監訳者まえがき
第1章 概 説
第1部 ペイバックとは何か
第2章 キャッシュとキャッシュトラップ
第3章 イノベーションの間接的な利益
第2部 最適なモデルの選択
第4章 インテグレーター
第5章 オーケストレーター
第6章 ライセンサー
第3部 ペイバックに向けた組織連携とリーダーシップ
第7章 連 携
第8章 リーダーシップ
あとがき――行動を起こす
茂木 誠「経済は世界史から学べ!」、ダイヤモンド社(2013)
お奨め度:★★★★
今起こっている経済的問題を、歴史をひも解き、類似の事例や根源になるものを紹介することにより、本質を理解するとともに、経済学についての教養も身につく一冊。
問題の本質を見極め、それについて易しく、薀蓄を交えて解説するという手法では池上彰さんが有名だが、比較してもこの本は結構いい線をいっているように思う。
長い間、ビジネスをやっているとこの本で経済的な問題として取り上げられていることは一応、理解している。その意味でこの本の対象読者の範囲外なのだが、読んでみると意外と面白かった。史実に知らないことがたくさんあってそれ自体が興味深いものが多かったからだ。
ということは、おそらく、経済問題に疎い人には、経済学の勉強になるとともに、史実の薀蓄が読めて一冊で二度おいしい本ということになる。
取り挙げているのは
・そもそも、お金とは何かといった話
・国際経済と通貨の話
・自由貿易の話
・金融の話
・財政の話
であるが、中でも金融の章が面白かった。歴史的に金融業とはどのような目的で、どのように生まれたのかから始まり、バブルの歴史(これは何冊か本を読んだことがある)や日本のバブルの崩壊、リーマンショックの勃発などについて説明している。
物事の本質を見るのに、歴史を手繰るというのは有力な方法である。たとえば、今、起こっているTPPという問題をどう解釈するかは、具体的にどのような問題が生じるかという視点と同時に、本質的にどのような意味があるかをしっかりと考えないことには答えがでない。
こ の本では、19世紀のイギリスがナポレオンが敗北後に穀物令という輸入制限法を作り、国内の地主を保護したために飢饉により餓死が起こるという事件があっ たことを取り上げている。そして、政権はついに穀物令を廃止するという流れがあるそうだが、この史実は何を意味しているか。そして、我々はここから何を学 ぶべきかといったことが解説されている。
考える習慣を身につけるにも役立つよい本である。
マイケル・ダイムラー、リチャード・レッサー、デビッド・ローデス、ジャンメジャヤ・シンハ(御立 尚資監修、 ボストン コンサルティング グループ訳)「BCG 未来をつくる戦略思考: 勝つための50のアイデア」、東洋経済新報社(2013)
お奨め度:★★★★★+α
プロダクトポートフォリオマネジメントで知られるボストン・コンサルティング・グループが50周年を迎えるらしい。50周年に刊行された本がこれ。
彼らの叡智を
・変化対応力
・グローバリゼーション
・コネクティビティ(接続性)
・サステナビリティ(持続可能性)
・顧客視点
・組織能力向上
・価値志向
・信頼
・大胆な挑戦
・組織の力を引き出す
の11のテーマに分けて、50の論文を採録している。羅針盤ともいえるような一冊。
変化対応力では
1 なぜ戦略に戦略が必要なのか
2 アダプタビリティ(変化適応力)
3 エコシステム・ベースの優位性
4 アダプティブ・リーダーシップ
5 ケイパビリティ競争
の5編。グローバリゼーションは
6 グローバリティ
7 グローバル・チャレンジャー
8 新興国都市
9 欧米の知らない中国
10 アフリカのチャレンジャー企業
の5編。コネクティビティ(接続性)としては
11 デジタル・マニフェスト
12 渇望されるデータ
13 処理能力と携帯性の衝突
14 中国のデジタル世代3・0
の3編。サステナビリティ(持続可能性)は
15 サステナビリティ志向イノベーション
16 サステナビリティから実質的な消費者価値を生み出す
17 ニュー・サステナビリティ・チャンピオンの潜在的インパクト
の3編。顧客視点には
18 妥協からの脱皮
19 ブランドを軸とした変革
20 ビジネスモデル・イノベーションで新興国中間層をとらえる
21 「宝探し」消費
の4編。組織能力向上には
