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◆問いと好奇心
イノベーションの風土づくりの中で、もっとも効果的かつ、現実的なのは「問い」である。問いを生み出すのは好奇心だ。好奇心はイノベーティブなリーダーのエンジンだといってもよい。好奇心のないところにイノベーションはない。
アップルのスティーブ・ジョブズやグーグルのエリック・シュミット、アマゾンのジェフ・ベゾスなどに関する書籍や記事を読んでいると、極めて好奇心が強く、常に何か「問い」を発していることが印象的である。
たとえば、グーグルでは戦略を策定するに当たって、まずは答えを出さなくてはならない「30の問い」を練り上げることから始めるそうだ。
◆好奇心を持ち続けるむずかしさ
問いを発し続けることは、好奇心を持ち続けることで、これが意外と難しい。たとえば、あなたが会社に入っ たときにどんなことを質問したかったかを考えてみてほしい。自分たちはなぜ仕事をしているのかといった質問もあれば、なぜこの製品を作っているのか、自分 たちの作っている製品はどのように世の中の役にたっているのかといったことを質問した(したかった)のではないだろうか。
会社に入って時 間がたってくると、そんな初歩的な疑問を持たなくなる。よくいえば、仕事になれて成熟してくるわけだが、本当に理解したわけではなく、製品を作ることに対 して好奇心をなくしてしまう。仕事だから当たり前だと思ってしまうのだ。このようなモードに入ると、なかなか、疑問を持つことは難しくなる。
◆うまく回らない組織は基本がぶれていることが多い
僕がコンサルタントとして組織に入るときに心掛けているのは、よそ者であり続けることだ。もちろん、クライアントを理解することは重要なので理解はするが、同調はしないようにしている。好奇心を保つためである。
そ して、初歩的な質問がどんどん、出てくる。うまく回っていない組織や仕組みは基本のところ、つまり、初歩的なところがぶれていることが多い。たとえば、何 のためにこの事業をやっているかといったことで、もっともらしい戦略はあるのだが、なぜその戦略なのかというところが、ビジョンや顧客の常識とずれている といったことだ。ここに問題点があることが多い。
イノベーションにとってこの好奇心が生命線であるといっても過言ではない。したがってリーダーは組織が好奇心をもちづけるようにしなくてはならない。
◆改善とイノベーション
実は日本企業はこのようなメンタリティを持っているところが少なくない。改善である。改善もこれはなぜ、このやり方なのだろうという疑問から始まる。しかし、改善とイノベーションは少し異なる。改善における着眼点は問題点である。
改善という概念を考えた人はえらいなあと思うのだが、業務で行っていることすべてに疑問を持つようになると、オペレーションは回らなくなる。基本的には受け入れ、その上で問題点を変えていくという切り分けをしているのが改善だ。
これに対してイノベーションを目指す問いは、そのような制約がない。すべてが疑問を持つ対象になる。上に述べたように、業務に慣れてくるとこれが逆に難しいのだ。
◆問いを持つのが難しい3つの理由
な ぜだろうか?いくつかの側面からの理由があるように思う。一つ目は、現状維持をしたいと思うことだ。現状維持をしたい理由は2つある。一つは、現状を変え るということは現状否定で、問題があることを認めることである。従って、成果に明確な問題があれば別だが、そうでなければこのような疑問は持たない。もう 一つはやり方に慣れてしまうと、そのやり方に従うことが楽で、変えたいとは思わない。
二つ目は、忙しいことだ。現状がどうだとか考えている暇はない。だから変革が必要だということで水掛け論になるわけだが、現実問題としては目の前の仕事をしているうちに日々が終わってしまう。
三つ目は、心理的な理由で、疑問を持つことは組織や上司の方針に逆らっていると思われるのではないかと思う。あるいは、そう思われなくても「あいつはまだ、そんなことを言っているのか」と馬鹿にされることだ。このように思う人は意外に多い。
コンサルタントとして入る場合にも、初歩的な質問をするとそんなことを知らないのかと言わんばかりの態度をとられることが少なくない。しかし、初歩的な質問を積み上げていると、問題がある場合には答えの辻褄が合わなくなってくるのだ。
◆リーダーの風土作りにおける役割と手法
リー ダーの風土づくりでの役割は、まずはこの3つに対して手を打ち、問いが出てくる風土にしていくことだ。この3つの理由について理解しておく必要があるの は、この3つの状態は自然な状態であるということだ。つまり、やっていることに疑問を持とうといった掛け声だけでは変わらない。グーグルの例のように、仕 組みを作らないと変わらないということだ。
仕組みとしては、ホールシステムアプローチのような仕組みづくりが有効である。たとえば、
・ブレーンストーミング
・ダイアログ
・ワールドカフェ
・AI
・フューチャーサーチ
などの対話の仕組みを取り入れ、組織的コミュニケーションを活性化していくことが望まれる。
◆終わりに
本連載は今回で終わります。本連載では、アイデア出し、アイデアからイノベーションの実行へ、実行の管理、イノベーションの風土づくりという流れで、初歩的なことを説明してきました。
次回からは、応用編としてもう少し深く、プロセスなどに踏み込んだイノベーションマネジメントの方法を解説したいと思います。
