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2008年11月25日 (火)

【補助線】問題なのは「やり方」ではなく、「あり方」だ

中世ドイツのキリスト教神学者マイスター・エックハルトが残した言葉に

人々がじっくり考えるべきことは、「何をすべきか」ということよりむしろ「どうあるべきか」ということだ。

という言葉がある。もっと古い時代には、老子は、

あるのは、やり方ではなく、あり方だ。

といっている。

日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が発行しているP2Mガイドブックによると、プロジェクトとは「あるべき姿」を明確にして、そのあるべき姿を目標に仕事を進めていくことだとしている。言い換えると、プロジェクトの目的というのは、「どうあるべきか」ということにおくべきであり、「何をすべきか」ということにおくべきではないということだ。

たとえば、情報システムを作るプロジェクトにおいて、「どのようなシステムを作るべきか」という視点で目的設定をしても顧客が満足するシステムは作れない。「企業や業務がどうあるべきか」という視点から目的を設定すると、結果として顧客が満足するシステムを作ることができる。いくら、業務の中心がITだからといっても「システムがどうあるべきか」という議論は神学論争に近い。たとえば、「○○システム」なんていった雑誌が何十年も発行していられるのは神学論争だからだ。また、ソリューションがなんとなく胡散臭いのも、実はこのためである。

エックハルトや老子から学べることは、まずはこの点である。

次の問題は、「どうあるべきか」を考えるには何が必要かということだ。

ビジネスでは実践や行動が問題である、すなわち、何をすべきかが問題だと思っている人が多い。システムを作る例で言えば、システムエンジニアは何をすべきかを考えなくてはならない。しかし、プロジェクトマネジャーが何をすべきかを考え始めるとそのプロジェクトの構想自体が、「どのようなシステムを作るべきか」だけを考えるところに縮退してしまう。

理念的な話をしたいわけではない。このような縮退がプロジェクトを苦しめているのだ。縮退したプロジェクトではスコープでものを考えるようになる。悪いことではないが、プロジェクトには環境の変化はついて回るので、無駄な努力になることが多い。つまり、納期が早まったり、あるいは予算がないままで機能追加があり、結果としてコスト削減になる。その中でプロジェクトが一生懸命働き、何とか仕上げたシステムが顧客のビジネスにはさほど役に立たないものになる。

「角を矯めて牛を殺す」ならぬ、「スコープを矯めて目的を殺す」である。

このような悲惨なプロジェクトにしないためには、プロジェクトマネジャーはメンバーに対して「あるべき姿」、つまり、顧客の目的、プロジェクトのビジョンを語り続ける必要があるのだ。

このためには、プロジェクトマネジャー自身が、行動ではなく、あり方を考えるべきである。タクシーのワンメータに1万円を出すような時代には、やり方を考えておけばよかった。システム開発でいえば、「納期延長なしの機能追加ですか。なんとかしますよ。あと、1億出せますか?」、「分かりました。いつもご迷惑をおかけします」という世界だったわけだ。

今はこんな理屈は通用しない。そんな費用をかけると顧客にしわ寄せがいく、投資するならITではなく環境にしたい、スピードだけが問題ではないなど、経済合理性の範囲を超えて、いろいろな意見(価値観)が出てくる時代になってきた。

このような時代にリーダーであるためにはあり方が問われる。プロジェクトがどうあるべきかを考えるには、リーダー自身がどうあるべきかを深く考える必要がある。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。