22 パフォーマンスの高い組織
23 組織ピラミッドの再構築
24 リーン生産方式から学ぶ
25 需要主導型サプライチェーン(DDSC)
26 プライシングを自在に操る
27 変革推進型IT組織
の6編。価値志向としては
28 エクスペリアンス・カーブ再考
29 「The Rule of Three and Four」
30 投資家としてのCEO
31 戦略を軸に企業価値を創出する
32 M&A後の統合マネジメント(PMI)への取り組みを強化する
33 回復力
の6編。ここが一番勉強になった。さらに、信頼として
34 ソーシャル・アドバンテージ
35 相互依存型信頼から評判へ
36 政治家の復権
37 コラボレーション・ルール
の4編。さらに、大胆な挑戦というテーマで
38 新しい箱で考える
39 シナリオ・プランニング再考
40 ビジネスモデル・イノベーション
41 バリューチェーンのデコンストラクション
42 タイムベース経営
43 低コスト・ビジネスモデル
44 ハードボール宣言
45 トランスフォーメーションをリードする
の8編。最後の、組織の力を引き出すには
46 ジャズvs.シンフォニー
47 プロービング(探針)
48 スマート・シンプリシティ
49 戦略的楽観主義
50 チェンジモンスターとの30年間から学んだこと
の5編が採録されている。
PPM のような古いテーマから、サステナビリティ志向イノベーションとか、エクスペリアンス・カーブ再考、回復力、スマート・シンプリシティなど新しいテーマも あるが、いずれも、圧倒されるようなクオリティだ。50本のタイトルで聞いたことがないものはなかったし、専門にしているものもいくつかあるが、たいへ ん、勉強になった。これがボスコンクオリティということだろう。
最後の論文として、チェンジモンスターとの30年間から学んだことという論文が採録されているのが非常に印象的である。
最近、マッキンゼーを描いた本が出たが、この本を眺めていると、マッキンゼーとボスコンの違いというのがよく分かる。経営の方向性を示すという意味では、ボスコンが圧倒しているように思う。
マネジメントの教科書代わりに一冊持っておくとよいだろう。
エドワード・ライリー(渡部 典子訳)「アメリカの「管理職の基本」を学ぶ マネジメントの教科書―――成果を生み出す人間関係のスキル」、ダイヤモンド社(2013)
お奨め度:★★★★★
世界でもっとも大きく、歴史のあるマネジメント研修機関AMA(American Management Association)の公式テキスト「Business Boot Camp」の書籍化。AMAはドラッカーが支援したことで知られるが、ビジネススクールではなく、ドラッカーの教えを背景に持つ現場主義のマネジメントの研修を行っている。現場のマネジャーには是非とも読んで欲しい一冊だ。
日本では管理職研修というと日本の終身雇用を前提とした管理職研修が主流である。ところが、マネジメントはどんどん、米国化している。たとえば、内部統制とか、会計制度、プロジェクトマネジメントなどがそうだ。
その中で、これらを日本式に焼きなおしている企業もあるが、グローバル化の中で旗色が悪い。マネジメントはその国の文化に根差す傾向があるので、グローバル 展開するのだから、すべてを欧米式に置き換える必要があるとは思わない。というか、欧米とひとくくりにすることもナンセンスである。
だが、外国で、マネジャーはどのような仕事をし、どのようなキャリア観を持っているかを知っておくことは重要だ。また、そのような人たちが自分の上司になる かもしれない。そのときにこれまでの日本人の上司を同じ感覚で付き合っていると失敗するという問題もあり、そのためにもマネジメントの方法を知っておくこ とは重要である。
ということで、この本は素晴らしい企画だと思う。
まず、第1部と第2部に分かれている。第1部はマネジャーが日々の活動で行わなくてはならないことのためのスキルについて述べている。この本では、マネジャーの役割としては以下の8つであるとしている。
(1)リーダー
物事の全体像を捉え、ミッションやゴールを見すえた上で日々必要なことを検討する。
(2)ディレクター
問題を明確にし、解決策を導き出すように取り組む
(3)コントリビューター