◆深刻な雰囲気の中でイノベーションは生まれない
ラテラル・シンキングで有名なポール・スローンの言葉にこんな言葉がある。
深刻な雰囲気の中でイノベーションは生まれない
日本企業でイノベーションが生まれない理由を一言で説明すればこの言葉に集約されるのではないか。イノベーションを目指す企業にとってよいお手本であるグーグルがメディアで紹介されるのを見るたびにこの言葉を思い出す。
制度やイノベーションマネジメントにも15%ルールを初め、学ぶことはたくさんあるが、注目すべきは
社内移動用の電動キックボードやセグウェイ、料理人が各国の料理を提供する無料食堂、フィットネスジムやサウナを完備したキャンパス、定期的に開催されるローラーホッケーのイベントなど充実した福利厚生サービス、猫以外のペットを持ち込み可能なオフィスやおもちゃなど遊び道具を持ち込める仕事部屋、ラバライトやゴムボールがあちらこちらに置かれた独特な企業文化(WikipediaのGoogleより)
といった社風だ。
◆2つのオフィスの経験から
ちょっと想像してみてほしい。しーんと水を打ったように静まり返ったオフィスで、失敗してもいいよといって新しいことに取り組むときにどれだけ自由な発想をできるか。机に座りっぱなしで立つのにも人の目を気にするようなところで、ものを考えることができるのか。
僕 は後ろから上司が見張っているようなレイアウトのオフィスと、ブースに仕切られたオフィスで、ブースから出れば、ゲームや運動に興じることのできるオフィ スの両方で働いた経験がある。それぞれに長所があると思うが、ものを考えることにおいては圧倒的に後者の方が生産性が高い。
もちろん、環境が生産性を高める直接的な要因になっているわけではない。そのような環境から生まれる雰囲気や風土が生産性を高めている。
◆組み合わせを引き起こすオフィス
両 方に長所があると言ったが、ルーチンワークをするには前者の方がいい。後者のオフィスでソフトウエアの受注開発をしている人たちがいたが、生産性が悪いと 思ってみていた。なぜそうなるのかと考えたことがあるのだが(これは当時、論文に書いたことがある)、スティーブ・ジョブスを初め、多くの人が言っている ように創造とは組み合わせなのだ。一見、関係がないものを組み合わせることができる。その距離が遠ければ遠いほど、創造性が高い。
この組み合わせを引き起こすには、統制のとれたオフィスは邪魔だ。人が自由に動け、自由に行動することのできる環境ができて初めて、組み合わせが生まれる。机の上で考えていても無駄だ。
こ の主張をしたときに、日本のオフィスは米国と違ってパーティションがなく、自由に周囲の人と話ができるし、ワイガヤのようなスペースもあると言った人がい た。僕は会社にいたときに、全然違う部門に雑談をしにいって、こっぴどく怒られたことがある。そのときはその上司の考え方の問題だろうと思って気にもしな かったが、会社を辞めていろいろは企業の内部を見る機会ができると、特殊なものではないことがよく分かった。部門の壁を超えることは難しい。ある知人が 言っていたが、社外より社内の方が遠いとか。
◆危機感からは何も生まれない
日本の企業の多くが真面目な顔をして仕事をしているのは、アリバイ作りだと思う。失敗しないように一生懸命やっているという雰囲気を醸し出している。そうして初めて、失敗の責任を取られない風土ができるのだ。
上 に述べた2つのオフィスの後者には見学者が絶えなかった。当時、管理職だったので見学者のアテンドをすることもあったが、良く出る質問に、クライアントに 見せられるのかいう質問があった。納品先に工場を見せるような感覚で言っているのだろうが、若気の至りで、「クライアントに人を売っているわけでも、時間 を売っているわけでもなく、成果は出せるので見せることはできる」といったようなストレートな回答をして呆れられていた。
要するに静寂なオフィスと整理整頓された工場は一緒なのだ。まあ、日本的な価値感として分からなくはない。そう思っている会社はぜひ結果を出して、自らの主張が正しいということを世の中に訴えてほしいと思う。
た だ、静寂なのはいいかもしれないが、深刻なのはよくない。キャッチアップでは深刻さは危機感ともいい、推進力になる。しかし、新しいことをやるのに危機感 は要らない。逆に、危機感を持って新しいことをやってもうまく行かない。会社の存続をかけた新商品開発プロジェクトなど、めったにうまく行かない。
特に行き詰りによる危機を乗り越える方法は危機感をあおることではない。危機感から解放して、自由に発想できるようにすることである。
◆インプロ(寸劇)
その一つの方法として、密かに注目しているのが、インプロ(寸劇)だ。環境を変えるとなるとおおごとで、現実にはなかなか難しい。その中で、たとえば、ミーティングだけ自由にやるといった工夫が必要だろう。
ワールドカフェのように、ミーティングの場の環境だけを変えてやるという方法もあるが、ロールプレイや寸劇で打ち合わせをやるというのも効果的である。特に、手垢のついているロールプレイに比べると、インプロは目新しいせいか、結構、効果がある。
こ れはこれで奥が深い世界のようだが、ゲームストーミングの手法として簡単なやり方があるので、興味がある人は勉強してみてほしい。とりあえず、PM養成マ ガジンの10周年のときに、野村さんにファシリテーションしてもらったワークショップで使われていたので、様子を紹介しよう!
