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2010年5月21日 (金)

【戦略ノート212】インシデントに注目したリスクマネジメントと改善

今回の戦略ノートは、Twitterのつぶやきを起点に記事を展開してみたいと思います。記事に対する意見はTwitterでお願いします。

【Twitter 2010年4月26日のつぶやき】

トラブル(事故)をマネジメントに活かしている組織は多いが、インシデント(リスクの発生)をマネジメントに活かしている組織は決して多くない。ひとつはリスクの設定ポイントに問題があるが、それにしてももったいない。マネジメントを根本的に変えるチャンスなのに。(http://bit.ly/bztDFM


◆インシデントとは

インシデントのもともとの英語の意味は単なる「出来事」という意味だが、日本語では医療関係で、医療ミスにつながる可能性のある「できごと」という意味で使われるようになった。製造業であればもっとも近い言葉は「ヒヤリハット」だと思う。

トラブルの定義にもよるが、プロジェクトマネジメントの発想でいえば、インシデントはリスク事象の発生であり、トラブルの発生ではない。ただし、リスク事象が適切に設定されていて、リスク事象の発生が必ずしもトラブルになるとは限らないという前提があっての話である。

例えば、スキル不足というリスク事象を想定していて、実際にそのリスクが発生しても、スケジュールの遅延というトラブル(ダメージ)が発生するとは限らない。リスクの発生とトラブルの発生は違う(ここではトラブルは、是正不可能な状態だと考える)。


◆なぜ、リスク事象の発生=トラブル発生となるのか

リスク事象の発生=トラブルの発生だという認識があれば、それはリスク識別が大雑把過ぎるからだと思われる。リスクマネジメントでは、兆候という言葉が使われるが、兆候の発生がリスクの発生だというリスク事象の識別がされていない。言いかえると、時間的にみたときに、ある期間はプロジェクトに何らかの異常(問題)があるのが見過ごされていることになる。

仮に
 リスク事象:スケジュール遅れ
といった設定をしていたとしよう。この場合、スケジュール遅れというリスクが起こるまでに、いくつかのインシデントがあることが予想される。たとえば、「報告の遅延」、「残業の増加」、「ミーティングへの不参加」などである。これらをスケジュール遅れのリスクの予兆とする人が多いが、リスクそのものとして認識されるべきものである。

このように考えていくと、コーポレートリスクとは異なり、プロジェクトリスクは発生がインシデントになるものを設定すべきであり、トラブルになるものを設定してもあまり意味がない。トラブルになるリスクというのはもちろんあるが、それは、プロジェクトの企画や計画の段階で解消されるべきであって、現場ではインシデント発生、つまり、リスク発生の状況を分析してプロジェクト状況の改善に活かすべきである。プロアクティブなリスクマネジメントというのは、一つはできるだけ計画時点でリスクへの対応をするという意味だが、もう一つはインシデントを捉えるという意味である。


◆インシデントは問題の宝庫

医療におけるインシデントがそうだが、実はインシデントはプロジェクトマネジメントの仕組み上の問題の宝庫でもある。プロジェクトにおいてインシデントでリスクマネジメントをするメリットの一つはこの点にある。インシデントから良質の改善ネタが多数出てくる。

ここで注意しておかなくてはならないのは、個別プロジェクトのプロジェクトマネジメントの改善と、プロジェクトマネジメントの仕組みの改善を混乱しないことである。

例えば、報告の遅延やミーティングへの不参加というリスクが発生したので、プロジェクトマネジャーがステークホルダとメンバーの「ハブ」になりコミュニケーションを徹底するという改善策を打ち出した。これはプロジェクトマネジメントの改善であるが、リスクの発生したプロジェクト限りのものである。これを仕組み化されたらトンでもないことになる。このリスク(インシデント)に対応する仕組み改善はやはり、コミュニケーション計画の充実という方向のものになるだろう。


◆ダブルループのPDCAが必要

では、トラブル発生による改善は不要か。もちろん、そんなことはあり得ない。ただし、それはプロジェクトの改善ではなく、プロジェクトマネジメントの仕組み改善である。

不幸にもトラブルが発生した場合には、それをプロジェクトマネジメントの仕組み改善のチャンスだと捉えるべきだ。トラブルのフィードバックによるプロジェクトマネジメントの改善は「今、走っているプロジェクト」のために行うものではなく、「将来実施するプロジェクト」のために行うものである。これは、プロジェクトにおける改善ではなく、組織における改善である。

これまでの話を整理しておく。「問題発生」によるプロジェクトマネジメントの改善は、ダブルループで行わなくてはならない。インシデントによるプロジェクトレベルのプロジェクトマネジメントの改善と、インシデントとトラブルによる組織レベルのプロジェクトマネジメントの改善である。この2つのPDCAを回す必要がある。


◆なぜ、一旦よくなったパフォーマンスが落ちるのか

注意すべきことは、組織レベルのプロジェクトマネジメントの改善には、組織マネジメントの改善が含まれてくることだ。それをすべて現場の問題に転嫁してしまうと、どんどん、プロジェクトマネジメントの仕組みが重くなってきて、プロジェクトマネジメントの効果を下げてしまう。この落とし穴にはまっている組織は驚くほど多い。

自社のトレンドを考えてみて、一旦、プロジェクトマネジメントの改善でプロジェクトパフォーマンスがよくなったのに、そこから、徐々に劣化してきているとしたら、まず、間違いなくこの落とし穴に落ちている。改善だと思って取り組んでいることがある時点から、改悪になってしまっているのだ。

つまり、組織レベルのプロジェクトマネジメントの改善をするときには、組織とプロジェクトの間で施策のバランスが必要である。多くのPMOはこの点を見逃している。特に、経営組織が負荷を負わないという前提で施策を決める傾向にあり、プロジェクトマネジメントを高度化する負担がすべて現場にいっている。これを、組織全体でもっとも効率的にプロジェクトマネジメントを行うには、どうすればよいかという視点に切り替えて行かなくてはならない。


◆プロジェクトガバナンスが重要

そのときに、欠かせないのが、「プロジェクトガバナンス」である。なぜ、現場にすべての問題が集中するかというと、プロジェクトガバナンスが弱いからだ。つまり、組織の各層が、プロジェクトの遂行上で相応な責任を負っていない。すると、当然だが、プロジェクトの成果物という現物を抱える現場にすべての責任を負う。

ガバナンスを整理する一つの方法が、先に述べたトラブルでものを考えるか、インシデントでものを考えるかだ。現場はインシデントベースのリスク管理を行う。その代わり、トラブルが発生したら、トラブル自体の解決、および、根本的な問題の解消は組織が責任を負う。これがガバナンス強化の近道である。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。