課題や仕事に注力し、自身が成果を出すだけではなく、他の人々をやる気にさせて、組織の生産性を最大にする
(4)コーチ
協調性、理解力、こまやかな気遣い、近づきやすさ、オープンさ、公平さを心がけ、思いやりと共感力を大切にしながら、人材育成に当たる
(5)ファシリテーター
組織の総合力を養い、結束力やチームワークを築き、人間関係の軋轢やごたごたに対処する
(6)オブザーバー
常に人々の行動や人間関係に目を配り、部下がそれぞれの目標を達成しているかどうかを判断し、部門としてゴールに到達していることを確認する。
(7)イノベーター
適合と変化を推進していく。
(8)オーガナイザー
職務計画を策定するほか、業務や体制を組み立てる責任を負う。
マネジャーに必要なスキルは現場において、これらの役割を果たしていくためのスキルということになる。そのスキルを
・人間関係を焦点を合わせる
・組織と個人の利益を調整する(部下の業績管理)
・スタッフを変化に対応させる(人材マネジメント)
・一時的な取り組みを管理する方法(プロジェクトマネジメント)
の4つの活動に分けて説明している。人間関係の中ではコミュニケーション、業績管理としてはモチベーション、権限委譲、コーチングについて述べている。人材 マネジメントでは採用の流れを中心にのべている。さらに、プロジェクトマネジメントでは、PMBOKに近いプロジェクトのマネジメントの方法を説明してい る。
さらに第二部では、ステップアップとして、より上級のマネジャーに必要なスキルを述べている。項目は
・戦略思考
・リーダーシップ
である。
戦略思考では、現実の業務のために戦略的に考えることをテーマに、ビジョンとミッションの分析、ビジョン実現のためのコミュニケーションについて説明している。
リーダーシップでは、自己評価、振る舞い、影響力、社内政治、問題社員への対応といったテーマについて説明している。
本の作りとして素晴らしいのはケースと名付けられている具体的な実践ミニ知識と、マネジメントをするためのフォーマットが結構な点数、紹介されていること。実践的なテキストとして使える。
管理職の役割を明確にした上で、そのスキルを体系的に示しているのは、日本の企業ではあまり見られないやり方である。役割が明確になっていない中で、責任だ けを明確にしているので、なんでもできなくてはならない構図を作っており、なかなか、この本に書いてある内容だけを身につければいいとは思えないかもしれ ない。
この本自体、ブートキャンプという原題のタイトルのように、新任課長研修とかのテキストに使うものだと思うが、まずはここで抽出さ れていることを徹底的に身に付け、自分の役割を明確にしていくとよい。その中で、自分に期待される役割も明確になってくるだろうし、その役割を果たすため に必要なスキルをさらに身につけていけばよいのではないだろうか。
そうすることによって、今、頭を悩ませている問題をもっと合理的に解決できるようになるだろう。
手島直樹「まだ「ファイナンス理論」を使いますか?―MBA依存症が企業価値を壊す」、日本経済新聞出版社(2012)
お奨め度:★★★★★
企業経営の中で、CFOがCEOと同等に重要だと指摘されるくらいファイナンス全盛であるが、ファイナンスは本来黒子であり、表にでるとあまりよい結果を生まないことを事例を通じて主張している一冊。
実は、この本、共通の知人を通じてプレゼント用の献本を戴いて読み出したのだが、最初の内、たいへん、違和感を感じながら読み進めていた。自分で買った本であれば、途中で読むのをやめていたと思う。僕も一応、日本の大学だが15年前にMBAをとっている。僕がMBAを取った神戸大学では、この本で著者がこうあるべきと言っているようなことしか聞いていなかったのが違和感を持った理由。
新聞やニュースなどでこの本が上げているファイナンスが表に出すぎた失敗事例というのは目にしているが、それはむしろ特別な話であり、著者がこうあるべきだと言っている方が当たり前だと思っていたからだ。そもそも、ファイナンスの講義をとった先生が著者のようなことを言っていたし、経営戦略や組織論を教わった先生も財務に対するスタンスは同じような感じだった。MBAのコース全体の思想として、著者の言う
ファイナンスでキャッシュフローを増やすことはできない、キャッシュフローを増やすには本業を強化するしかない