【10周年】第1回「ゲームストーミングを活用したプロジェクト活性手法」の様子
Dave Gray、Sunni Brown、James Macanufo「ゲームストーミング ―会議、チーム、プロジェクトを成功へと導く87のゲーム」、オライリージャパン(2011)
◆創造的問題解決では実現しにくいものもある
実行に関しては前回までとして、今回からイノベーションの風土づくりについて述べる。まず、最初のテーマは、以前触れたことのあるポジティブ思考である。
イノベーションのテーマを探すワークショップをやると例外なく問題解決のワークショップになる。
・売り上げが下がった理由
・顧客のクレームへの対処方法
・現状のプロセスの問題点
・無駄があるのは何か
・問題のある社員を如何に是正するか
といったテーマがす
ぐに出てくる。このような問題に対して、問題解決を創造的にして、斬新なアイデアを出し、イノベーションに結び付けて行きたいわけだ。
こ
のようなやり方が悪いとは言わないが、組織としてこのような方向性しかなければ、チャンスを逃していることが多いことも事実だ。たとえば、顧客クレームの
対処方法に対して、顧客が評価する点を見つけて、それを活かしてクレームを上回るサービスを提供するという解決策はまず出てこない。
◆チャンスを逃さないためには
チャンスを逃さないためにはどうすればよいのだろうか。ポジティブアプローチで、ポジティブな面を引き出すことを考える。そのためには、ポジティブな問いを立てて考えてみるとよい。ポジティブな問いの定番は
・自社の強みは何か
であるが、全社的なレベルで取り組むには、もっと実務的なレベルでの問いを立てることも有効だ。たとえば、
・顧客が自社に魅力を感じていることは何か
・新規の顧客はどのような層か
・顧客を喜ばしたのは何をどのようにしたときか
・最近、経験した予期せぬ成功はなにか
といった問いが有効である。
◆イノベーションは成功体験をしゃぶりつくすことから生まれる
このような問いを普段の活動の中でも意識する。前回述べたようにイノベーションに失敗は必須だが、勘違いしてはならないのは失敗から失敗しないようにすることを学ぶことはあまり意味がないことだ。失敗から学ぶのは、ここは失敗するだろうということだ。
イノベーションの中で重要なことは、部分的にしろ、うまく行ったことから学ぶことだ。ある製品を上梓したが、全然、売れなかった。売れなかった理由が重要なのではなく、買ってくれた人が何を評価してくれたかが重要である。
買ってくれなかった人や、買ってみたけどすぐに使わなかった人の話など、どうでもいい。買ってくれた人の話を徹底的に聞く。他社の製品よりよいところはどこかを聞く。そして、それを強みとして、発展させていく。うまくなかったところはどうするか。
◆強みを延ばすことがよいパートナーを見出す
提 携である。弱みは克服する必要はない。弱みを克服したいというのは自前主義の名残である。以前の日本企業のようになんでもかんでも自分で持ちたいと欲張る と弱みが気になる。今は、そんなことをやっていてはビジネスのスピードについていけない。他社と提携することによってカバーすればよいのだ。強みがすごけ れば、すごいほど、自分たちの弱みに強いパートナーが見つかる可能性が高くなる。
この話はイノベーションの本質にかかわる問題である。イ ノベーションはイノベーション自体が目的である。新規性を伴うプロジェクトのように、目的があり、目的実現のために効率のよい方法を探したいわけではな い。もちろん、現実的にはコストの問題があるのでやりたいことの取捨選択は必要になるが、よいパートナーと出会うことは、やりたいことをできるだけやる最 良の方法である。
そのための必要なのが、弱みを気にせず、強みを活かす風土なのだ。そして、その風土づくりはポジティブな問いから始まる。
]]>◆イノベーションで得られる収益はパフォーマンスエンジンに依存する
イノベーションの実行の議論の中で、見逃せないのはパフォーマンスエンジンとの関係だ。
パフォーマンスエンジンは定常業務を行う組織や人、あるいはプロセス(仕組み)のことだ。一般にイノベーションは製品やサービス、プロセスなどを革新する。そして、革新された製品が定常的に生産・販売されるようになったり、サービスが定常的に提供されるようになることにより、初めてイノベーションが収益化される。具体的には製品の場合、生産設備や、販売チャネルをどれだけ活用できるか、サービスの場合、現在の人材への投資がどれだけ活用できるかがポイントになってくる。
このようにイノベーションでどれだけの収益が得られるかはパフォーマンスエンジンとの関係に大きく影響を受ける。まず、この点を頭に入れておいてほしい。
ところが、イノベーションと定常業務は、その比率の議論はされることはあるが、そもそも、どのような関係かという議論がされることは少ない。
◆イノベーションとパフォーマンスエンジンの関係
パフォーマンスエンジンとイノベーションの関係は2つ、ないしは3つの 問題で生じる。一つは開発プロセスである。定常業務として開発を行うような部門の場合、標準的な開発プロセスがある。このプロセスに乗っかってイノベー ション業務を行うことができるかどうかという問題がある。このプロセスに乗っかる場合には、定常業務のガバナンスを受け入れるということである。
