◆自利利他
加護野忠男教授の書かれた「経営の精神」に、「自利」という言葉が出てきて、興味を持ち、いろいろと調べていたら、深い言葉だ。「自利利他」は最澄伝教大師の言葉で、利他を実践すればいつかは巡り巡って自分の利益になるというような考え方ではなく、「利他の実践がそのまま自分の幸せなのだ」のようだ。
辞書を引くと、宗教用語としての自利は
仏道修行によって自分によい果報をもたらすこと。自分の成仏を目的とすること
とある。同時に、「自分の利益」であり、「私利」とも書かれている。宗教用語が本来の意味だとすれば、私利と自利は逆の意味のようにも取れる。調べてみてもよく分からなかったのだが、「私」と「自」はなんとなくだが、違うようなイメージがあるからだ。ただ、私利は「私利私欲」を連想したイメージを持っているからだけかもしれない。
◆役割と仕事の混乱
プロジェクトマネジャーの役割は何かという議論を一度、本音でしてみたい。多くのプロジェクトマネジャーが理解できていないし、PMOや組織もあまりよく理解できていないのではないかと思う。また、それによって、権限委譲があまり適切に行われていない、つまり、役割を果たすだけの権限が与えられていないようにも思う。
プロジェクトマネジャーの研修のときに、必ず、この質問をすることにしている。出てくる意見のベスト3は
・進捗の管理
・計画の策定
・チームビルディング
である(統計を取っているわけではないので、順位は分からないし、表現もまちまちであるが)。
こういったことはプロジェクトマネジャーがやらなくてはならないことである。それは間違いない。これは仕事(作業)であって役割ではない。まず、この認識があまりできていない。もちろん、できている人もいる。よく出てくる意見をいくつか上げると
・メンバーを安心して仕事ができるようにし、能力を引き出す
・顧客との関係を良好にする
・リスクに早く気付き、影響を抑える
といったものが多い。
◆「21世紀枠に負けたことは末代までの恥です」
第82回選抜高校野球大会で監督が騒動を巻き起こしている。騒動を起こしたのは、開星(島根)の野々村直通監督(58)。新聞によると、3月22日、第1試合で「21世紀枠」の向陽(和歌山)に1―2で敗れたあとのインタビューで、「21世紀枠に負けたことは末代までの恥です」などと発言したらしい。
スタンフォード大学のアントレプレナー・センターでエグゼクティブ・ディレクターを務めるティナ・シーリグ氏が自身の集中講義の内容を紹介した書籍「What I Wish I Knew When I Was 20(邦訳「20歳のときに知っておきたかったこと」(阪急コミュニケーションズ、2010)」で面白い指摘をしている。
◆リーダーの人間力
最近、人のインテグリティについて体系かつ、分析的に述べれた名著、ヘンリー・クラウドの「Integrity」の翻訳が出た。ビジネス書の杜にも紹介記事を書いたが、プロジェクトに関わるすべての人にとって、とても大切なことが書いてある本なので、ぜひ、一読をお奨めする。
リーダーの人間力
https://mat.lekumo.biz/books/2010/02/integrity.html
さて、この記事で書こうとすることは、人のインテグリティの話ではない。人に人間性というインテグリティが必要であるように、プロジェクトにもインテグリティが必要である。プロジェクトをインテグリティという目で見ていると、インテグリティのないプロジェクトは「大きな失敗」をすることも多いし、失敗しないまでも大きな成果は得られにくい。
ヘンリー・クラウドの本の解説を借りながら、プロジェクトのインテグリティについて考えてみたい。
◆マネジャーとリーダーの違い
PM養成マガジンを始めたころに、「プロジェクト管理とプロジェクトマネジメントは違う」、「プロジェクトマネジャーがすべきことはプロジェクトマネジメントであってプロジェクト管理ではない」と言い続けてきた。それは言葉の遊びだと指摘されることも少なくなかったが、僕の中では明確な区別があった。そろそろ、区別を明確にしたいと思う。
これに関連する議論で、マネジャーとリーダーはどう違うかという議論がある。この議論は、古くから行われている。この議論のベースラインができたのは、ハーバード・ビジネススクールの名誉教授アブラハム・ザレズニック氏の論文
「マネジャーとリーダー:その似て非なる役割」
という論文だ。この論文はハーバードビジネスレビューに1977年に掲載され、当年のマッキンゼー賞を受賞し、大変有名な論文である。ザレズニック氏はマネジャーとリーダーはまったく別の人種であるとして、以下のような指摘をしている。
◆何故世界一じゃなければダメなんですか?
