるだろう。
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