というスタンスがあったように思う。これはファイナンスに限らず、たとえば内部統制についても米国式の内部統制は日本の組織のガバナンスを弱くするというのが基本スタンスだったように思うので、単にファイナンスが云々というよりもっと奥深い経営観があるように感じているが、この著者も同じような経営観を持っているのではないかと感じた。
さて、そんなことを感じながら、とにかく最後まで読もうと読み続けたのだが、読んでいるうちに、MBAコースの先生方が思想として言っていたことを実に見事に体系化して説明していることに気づいた。なおかつ、読み物としてもケースが興味深く、面白い。
この本のもっとも重要な示唆はファイナンスをどこまでやるべきか、つまり、黒子に徹するとはどういうことなのかを、10の「必要最小限」のファイナンス戦略として整理している。これがなかなか、味があるので、いくつか紹介しよう。
・業績予想を開示しない
著者が指摘するとおり、業績予想こそが短期主義の原因になっており、自分の首を絞めている。
・IRは社長の仕事であり、自分の思いを自分の言葉で伝えよ
これもそのとおりだと思う。IR部門を作っていることがそもそもファイナンスが独り歩きする原因だと思うので、それをやめ、社長が自ら株主と本業についての意見交換をしろと言うのはいい話だ。
・会計数字は気にしない
これもそう。粉飾決算のような違法行為は論外としても、たとえば、身近なところでいえば、数字を作るために1月になると予定していた研修を中止するといったことをやる企業が実に多い。ファイナンスとしての意味はあるが、本業にとっては明らかにマイナスである。
このほか、ストップオプション、手元資金の持ち方など、10項目について、実に現実的なアドバイスが書かれている。
この本の素晴らしいところは、米国式のファイナンス主導経営を否定しながら、その意味を分からずに否定することを否定しているように思えることだ。日本企業が米国のマネジメント理論を導入するときの態度は盲目的に肯定するか、盲目的に否定するかのいずれかである。
著者はファイナンス理論が後者であることを望んでいるわけではなく、なぜ、ファイナンスが過ぎるのがよくないかを理解した上で、ファイナンス主導経営をやめてほしいと思っている節がある。そのためにこの本ではファイナンス理論の解説と現実、ファイナンス戦略策定におけるファイナンスへの誤解を示した上で、上ののべた必要最低限のことだけしろと言っている。
実はそれがこの本のコアの部分で、2章はファイナンス理論の説明と現実の事例を示している。投資評価、企業価値評価、コーポレートガバナンス、リスク管理について、よく使われている手法と、現実に適用した事例を踏まえて、手法そのものの評価をしている。手法の説明はかなり分かりやすいし、著者の経験や実際の事例を踏まえて手法の問題を的確に指摘しているので、非常に参考になる。
第3章は、ファイナンス戦略に対する誤解について指摘している。個人的にはここが最も面白かった。たとえば、投資家が短期的なので、経営も短期的にならざるを得ないと思っている人が多い。しかし、投資家の行動と市場は別ものであるので、投資家の意向に合せなくても市場の機能により、企業価値は保たれる。これは、MBAコースでよく聞かされた。こういうかなり本質的な指摘が9つ並んでいる。すべて拍手だ。ここは経営者や経営企画スタッフに読んで欲しいところだ。
ファイナンス活動をどう行っていても、株式会社で働いている限りマネジャーになればファイナンスの知識は不可欠だと思う。そのときに、定番的なファイナンスの教科書を読むより、よっぽど役に立つと思う。なによりも、退屈な教科書より、面白い。ぜひ、読んでみてほしい。
なお、著者の手島直樹さまのご厚意により、本書を4名の方にプレゼントさせて頂きます。プレゼントを希望される方は以下のページからご公募ください(締切2013年1月25日)。
]]>ジョン・マリンズ、ランディ・コミサー(山形 浩生訳) 「プランB 破壊的イノベーションの戦略」、文藝春秋(2011)
お奨め度:★★★★★
破壊的イノベーションを起こしたビジネスの多くは、最初の計画(プランA)がそのまま成功したわけではなく、プランAで失敗し、プランBに移っていく際のマネジメントに成功していることを多くの事例に基づき、主張した一冊。