二つ目はプロセスの問題と関連するが、人の問題。イノベーションの実行にどれだけパフォーマンスエンジンの担当者を巻き込むかである。
そして、そのようなことを考えなくてはならない理由が三つ目で、イノベーションの成果が経営的な成果になるために、パフォーマンスエンジンとの統合を如何に行うかである。
◆パフォーマンスエンジンとの統合
イ ノベーションとパフォーマンスエンジンの関係でもっとも重要なのは三つ目である。イノベーションといえば技術革新だった時代からある問題は、新しい技術を 開発するところまではいいのだが、開発した技術を収益に結びつけようとしたときに、パフォーマンスエンジンとの関係を考えずに、製品イノベーションに走っ てしまって、結局、技術イノベーションが成果に結びつかないままで失敗に終わるというケースがある。
このような失敗を防ぐためには、技術 が生まれてきた段階で、製品イノベーションはパフォーマンスエンジンを最大限に活用する方向で考えるべきである。ホンダのオデッセイというクルマがある。 初代のオデッセイはミニバンのデザインを全く新しいものにし、おそらく、自動車のデザインとしては、歴代一二を争うようなイノベーションだと思う。この形 状は開発費の制約からアコードとプラットホームの共通化を図ったことで生まれたと言われている。
つまり、パフォーマンスエンジンを最大限に活用しようとすることからイノベーションが生まれたわけだ。このようにイノベーションとパフォーマンスエンジンの活用の間にはシナジーがあるケースが多い。
◆人の問題
もう一つ大きいのは二番目の人の問題である。イノベーションの実行の際に、パフォーマンスエンジンを担当する人のスキルをどれだけ使うかは成果に大きく影響をする。
イ ノベーションというと、できるだけ大きく変えることが望ましいと考える傾向があるが、上に述べたように回収を考える場合には、イノベーションの程度は大き な判断要素になる。つまり、すべてを新しくすればいいと言う話ではない。市場への訴求とパフォーマンスエンジンの活用のバランスを考える必要がある。
このバランスを実現するのが、イノベーション担当の人と、パフォーマンスエンジンの担当の人のブレンドの具合である。
]]>前回、イノベーションプロジェクトの中止について話をしたが、中止をどのように扱うかというのと同じくらい難しい話が、「失敗」の話である。
イノベーションでは失敗を認めなくてはだめだという議論がある。観念的にはそのとおりなのだが、この話はそんなに単純な話ではない。失敗の仕方の問題で、全力を尽くして失敗したのと、適当にやって失敗したのでは全く意味が違う。適当というのは、自分がそこに投入できる時間の中で全力を尽くすという意味だと思ってほしい。
イノベーションのようなテーマをやるのに適当にやる人はいないだろうと思う人がいるようだが、これが実に多い。むしろ、適当にやる人の方が多いかもしれない。これは、評価の問題が絡んでくるが、イノベーションは難しさの割には評価されない一面がある。
◆失敗が許容できる仕事は評価されない仕事
日本組織は失敗を許さないという特性があるが、言い換えると、重要な仕事は失敗してはならず、高く評価するということである。高く評価されるということは優先順位が高いということでもある。
目 の前に、リスクの小さいが高く評価される仕事と、リスクが大きいがあまり評価されない仕事があったら、あなたならどちらを選ぶだろうか。大抵の人は前者を 選ぶのではないだろうか?これがイノベーション業務が適当に行われる理由である。高く評価される仕事なら、残業をしてでもやろうと思うが、高く評価されな い仕事ではあればそこまではやらない人が多いと思う。
仮に失敗を許容することができるようになったとして、失敗を許容するといった瞬間にその仕事は評価されなくなるといったロジックがあることを頭の片隅に残しておいてほしい。
◆人材の問題
さらにこの問題を複雑にしているのが、人材の問題である。
人材マネジメントとして、重要だと考える仕事には、評価の高い人(あまり好きな言葉ではないが、簡単のためにA級人材とよぶ)をアサインする。高く評価しない仕事には、評価の高くない人(B級人材)をアサインする。
実 際にこの問題は起こっている。経営者層からイノベーションをいうお題が降りてきたときにA級人材を当てる管理者はほとんどいない。失敗しても言い訳ができ るし、成果が出るとは限らない仕事にA級人材を当てる理由はない。A級人材には確実に成果の出る仕事をさせたい。つまり上で述べた高く評価する仕事を担当 させたいと思うわけだ。
そこで、イノベーション業務はB級人材に担当させることになる。ここで、失敗することが許容できるかという問題が 出てくる。A級人材が取り組んで失敗したならどのようにやっても失敗しただろうと思えるかもしれないが、B級人材の場合、もっとうまくやる方法があったの ではないかと考え、失敗を許容できない。
◆ジレンマ
ここに、A級人材を投入できないので、失敗を許容できないというジレンマが生じる。トータルで見ると、失敗してもよい仕事はたいして重要な仕事ではなく、B級人材で対応しようとするが、それによって失敗を許容しにくくなるというジレンマが生じる。
