前回、2013年のGEの「グローバル・イノベーション・バロメーター」の結果を紹介した。これから分かるように、日本の企業は(欧米ほどでないにしろ)、80%の企業がイノベーションの重要性を認識しつつも、それに見合うだけのリソース投入をしていない。また、環境や仕組みづくりも欧米に大きく劣っている。監修された米倉先生の言葉を借りれば、「イノベーションが闇研究から偶然生まれる」と考えている。
なぜなのだろうか?と考えてみると、いくつかの理由が考えられる。
真っ先に思い浮かぶのが、企業として公式の仕事にしてしまうと結果を求められ、仕事の性格上、失敗することが多くなる。これを嫌がっている節がある。それならば、ある程度の目途がつくまで闇で行うことに目をつぶるというパターンだ。これは理由は日本企業では昔からあったパターンだ。
これはこれで、それでも業務のパフォーマンスが低いという別の問題がある。ある企業の役員とこの話になったときに、サービス残業しているから問題ないと平然と言いきられて唖然としたが、まあ、実態なのだろう。これを合理的に行おうというのが、第11話で紹介した3Mやグーグルが採用しているルールだ。
どんな分野にしろ、要求はプロジェクトマネジャーを悩ます元凶である。ITであれば顧客の要求、商品開発であれば市場やユーザの要求に応えることがプロジェクト成功に秘訣と考えてしまう。
センスのいいプロジェクトマネジャーはそうは考えない。顧客の要求ではなく、顧客の期待に応えようとする。
要求と期待は同じではないかと思うかもしれないが、そうではない。顧客の要求は、こういう機能を作ってほしいとか、こういう性能にしてほしいとか、こういう使い勝手にしてほしいといったことである。
しかし、顧客にとってもっとも重要なことは機能や性能ではなく、その先にある。そう、その機能や性能によって起こることだ。たとえば、CRMのシステムであれば、CRMのシステムを使うことによってリピート率が○○%上がるといったことだ。たとえば、エアコンであればワット数ではない。早く斑なく部屋を冷やしたり、温めたりすることだ。これが顧客がその製品や商品に期待するものだ。
厄介なのは、要求は同じでも期待は顧客によって違うし、ユーザによっても違うことだ。その中で、その顧客の期待を把握し、応える必要がある。特に、顧客の誰、どのようなユーザに応えればよいかを把握し、その人たちに応える。ここがセンスのよいプロジェクトマネジャーの真骨頂である。
ゼネラル・エレクトリック(GE)が毎年、「グローバル・イノベーション・バロメーター」という調査をしている。これはイノベーション戦略に直接かかわっている経営者の意識調査で、2013年度は25か国、3100人の経営者が対象になっている。
日本にとっては、毎年、ショッキングが結果が出てくる調査だが、今年もあまり変わっていない。
今年、話題になった調査項目をいくつか紹介すると、まず、この設問。
「会社にとってイノベーションは優先的課題である」
→世界平均 91%、日本80%
この傾向は毎年変わらない。
イノベーションの実行においてもっとも重要なのはいうまでもなく、アイデアを実現する方法である(これもアイデアである)。イノベーション自体のアイデアにおいても、最近注目されているのが、「模倣」である。
最近、「コピーキャット」(東洋経済社、2013)という本が出版された。この本は10か国で翻訳されている話題書でアップル、IBM、ウォルマート、サウスウエスト航空、グラミン銀行といったそうそうたるイノベータ企業を取り上げ、これらの企業が行っている「クリエイティブ」な模倣は素晴らしいビジネスモデルがであると指摘している。
その理由は、模倣はイノベーションよりも早く安く商品ができるうえ、低リスクで収益性が高い。企業の資金や時間といったリソースを他社製品のサービスや市場の研究に当て、クリエイティブな模倣に集中でき、少ない労力で大きな利益をあげることができるというものだ。
にも関わらず、多くの企業はイノベーションを主軸としたゼロからのオリジナルのヒット開発に莫大なリソースを投じていると指摘している。
プロジェクトという言葉はあまり明確に定義されていないが、どこの会社でも、あちこちにプロジェクトという言葉が飛び交っているような時代になってきた。
「プロジェクトとは何か」という問いを真剣に考えてみた人はそんなに多くないのではないかと思う。仕事というくらいの感覚で、気軽に使われている。
PMBOK(R)で定義されているではないかという意見もあると思う。PMBOK(R)では
・新規性:何か新しい要素がある
・有期性:最初と終わりが明確である
・段階的詳細化:業務の進行とともにさまざまなことが決まってくる
の3つの特徴を持つ活動がプロジェクトだと定義されている。この定義はプロジェクトマネジメントの視点からの定義であり、プロジェクトの一面をとらえているが、これですべての人が納得するような類のものではない。
好川哲人
技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。
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