この本で主張していることは、2つある。大成功をしたビジネスはプランAの失敗(あるいは、凡庸な成功)の中での試行錯誤のプロセスの中から、潜在能力を持つプランBを発見していること。もう一つは、そのプロセスは体系的に行うことが可能であるということだ。
中俣秀夫「部長のためのビジネス・マネジメント」、PHP研究所(2008)
お薦め度:★★★★1/2
トヨタという他社ができないマネジメントで成長してきた企業であるので、特異なことをしているように思っている人もいるが、実際には経営の原理原則を徹底的に探究している企業という方が適切な評価だろう。よく、経営の教科書通りにやってうまくいけば世話はないという発言をする経営者がいるが、100人の経営者の中で、本当に経営学の教科書通りにやっている人はせいぜい1~2名だろう。他の人は、できない負け惜しみに行っているだけだ。現にトヨタは成功している。
また、トヨタは経営学の基本教科書にでてくるようなことだけではなく、最近注目されている組織学習などについても原理原則の一つとして極めようとしている。
最近、竹内弘高先生がこんな本を書かれている。
大薗恵美、清水紀彦、竹内弘高「トヨタの知識創造経営」、日本経済新聞社(2008)
この本では、トヨタが単にその生産方式にとどまらず、ユニークなマーケティング、販売、人的資源管理へのアプローチによって成功したと指摘し、トヨタは、明らかに矛盾する事象を管理する能力によって、継続的なイノベーションや自己革新をはかっていると結論づけている。
この本を読んでいると、たとえば組織マネジメントとして
・戦略実行のための、ストレッチした目標の設定
・目標達成を可能にする体制づくり
・ストレッチした目標達成のための継続的改善と定着化
・これらを価値観とした文化の構築
などを当り前のこととして行っている。カイゼンのトヨタであるが、「タメに行うカイゼン」はない。改善には明確な経営上の目的があり、整合している。言い換えると、トップマネジメント、シニアマネジメント、現場マネジメントの連携が機能し、整合している。
上のマネジメントそのものが原理的な話であるが、たとえば、上のマネジメントと実現するために、トヨタはマネジャーを、「グループ長(係長・リーダー)」、「室長(課長)」、「部長」の3つに分けている。経営組織論では、係長が現場を見て、部長が戦略を考える。そして、課長がそのギャップを調整していくというのがこの3者の役割だが、ほとんどの企業でこの3つの役割は規模の違いだけになってしまっている。課長を中心にいえば、小課長、課長、大課長っていう感じだ。これでは、教科書にあるような経営手法は機能しない。
さて、話が長くなった。上に述べたようにトヨタの部長というのは由緒正しき部長であるが、部長のマネジメントをトヨタで部長まで務めた著者が、トヨタでやっているビジネスマネジメントをリーダーシップ、マーケティング、経営戦略、会計と財務、ビジネス・プロセス・オペレーション、組織と人事といった構成要素を会社の方針と自部門の役割にしたがって成果をあげるためのフレームワークとして紹介している。
フレームワークは極めて原理的である。構成要素は
(1)経営資源→BPO→バリュー→マーケット→リターン
(2)リーダーシップがバリューを介してマーケットとコミュニケーションととる
(3)リーダーシップがビジネスを導く源泉となるものとリターンとから目標を定める
(4)目標がビジネス政策を導く
(5)リーダーが設計されたビジネス政策を採択する
(6)リーダーシップが採択した政策を実施に移す
(7)コーポレートカルチャーを醸成する
の7つ。これらのひとつひとつについて、わかりやすく、説明している。また、最後に、デル、HPなどについてマネジメントフレームワークを紹介し、比較をしている。
これから部長を目指す課長にぜひ読んでほしい一冊!また、変革リーダーを目指す部長にもお薦め。
【目次】
第1部 マネジメント・フレームワークの定義とその構成要素(マネジメント・フレームワークの定義;リーダーシップ;バリュー‐マーケット‐リターン;ビジネス・プロセス・オペレーション(BPO);経営資源 ほか)
第2部 ビジネス・マネジメントとマネジメント・フレームワーク