失 敗を認めればよいという問題は一見単純な問題のように見えるが、日本の組織の場合には多くの組織でこのようなジレンマを抱えている問題である。そして、ジ レンマの解消方法として、失敗しない範囲でやるという決着を見ることが多い。その時点でイノベーションとは言い難い活動になっている。
◆ジレンマの原因
さて、このジレンマはどうして生じるのかを考えてみよう。理由は2つある。一つは、重要な仕事は失敗してはならないという前提である。この前提は定常業務の中では正しいが、イノベーションでは正しいとはいえない。
二 つ目は、人材の評価である。いま、A級人材は例外的に絶対能力が高い人材はいるとしても、基本的にはこれまでの正解のある環境で効率よく成果を出してきた 人材である。そして戦略的重要性の高い定常業務を担当して、成果を出している。この評価はこの評価でいいと思うのだが、イノベーションにおいて効率がA級 な人材がA級として機能するとは限らない。
そう考えると、新規性や創造性が必要とされるイノベーションでは、従来の評価を持ち込んでみても始まらない。
◆失敗を成果として評価する
こ のような前提で考えたときに、失敗を許容できるA級の人材をイノベーションには当てるべきである。そして、失敗したことを評価すべきなのだ。進捗管理のと ころで述べたように、失敗の個数が多くなればなるほど、進捗が進んでいることになると考え、失敗を成果として評価するのだ。
そんな人事をしていると、組織が持たないという声が聞こえてきそうだが、今の従来業務が大切で、失敗しないことがすべてだという価値観だけでは、現実問題としてジリ貧になっており、今後生き延びていくことは難しいだろう。
◆関連セミナー
本連載に関連して、以下の講座を行います。奮ってご参加ください。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆イノベーションの理論と実際 ◆7PDU's
日時:2013年05月29日(水) 10:00-18:00(9:40受付開始)
場所:銀座ビジネスセンター(東京都中央区)
講師:好川哲人(エムアンドティ・コンサルティング)
詳細・お申込 http://pmstyle.biz/smn/innovation.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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【カリキュラム】
1.イノベーションとは何か
2.技術によるイノベーション
3.ビジネスモデルイノベーション
4.デザインドリブンイノベーション
5.エコシステムのイノベーション
6.イノベーションと定常業務の統合
7.ワークショップ「自業務におけるイノベーション」を構想する
8.イノベーションの推進
(1)イノベーションマネジメント
(2)イノベーション・リーダーシップ
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前回、ステージゲートの話をしたが、ステージゲートを導入している企業の話を聞いてみると、必ずしも、ステージゲートの理念通りに運用されているとは言い難い状況にあるという話をよく聞く。具体的にいえば、ゲートの評価が厳密に機能していない。
その理由が、プロジェクトを中止するプロセスがないことだ。この問題は別にイノベーションや製品開発に限ったことではなく、プロジェクトマネジメント全般の問題である。今回はこの問題について考えてみよう。
一般論として、イノベーションプロジェクトはアイデア出しから、実行段階に移るところでプロジェクトとして組織が承認して、予算をつけていることが多い。ステージゲートでいえば最初のアイデアの絞り込みゲート以前は予算をつけず、最初のゲートを通過したアイデアがプロジェクトをして予算をつけられる。
アイデア出しまでの取り扱いは多様である。もちろん、アイデアの段階からプロジェクトとしている組織もなくはないが、一般的ではない。部門の予算でまかなったり、15%ルールのように予算管理の俎上に載せないというやり方をしているところもある。
◆サンク・コスト
最初のゲートをくぐる、つまり、プロジェクト予算がつくと、本来はゲートごとに中止判断をすることになるのだが、ここに一つ厄介な問題がある。それは、サンク・コストである。日本語では、埋没費用という。
サンク・コストとは、事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用のことである。一般にはプロジェクトの中間成果物の内、他に転用できない成果物の開発にかかったコストはサンク・コストになる。
サ ンク・コストが厄介なのはあとの意思決定に影響を与えるためである。たとえば、製品開発のプロジェクトに計画以上のコストがかかっているときに、赤字を覚 悟で追加投資をすることがよくある。これはサンク・コストにより、プロジェクトを中止するとそれまでの投資分が回収できなくなるという心理的な作用が働く ためであり、これがサンク・コストの厄介さでもある。
◆なかなか面白い...
