【プロデューサーの本棚】インサイドボックス 究極の創造的思考法
ドリュー・ボイド、ジェイコブ・ゴールデンバーグ(池村 千秋訳)「インサイドボックス 究極の創造的思考法」、文藝春秋(2014)
創造的思考法というと、「枠(制約)を外して考える」というのが常套句になっているが、この本は逆で、制約の中に創造的な答えがあるという考えの思考法「インサイドボックス」を事例を紹介しながら紹介した本。事例が面白いものが多く、説得力があり、読み物としても面白い。
この本の始まりは、みなさんもよくご存じのナインドット(3×3の点を4本、あるいは3本の一筆書きの直線で結ぶというエクスサイズ。このエクスサイズは正方形の中で考えると答えは見つからず、外にはみ出したところで折るとできるというもの。しかし、実際にはそのようなヒントを与えても正解率は変わらないそうだ。
ここから、枠をはみ出すというのは、創造的な問題解決において有効な方法ではないというインサイドボックスの有効性を言っている。
インサイドボックスの手法はそんなに複雑なものではなく、以下の5つである。
(1)引き算
(2)分割
(3)掛け算
(4)一石二鳥
(5)関数
この5つで多くのイノベーションが生まれると言っている。
まず、引き算は製品やサービスに欠かせないと思われていた要素を取り除くことである。
・旅客航空サービスからさまざまな機内サービスを取り除いて生まれたLCC
・カセットレコーダーからスピーカーと録音機能を除いたウォークマン
・電話機能を除いたモトローラの携帯電話
などが例として挙げられている。特に重要なポイントは欠かせないと思っている要素は思い込みであることが多いので、そこに注目すること。
二番目の分割は、既存の要素を分割し一部を分離して用いることだ。たとえば、リモコンは操作機能を本体から切り離し、利便性を向上させている。分割には3つの種類があるとし、以下のような例がある。
・機能的分割:製品からなんらかの機能を取り除き、別の場所で使う
モーター機能を分割して室外に置き、サーモスタット機能をリモコンに移し、利便性を高めたエアコン
・物理的分割:ランダムな物理的線引きにより製品を細かく分ける
艦内のスペースを分割して、安全性を増した潜水艦
・機能を維持した分割:製品をミニチュア版に分割する
大容量化するハードディスクを小分けにして生まれたUSBメモリー
三番目の掛け算は製品やサービスの一部をコピーして増量し、それまで無意味だと考えられていた変更を加えること。たとえば、子供自転車用の補助輪がそうだ。
イノベーションの有名な例では、ジレットがある。ジレットは髭剃りの刃を2枚に増やし、別々の機能を持たせた。
四番目の一石二鳥は、製品やサービスの一つの要素に複数の機能を持たせることだ。たとえば、乳液などの化粧品に日焼け止めの効果を持たせるといったものだ。
方法は以下の3つでそれぞれ、以下のような例が挙げられている。
・アウトソーシング
開発は外部に任せ、窓口だけ一本化するスマートフォンアプリ
・既存の内部資源の活用
ミュージカルの俳優に楽器演奏者を兼任させる
・内部の要素に外部の要素の役割を担わせる
顧客に営業部員の研修をやってもらう
最後の関数はそれまでに無関係だと思われていた複数の要素を連動させることによって、製品やサービスに画期的な機能をもたらすことだ。たとえば、雨の強さによってワイパーのスピードが変わるといったものだ。
インサイドボックスによる問題解決のポイントになるのは、「矛盾」である。この本では、矛盾には偽物の矛盾と本質的な矛盾がある。ポイントになるのは偽物の矛盾、つまり、考えれば解消できる矛盾をいかに見つけることができるかにある。たとえば、
もっとデザインをに力を入れたいが、その時間がない
といった矛盾は偽物の矛盾であり、デザインを誰かに手伝ってもらえばいい。
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