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2016年8月 2日 (火)

【イノベーション戦略ノート:094】見えないものを見えるようにするイノベーティブ・リーダーシップ

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Race_2◆なぜ、本質は見えないのか

ちょっと必要があって日産の水野和敏氏(現在は華創日本株式会社代表取締役、最高執行責任者COO)の著書

水野和敏「非常識な本質――ヒト・モノ・カネ・時間がなくても最高の結果を創り出
せる」、フォレスト出版(2013)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4894515806/opc-22/ref=nosim

をかなり丁寧に読み直した。ちょっと気づいたことがあったので、今回はその話題。


◆日産・水野さんの経験

本質と言うのは一般的には見えない。だから、本質を探すのは難しい。

ここまではいいと思うのだが、問題はなぜ、見えないかだ。水野さんの本で、本質の説明に使われている例がいくつかあるのだが、その一つにカーレースの話がある。カーレースに勝つための本質は、マシンの最高速度ではないというのが水野さんの説。

本質は、平均速度を如何に上げるかであり、そのためには最高速度を上げる方法とは異なるアプローチが必要だという。たとえば、富士スピードウェイでいえば、最高出力で走れるところは全体の18%に過ぎないそうだ。つまり、82%はカーブで、ここを速く走れるマシンの方が勝つ可能性が高いと考えた。

このほかにも、コックピットの作業時間を短縮すれば、大幅に有利になるなど、いくつも勝つためのレースの本質を具体化した方法を考案し、それを実際に投入して、国内耐久選手権3連覇、1992年にはデイトナ24時間レースを含め、全戦全勝という見事な成績を残した。

この際、水野さんが採用した方法はいずれも常識を外れるものだった。だから非常識な本質だと言っているし、非常識だからこそ、本質が見えない。たとえば、最高出力にこだわらないという方法は、関係者はもちろん、レーサーも嫌がる方法だったらしい。だとすれば、誰も見えない方法だということになる。



◆イノベーションにおける例

イノベーションにはこういうポイントがたくさんある。たとえば、今、世の中をにぎわしているポケモンGOのシステムのベースになっているのはグーグルマップだが、マップ化を最初に考えたのはグーグルではない。

もともと、デンマーク人の兄弟Lars Rasmussen と Jens Rasmussenがシドニーに設立した企業 Where 2 Technologies によって開発されたもので、C++言語で記述されたダウンロード型のソフトウェアだったが、Google が Where 2 Technologies を買収し、二人のチームが Webベースのサービスとして再開発したものがグーグルマップになったものだ。

後悔されてもう10年以上になるが、今でもイノベーティブである。


◆見えないものを見えるようにするリーダーシップ

グーグルマップが話題になったときに、日本の地図ソフトをやっている会社が現実的ではないと非難をしていたのを思い出すが、水野さんの話を読んでいると、やっぱり、人間が本質を隠し、イノベーションを妨げているとしか思えない。

水野さんがGT-Rを作った時代と今では時代が違うが、今でも日本人の経営陣であれば、GT-Rはできなかったと思う。イノベーションをやれと言いながら、実際には失敗したくないからだ。特に自動車のように開発サイクルの長い製品ではこの傾向が強いだろう。

失敗を恐れながらイノベーションに取り組むということは、失敗しないイノベーションのテーマを探してやっていうということだ。これは従来の研究開発で技術を創り、その技術を使って新しい製品を作るというタイプのイノベーションの方法としては正しい方法であるが、今、重要だとされている既存の技術やサービスの組み合わせのよるイノベーションではありえないことである。水野さんのやってきたことはまさにこれで、そのためには、パンパではないリーダーシップが必要である。

これこそが、イノベーティブ・リーダーシップを呼ぶべきものだ。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。