昨年、あるプロフェッショナルエンジニアの電子コミュニティに事業仕分けについてのストレートな意見を書いたら、ぼろくそに言われた。ブログに書くと収拾がつかなくなるかもしれないという不安で控えていたが、そろそろ、ほとぼりが冷めてきたので、この話題を解禁することにした。
何故世界一じゃなければダメなんですか?2位ではダメなんですか?
次世代スーパーコンピューターの開発を巡る事業仕分けでの、仕分け人の発言だ。
仕分け人は、「有識者」から、袋叩きにあった。「歴史という法廷に立つ覚悟があるのか」とまで言われた。結局、予算案では、40億円減の228億円で決着。
仕分けに対して否定的な意見を聞いていると事業仕分けがやろうとしていることに誤解があるのではないかと思う。事業仕分けでやろうとしていることは、専門的な議論ではない。マネジメントである。
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管理のメカニズムを、本質や哲学と混乱してはいけない(フレデリック・テイラー)
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◆テイラーの科学的管理法
PMサプリもおかげさまで、今回で200話になる。200話ということで、少し、重みのある言葉を探して、見つけたのがこれだ。フレデリック・テイラーが1911年に著した「科学的管理法」からのフレーズである。
現代では、科学的管理法の評判は決してよいものではない。もっとも批判されているところは、人間を機械として扱っているという点だ。テイラーは科学的管理法の父と呼ばれるが、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは著書「マネジメント」の中でテイラーを以下のように称している。
テイラーは、労働の生産性を押し上げ、それによって労働者たちにまずまずの暮らしをさせたいと願ったわけだ
管理のメカニズムの本質とは労働の生産性の向上であり、労働によって得られる対価
を引き上げることであった。日単位の出来高払いの仕事の中で、労働者はテイラーの
科学的管理法の指導を受けて作業方法を変えることによって、生産性を向上すること
ができ、それによって従来よりははるかに多い報酬を手にすることができた。
◆フォロワーシップという考え方
「フォロワーシップ」という概念がある。くどくど説明するより、リーダーシップの逆の概念だと思ってもらうのがいいだろう。この概念は、1980年代に、リーダーシップの研究者だったロバート・ケリーが提唱し、1992年に「The Power of Followership」という本にまとめた。この本がバイブル的な位置づけになっている。
2~3年前から、日本でも着目する人が増えてきた。
ただ、リーダーシップが普及の初期において、「上司力」だと限定的に考えられていたように、現在のところ、「部下力」であると限定的に考えている人が多い。ロバート・ケリーが指摘しているように、リーダーシップがリーダーが目標とするものであるのに対して、フォロワーシップは「不快感」を与えるものである。従って、部下力と限定されているのではないかと思える。
◇プロジェクトの3つの見方
プロジェクト活動を企業にとって有意義なものにするためには、デザインにおいてプロジェクトに対して3つの見方をしてみる必要がある。その3つとは
(1)視座
(2)視野
(3)視点
である。
最初の視座とは、誰がどのような目的を達成するために実施するプロジェクトかという見方だ。二番目の視野とは、そのプロジェクトをどのような範囲、どのような時間で捉えるかという見方だ。三番目の視点はよく使われるとおり、そのプロジェクトにどのようにアプローチしていくか、言い換えると目標をどのように設定するかという見方だ。
現場のプロジェクトマネジメントでは、視点が重視されている。しかし、視座や視野も持ち込まないと、経営的な成果は上がらない。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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