ゲートが機能していない理由の一つはこのサンク・コストであり、その背景にあるのが担当者に失敗の汚名を着せたくないという心理である(もちろん、部下の失敗は自分の失敗として跳ね返ってくるという保身的な心理もある)。
なので、なかなか面白いとか、見込みはあるといった言葉でごまかして、プロジェクトを継続しようとする。アイデアレベルであればともかく、実行フェーズに移ってこんな評価しかできないプロジェクトは即刻中止すべきだ。
◆オポティニティ・コスト
プロジェクトを中止しない言い訳としてサンク・コストがある一方で、それを許しているコスト概念に「オポチュニティ・コスト」がある。日本語では機会費用と言われ、ある行動を選択することで失われる、他の選択肢を選んでいたら得られたであろう利益を意味している。
こちらは、意識することに問題があるのではなく、無視していることに問題がある。プロジェクトを中止しないということは、そのプロジェクトにより赤字が出ること以外に、機会損失を起こしている可能性がある。この点を確信犯的に無視している企業が多い。
昔 からある中小企業の経営論理に、「人を遊ばしておくのなら赤字の仕事でもさせておいた方がよい」というのがある。これは中小企業であれば正しい。中小企業 であればとあえていった理由は、事業が少なく、資本が小さいからだ。この場合、いい時もあれば悪いときもあるとある程度長期間で収支を見ていくことが必要 で、赤字の仕事を全部やめたら、会社を潰す可能性もある。
◆大企業はオポチュニティ・コストを重視すべき
問題は 大企業がこの発想でやっていることだ。大企業の場合、事業の数が多いので、まず、すべての事業が悪くなることはない。併せて、資本が大きいので、ある程度 の期間は耐えることができる。したがって、赤字の仕事をする必要はなく、むしろ、オポチュニティ・コストを気にすべきである。それが、将来の利益につなが る。
つまり、大企業の場合、プロジェクトの中止は非常に重要な判断であるにも関わらず、サンク・コストを強調し、オポチュニティ・コストを無視することによって、中止という意志決定をしようとしない。むしろ、サンク・コストばかり強調して、プロジェクトの延命を図る。
◆中止のプロセスがない
中止の意思がないので、当然のことながらプロセスがない。プロセスがない場合、中止することは必ずしも賢明とは言えなくなる。
た とえば、ITベンダーがいう「顧客がいるのでプロジェクトは中止できない」というロジックがその典型だ。プロジェクトがうまく行かなくて、投げ出したいと いうケースにおいてはそのとおりだ。しかし、中止を契約に折り込んでプロジェクトを進めていれば話は別だ。たとえば、顧客に起因する問題の発生においては プロジェクトを中止できるという条項を入れている契約書は少なくない。この条項に基づくと、発注者が発注仕様の詳細を決めることができない場合にはキャン セルできる。
だが、現実にキャンセルしようとすると、そのあとのプロセスを明確に決めておかないと混乱を来し、顧客に迷惑をかけるだけで はなく、自分たちも傷を負うことになる。たとえば、スルガ銀行とIBMの問題がそうだ。キャンセルは通常の業務プロセスと比較して、較べものにならないく らいにいろいろな問題が生じることが予想される。だから、プロセスを作り、そこに知恵を蓄積していくことが不可欠で、その場の思い付きで処理をすると泥仕 合になる。
◆中止のプロセスと失敗の許容
話が脱線したが、言いたいことは中止のプロセスを作るということだ。イ ノベーションで失敗を許すべきという考え方がある。この問題はここにも絡んでくる。精神論として失敗を許すというのはそんなに難しいことではないと思う。 しかし、現実問題として、失敗にかかった費用の処理をどうするか、中間成果をどうするかとなったときに、そんなに単純な話ではなく、プロセスがなくてはで きないことである。
ここは水掛け論になるが、失敗されると面倒なので失敗を認めない、失敗を認めないので失敗処理のプロセスができない、プロセスができないので面倒であるという構造になっている。
この問題に対処するには、前提を「失敗を許す」に変えて、その前提でのビジネスプロセスを構築していく必要がある。このインフラが重要である。
◆関連セミナー
本連載に関連して、以下の講座を行います。奮ってご参加ください。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆イノベーションの理論と実際 ◆7PDU's
日時:2013年05月29日(水) 10:00-18:00(9:40受付開始)
場所:銀座ビジネスセンター(東京都中央区)
講師:好川哲人(エムアンドティ・コンサルティング)
詳細・お申込 http://pmstyle.biz/smn/innovation.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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【カリキュラム】
1.技術によるイノベーション
2.ビジネスモデルイノベーション
3.デザインドリブンイノベーション
4.イノベーションマネジメント
5.イノベーション・リーダーシップ
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欧米の多くの企業がイノベーションの管理に採用しているのが、ステージゲートである。日本でもステージゲートを採用する企業が増えてきた。
ステージゲートという言葉は一般的な用語であるが、ステージゲートといえばロバート・クーパーのステージゲート法というくらい、代表的な手法だ(注)。日本でも、昨年やっと、ロバート・クーパーの翻訳が出版されたので、イノベーションのマネジメントをする立場の人は目を通しておくといいだろう。
ロバート・G・クーパー(浪江一公訳)「ステージゲート法――製造業のためのイノベーション・マネジメント」、 英治出版(2012)
◆ステージとゲート
さて、ステージゲート法は、新規事業や新製品のアイデアが生まれてから、事業化・製品化されるまでに必要なステップと作業ロードマップを与えるものである。特徴は、開発プロセスを経営判断を行う「ゲート」によってステージに分けていることだ。
