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2014年7月10日 (木)

【イノベーション戦略ノート:037】続・イノベーションのタイミング

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◆イノベーションはパラダイム曲線のどこで起こりやすいか

Timming_2

イノベーションの成功に欠かせない視点はタイミングである。イノベーションにとってパラダイムが重要な理由もタイミングの見極めにあるといってもよい。

前回説明したようにパラダイム曲線で見ると、新しいパラダイムは古いパラダイムが終わりかけたことに生まれるとは限らず、パラダイムが普及している段階や、さらには古いパラダイムが認識される途中で起こることもある。

では、イノベーションはパラダイムのどこで起こるのだろうか?今回はこの問題を考えてみたい。


◆タイミングが早い理由1~環境

製品開発のタイミングが早すぎたとか、遅すぎたとかいう議論がある。遅すぎたという場合はたいてい競争の問題である。競合の後塵を拝してしまったようなケースだ。では、早すぎたというのはどういうことだろうか?

一つは利用環境の問題がある。近年だと通信環境というのが重要な要因になっているケースが多い。たとえば、iPhoneの成功の理由の一つは明らかに通信環境の進歩に併せて製品のコントロールをしていることだ。

当たり前のような話だが、通信環境を考慮せずに失敗した事例は多い。通信環境が整っていないときに機能を抑制するのはどんな製品でも行っている。しかし、環境に併せてロードマップを作って、製品開発のコントロールをしている例はあまりない。

ロードマップの重要性は向こう何年かに亘って製品をコントロールすることにある。真偽のほどは明らかではないが、ジョブズはiPhoneの5世代分の詳細なロードマップを作っていたという。実際に、通信環境の進化と比べながらiPhoneの機能の進化を見ると、非常に計画的である。


◆タイミングが早い理由2~パラダイム

早すぎるという場合のもう一つの問題がパラダイムである。パラダイムが十分に普及していない状況ではそのパラダイムの問題解決はあまり興味を持たれない。この例でもアップルの話が出てくる。今は当たり前になっているIC型の携帯オーディオに最初に手を出したのはアップルではなく、ソニーだった。メモリースティックウォークマンである。

ところが、IC型オーディオというパラダイムは十分に理解されておらず、単なるメディアの置き換えだった。つまり、新しいパラダイムでできることは小型化という問題解決だけだった。加えて、そのソニーはこのパラダイムにはネットワークが重要な役割を果たすことを理解していなかった。このため、はつばいから数年で姿を消した。

ソニーのICウォークマンは失敗だった。早すぎたのだ。

その後、IC型オーディオというパラダイムが十分に理解されだしたところで、新しいパラダイムの意味を十分に理解したアップルが開発したのが、iPodだったわけだ。


◆パラダイムを理解し、うまく使ったものが勝つ

音楽を持ち歩くというコンセプトでそれまでのウォークマンに変わるポジションを得た。そこでアップルが示した新しいパラダイムの実現方法は大容量の内臓ハードディスク、1曲単位の販売、オープンなフォーマットによる流通など、これまでにはない画期的なものだった。80年代にソニーがウォークマンで生み出した音楽プレイヤーの新しいパラダイムよりも画期的だったかもしれない。

iPodとメモリースティックウォークマンを技術的に比較した場合、重心の置き方は異なるがメモリースティックウォークマンの方が優れているのではないかと思う。ただ、今思えば、メモリースティックウォークマンは古いパラダイムの画期的な商品だったように思えるのだ。

つまるところ、画期的なイノベーションではパラダイムを的確に理解し、実現したものが勝つということだ。


【参考文献】
ジョエル・バーカー(内田 和成序文、仁平 和夫訳)「【新装版】パラダイムの魔力~成功を約束する創造的未来の発見法」、日経BP社(2014)

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。