第3部 ビジネス・マネジメントの実例とマネジメント・フレームワーク(MBNQAおよびJQAとマネジメント・フレームワーク;プロジェクト・マネジメントとマネジメント・フレームワーク;ISOマネジメント・システムとマネジメント・フレームワーク;M.Dellの創業とマネジメント・フレームワーク;The HP Wayとマネジメント・フレームワーク ほか)
デイビッド・メッキン(國貞 克則訳)「財務マネジメントの基本と原則」、東洋経済新報社(2008)
お薦め度:★★★★★
現場マネジャーにも財務の知識は不可欠である。ただ、財務マネジメントには財務諸表で閉じた独特の世界があり、分かりにくく、近寄りがたい部分がある。その一因になっているのは、マネジメントや経営的な意思決定との関係が見えにくいということがあるように思う。
このため、専門家以外に役立つ本というのはなかなか見当たらない。そんな中で、非常に良い本が出た。
財務原則、マネジメント、意志決定を三位一体で理解しようと書かれた本。この3つを論理的に説明しているので、財務マネジメントがマネジメントやプロジェクトマネジメントにどのような影響を及ぼしているのかが非常によく分かる。かつ、入門書ではなく、深いことまで単純化して書かれているので、カバーしている範囲も広い。
現場マネジャーにとってはこんな本が欲しかったといえる本だろう。
この本では、まず、財務目標の設定の方法を述べている。利益とは何か、利益を上げるにはどうすればよいか、コンフリクトがあるときにどの数字が重要かを解説している。ここを読むとマネジメントの目標設定の考え方が見えてくる。
次のパートに、財務情報の活用で、ここでは財務諸表をどのように使うのかということと、財務諸表から会社の状況を分析する方法について述べている。
最後のパートは、財務コントロールで、コストのマネジメント、売り上げのマネジメント、利益のマネジメントの3つを、財務計画に従って行う方法を解説している。さらに、このパートでは、キャッシュフローのマネジメントや事業上の意思決定のマネジメントなどにも言及している。
そして最後がこの本の本領で、これらをどのように結び付けていくか、つまり、三位一体の明確な形としてのジャリリングを示している。この部部が特にお薦め!
この本1冊読めば、現場のマネジャーの財務知識としては十分なので、ぜひ、読んでほしい。
【目次】
第1章 本書の目的
第1部 財務目標の設定
第2章 利益がすべてか
第3章 どうすれば利益が出せるか
第4章 財務的な成果はどのように評価されるか
第5章 大切な数字はどれか
第2部 財務情報の活用
第6章 なぜ財務諸表を作成するのか
第7章 財務諸表から何がわかるのか
第8章 世の中の経済動向全般から何がわかるか
第9章 会社のマネジメントがうまく行われているかどうかを知るにはどうすればよいのか
第3部 財務のコントロール
第10章 財務計画はどのようにして立てるか
第11章 費用をどのようにしてマネジメントするか
第12章 売り上げをどのようにしてマネジメントするか
第13章 利益をどのようにしてマネジメントするか
第14章 キャッシュフローについて
第15章 キャッシュフローをどのようにマネジメントするか
第16章 長期的な事業計画について
第17章 長期的な事業計画に対する意思決定をどのように行うか
第4部 まとめ
第18章 断片をどのようにつなぎ合わせるか
ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ランダムハウス講談社(2007)
お薦め度:★★★★
この本が指摘し、かつ、答えを準備している問題は非常に重要な部分である。
日本ではイノベーションはマネジメントするものではなく、言い方は悪いが、「アイディア」と「運」だと思っている人が多い。この議論でよく引き合いに出されるのが、20年前にウォークマンを作ったソニーはなぜ、iPodを作り得なかったかという話だ。実は、本書にもこの話は触れられているので、興味ある人は読んでみてほしい。
日本ではと書いたが、この傾向は欧米でも同じような傾向があった。あまりにも、説明できない(不確実な)ことが多く、体系的にマネジメントできるものではないと考えられてきた。