ステージでは、プロジェクトチームが作業に取り組み、次のゲートに進めるようにする。ゲートでは、次のステージに進むかどうかの判断や、作業の優先順位付けをする。実際のゲートとステージは以下のようなものである。
<ゲート>アイデアの絞り込み
<ステージ1>調査
<ゲート>さらなるアイデアの絞り込み
<ステージ2>事業戦略の策定
<ゲート>開発着手
<ステージ3>開発
<ゲート>テスト開始
<ステージ4>テスト、品質レビュー
<ゲート>製品化
<ステージ5>市場投入
◆ステージとゲートの役割
この方法では、機能組織に合せたステージはない。ステージは基本的に組織横断的なプロジェクトで構成され、ゲートに進むために必要な作業は並行して行われる。
また、ステージでは技術、市場、資金、オペレーションなどのリスクの管理をするために、必要な情報が収集される。
ゲー トのもっとも重要な役割は、評価の低いプロジェクトを中止し、そのリソースを見込みのあるプロジェクトに再配分する。ゲートにおける評価は、ステージで生 まれた成果の質、経済合理性などに注目し、それぞれのプロジェクトがどの程度の成功をおさめるかを評価する。イノベーションでは、この評価とリソースの再 配分が成功の分岐点になる。
さらにゲートの役割としては段階的詳細化がある。ゲートにおいて、次のステージ以降のアクションを詳細化し、作業計画を作る。
◆ステージゲート法のメリット
ス テージゲート法のよい点は、ステージが進むにつれて投資規模が拡大し、それに伴い、責任が大きくなっていくが、その一方で、ゲートでの評価を通過すること によって、リスクが減少していくことである。このため、結果として大きな意思決定を小さいリスクで行うことができ、イノベーションの成果を大きくできるこ とである。
(注)ステージゲート法はStage-Gate International社の登録商標です。
◆関連セミナー
本連載に関連して、以下の講座を行います。奮ってご参加ください。
━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆マネジャーのためのイノベーションマネジメント講座 ◆7PDU's
日時:2013年 06月 21日(金)
場所:銀座ビジネスセンター(東京都中央区)
講師:好川哲人(エムアンドティ・コンサルティング)
詳細・お申込 http://pmstyle.biz/smn/pm_innov.htm
主催 プロジェクトマネジメントオフィス
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【カリキュラム】
1.イノベーションとカイゼン、イノベーションを行う機会
2.自社の戦略からイノベーションを企てる
3.イノベーションのニーズを見極める
4.イノベーションのアイデアを生み出す
5.イノベーションプロジェクトを構築し、イノベーションを実行する
6.パフォーマンスエンジンと統合し、イノベーションによる価値創造をマネジメントする
7.イノベーションを定着させるプロセスをつくる
8.イノベーティブな人材を育てる
9.成長志向の風土をつくる
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前回、2013年のGEの「グローバル・イノベーション・バロメーター」の結果を紹介した。これから分かるように、日本の企業は(欧米ほどでないにしろ)、80%の企業がイノベーションの重要性を認識しつつも、それに見合うだけのリソース投入をしていない。また、環境や仕組みづくりも欧米に大きく劣っている。監修された米倉先生の言葉を借りれば、「イノベーションが闇研究から偶然生まれる」と考えている。
なぜなのだろうか?と考えてみると、いくつかの理由が考えられる。
真っ先に思い浮かぶのが、企業として公式の仕事にしてしまうと結果を求められ、仕事の性格上、失敗することが多くなる。これを嫌がっている節がある。それならば、ある程度の目途がつくまで闇で行うことに目をつぶるというパターンだ。これは理由は日本企業では昔からあったパターンだ。
これはこれで、それでも業務のパフォーマンスが低いという別の問題がある。ある企業の役員とこの話になったときに、サービス残業しているから問題ないと平然と言いきられて唖然としたが、まあ、実態なのだろう。これを合理的に行おうというのが、第11話で紹介した3Mやグーグルが採用しているルールだ。
◆イノベーションをどのように評価するのか
二つ目は、失敗と関連するが、評価の問題だ。前回少し触れたように、イノベーションに おいては、失敗を評価すべきである。この点については分かっていない(失敗なしに新しいものが生まれるを考える)マネジャーの方が少ないのではないと思う。
ところが、このような失敗を評価することは意外と厄介である。一つには失敗の仕方によって評価を変えなくてはならないという問題がある。成功はどんな方法であれば成功として評価すればよいが、失敗は失敗の仕方を評価しなくてはならない。
こ のこと自体が大変難しいのに加えて、同じ人が失敗を評価される仕事と成功を評価される仕事を兼務するというのは指導が難しいという問題もある。実際に失敗 を評価する業務のという仕組みをいれた企業があるが1年でイノベーション担当を分けて兼務をやめさせてしまった。そのくらい難しい。
◆個別のイノベーションの進捗管理
評価の難しさと関連するが、闇業務にしておきたい3つ目の理由として考えられるのが、進捗評価の難しさいである。
上 の失敗を評価する業務の仕組みづくりの中で、評価と進捗評価のために考えたのが、メトリクスである。実は成功とか失敗とか言っているがこれは主観的という か、常識的な判断で、実務上あまり意味がない。必要なのは、目標の設定と、目標を達成できたかどうかという判断である。これは、失敗を目指そうと、成功を 目指そうと同じだ。