この傾向が変わる契機になったのが「クリステンセンのイノベーションのジレンマ」ではないかと思う。このあたりから、日本でも著名なものでも、クリステンセンの「破壊的イノベーション」、ムーアの「キャズム」、キム氏&モボルニュは「ブルーオーシャン」など、ロジャースが提示したイノベーションモデルでは説明できないような現象を説明するモデルが多くでてきた。
そのような中で、この本はボスコンの体系的なイノベーションマネジメントの手法を紹介するものである。投資マネジメントをキャッシュカーブというフレームワークで合理的に行っていくことによって、不確実性に対処し、最適なゴールを見つけ出し、到達することができるというものだ。
商品開発を担当している人にはぜひ読んでほしいと思うが、この本は単にイノベーションにとどまらず、「マネジメントの価値」を考えさせられる本である。その意味で、すべてのマネジャーにお薦めしたい1冊である。
目次
監訳者まえがき
第1章 概 説
第1部 ペイバックとは何か
第2章 キャッシュとキャッシュトラップ
第3章 イノベーションの間接的な利益
第2部 最適なモデルの選択
第4章 インテグレーター
第5章 オーケストレーター
第6章 ライセンサー
第3部 ペイバックに向けた組織連携とリーダーシップ
第7章 連 携
第8章 リーダーシップ
あとがき――行動を起こす
甲斐莊正晃「女子高生ちえの社長日記―これが、カイシャ!? 」、プレジデント社(2007)
お奨め度:★★★★1/2
TBSの日曜日のドラマで「パパとムスメの7日間」というのをやっている。父とムスメが電車事故で幽体離脱して入れ替わって、それぞれの立場で会社に行ったり、学校にいったりするというコメディドラマ。究極の世代間コミュニケーションだ。この中で、ムスメがパパとして仕事をして、常識にとらわれない発想をし、活躍する様子はなかなか興味深い。
知らないことの強さのようなものもあるが、どうも、余計なことを考えすぎている部分も少なくない。シンプルに考えると別の世界が見えてくるわけだ。問題に遭遇したときに、もし、自分が常識も組織に関する情報もまったく持っていなかったとすればどう判断するか?
これが求められるような時代になったきたように思う。
このビジネスノベルは17歳の女子高生が、父親の急死で、突然社長に―。主人公ちえにとっては、知らないことばかり、「これが、カイシャ!?」と、つぶやく「発見」の毎日といったストーリー。
この本は単に経営の入門書というだけではなく、商品開発、営業、工場での生産などを、女子高生という素人の目から見て、どう見えるかを示しているのがミソ。たいへん、わかりやすいので、入門書としてもよいが、ある程度、経験がある人も新たな発見があるのではないかと思う。
なかでも、日本組織の特徴である人間関係に関する部分が面白い。日本人は何にこだわっているのかという思いになるのではないかと思う。
目次
プロローグ 何で私が社長なの?
第1話 傷んだキャベツも捨てちゃいけない理由
黒猫ワンタの一口メモ 減価償却
第2話 ネコしか知らない現場情報
黒猫ワンタの一口メモ 在庫月数
第3話 工場と営業、悪いのはどっち?
黒猫ワンタの一口メモ 在庫の3悪
第4話 予想が当たれば競馬もケーキ屋も大もうけ
黒猫ワンタの一口メモ 需要予測
第5話 ピッキングって空き巣狙いの仕事?
黒猫ワンタの一口メモ 棚卸し
伊丹敬之「経営を見る眼 日々の仕事の意味を知るための経営入門」、東洋経済新報社(2007)
お奨め度:★★★★1/2
経営というのは多面性があり、説明するのは非常に難しい。それを
・人はなぜ働くか
・仕事の場で何が起きているか
・雇用関係を断つとき
・企業は何をしている存在か
・株主はなぜカネを出すのか
・利益とは何か
・企業は誰のものか
・人を動かす
・リーダーの条件
・リーダーの仕事上司をマネジする-逆向きのリーダーシップ
・経営をマクロに考える
・戦略とは何か
・競争優位の戦略
・ビジネスシステムの戦略
・企業戦略と資源・能力
・組織構造
・管理システム
・場のマネジメント
・キーワードで考える
・経営の論理と方程式で考える
の21の視点から見事にきっている。
まさに、伊丹先生の知見のすべてを書ききった素晴らしい本である。会社に所属している人はぜひ一度読んでおきた本だ。
目次
第1部 働く人と社会
第2部 企業とは何か
第3部 リーダーのあり方
第4部 経営の全体像
第5部 経営を見る眼を養う