この企業のサービスは内容が分かりにくいので架空の例に置き換えて説明する。「ダントツのサービス品質」というイノ ベーションを狙っている航空会社があるとする。そのためのアイデア(イノベーションのネタ)はいくつも出てきたが、そのうち、可能性のあるアイデアとして 残った一つが、「荷物を持たずに家から目的地まで」だった。これでできるという確信的な実現方法はない。そこで、可能性のある方法を徹底的に洗い出して、 一つ一つ、パートナーを探して可能性を探っていった。可能性を潰した数が進捗ということになる。
◆イノベーション全体の進捗管理
イノベーションがややこしいのは、可能性を当たっていったときに、答えが残るとは限らないことだ。そこでどうするかが問題になる。
言い換えると、イノベーション全体の進捗状況を管理しなくてはならない。イノベーション全体の進捗状況は、個々のアイデアの実現のような消込ではない。最終的に実現できる可能性を評価しなくてはならない。ここがややこしいところである。
ダ ントツ品質の例では「荷物を持たずに家から目的地まで」というアイデアの実現の進捗は上に述べたように、実現手段の消込の状況で判断できる。そして、この アイデアが実現できる見込みが経てば、ダントツ品質というイノベーションの進捗は進んだことになる。できなければ進捗はない。
進捗管理としては、全体としてどのくらいのイノベーションが達成できるのか、それがどのくらいのスケジュールやコストで可能になるのかという見込みが欲しいわけだ。
◆進捗管理のためのメトリクス
このような見込みを得るためには、ここでも進捗メトリクスを使うとよい。
たとえば、
・可能性のあるアイデアの数
・プロトタイプに至ったアイデアの数
・サービスになった場合の実績期間
・イノベーションに投入した資金
・イノベーションに関わった人数
といったものがイノベーションのプロセスでイノベーションの進捗度として使えるメトリクスである。
]]>ゼネラル・エレクトリック(GE)が毎年、「グローバル・イノベーション・バロメーター」という調査をしている。これはイノベーション戦略に直接かかわっている経営者の意識調査で、2013年度は25か国、3100人の経営者が対象になっている。
日本にとっては、毎年、ショッキングが結果が出てくる調査だが、今年もあまり変わっていない。
今年、話題になった調査項目をいくつか紹介すると、まず、この設問。
「会社にとってイノベーションは優先的課題である」
→世界平均 91%、日本80%
この傾向は毎年変わらない。
◆企業がイノベーションを成功させるために必要な能力
次の設問は、
「企業がイノベーションを成功させるためにはいかなる能力が重要か」
で、複数回答可で、以下のような選択肢が並ぶ。
(1)長期的なイノベーションプロジェクトに投資する能力
→世界平均59%、日本40%
(2)イノベーティブな人材の獲得と確保する
→世界平均73%、日本57%
(3)イノベーションをもたらす環境と文化を作り出す
→世界平均64%、日本43%
(4)リスクを取り、マネージする
→世界平均60%、日本49%
(5)イノベーション活動に予算を配分する
→世界平均54%、日本26%
(6)イノベーションを育成するプロセスや仕組みを作る
→世界平均52%、日本34%
といった感じだ。世界に比べるとイノベーションを戦略課題と認識している経営者は少ないものの、それでも80%の経営者が重要だと認識している(実は、80%の内訳は、大変重要と、重要で、重要は世界平均より高く、大変重要が世界平均より15%低い)。
◆イノベーションは闇研究から偶然生まれる
にもかかわらず、能力に関する設問の結果を見ると、金をかけず、人材も要らない。環境もいらないし、リスクマネジメントも不要。育成プロセスも要らないという経営者がやまほどいるわけだ。
調査分析の監修を行った一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎先生が「イノベーションが闇研究から偶然生まれるというのは、スポーツ界の根性論と一緒だ」とコメントされたのが話題になったが、まあ、そういうことだ。
僕がお付き合いのある経営者の中にもこういう感覚の人が多いので、この結果は、よく分かる。
ついでにいえば、プロジェクトマネジメントについて経営層の無理解を嘆くプロジェクトマネジャーはたくさんいるが、イノベーションについて嘆く人にはあまり出会わないので、現場の意識も似たようなものだということだろう。
◆技術とビジネスモデルだけでいいのか
ちなみに、この調査で面白いのは、必要能力の設問に対して、日本が世界平均より高いものが2つあった。
新しい技術を開発する → 世界平均66%、日本69%
新しいビジネスモデルを開発する → 世界平均45%、日本51%
よくいえばあくまでも現実的であるが、もう、そういうレベルでどうにかなる時代ではないという認識不足のような気がする。
◆イノベーションのエキスパートをどう育てるか
「グローバル・イノベーション・バロメーター」の紹介が長くなったが、今回、話をしたかったのは、人材育成である。イノベーションに人材育成が必要だと思っている人はあまりいない。偶然生まれるというイメージを持ちすぎである。
しかし、ちょっと考えてみればそれは思い違いだと分かる。前回、模倣の話をしたが、模倣するにもスキルが必要だし、さまざまなスキルがある。
創造性のある人材を見つけ出し、イノベーションの精神とプロセスを叩き込まないとイノベーションはできない。その中で重要なのは繰り返し、やらせることだ。
イ ノベーションのスキルの源泉は成功ではなく、失敗である。エキスパートを育てるには失敗をさせることが重要である。ところが、日本の企業はさまざまな理由 により、それを良しとしない。折角失敗を経験した人材を次のチャレンジでは外し、別の人に担当させる。これほど、もったいないことはない。失敗させること の重要性を分かっていないことの証明だ。
◆トレーニング
もちろん、そのような実践と絡めながらトレーニングも必要である。たとえば、
・問題分析
・問いを立てる
・さまざまな人の意見を傾聴する
・アイデアを提案する
・ブレーンストーミングをリードする
・アイデアを評価する
・プロトタイプを開発する
・プロジェクトを評価する
・プロジェクトをマネジメントする
といったトレーニングが必要である。
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