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2008年9月 1日 (月)

【補助線】出でよ!プロジェティスタ!

PMBOKの功罪はいろいろだと思うが、最大の「罪」はプロジェクトマネジメントを現場の管理技術に限定してしまい、プロジェクトの経営への貢献をないがしろしてしまっていることではないだろうか?もっとも、厳密にはPMBOKに罪はない。むしろ、罪があるのはPMBOKを管理手法だと理解して、そのようにしか使わなかった人たちにあるというべきだろう。

当り前の話だが、プロジェクトマネジメントはプロジェクトに対して行うものである。つまり、目的の決まったプロジェクトに対して、プロジェクトをデザインし、実行することがプロジェクトマネジメントの存在意義である。

ところがこの2~3年、妙な現象がみられるようになってきた。プロジェクトマネジメントありきでプロジェクトをデザインするという現象だ。特に誤ったリスクマネジメントが本末をひっくり返している。つまり、プロジェクトのデザインにプロジェクトマネジメントが影響を与えるようになってきたのだ。たとえば、このようなスコープは極めてリスクが高いので、スコープを変更しようということが、リスクマネジメントの名の下で堂々と行われている。

これでは、会社は潰れてもいいので、プロジェクトだけは成功させようといっているようなものである。

最近、シニアマネジャーからよく耳にすることは、創造性のあるプロジェクトが少なくなってきた、飛躍的な成果を生み出すプロジェクトが少なくなってきた、付加価値の高いプロジェクトが少なくなってきたといったものばかりだ。プロジェクトを実施するリーダーからは楽しくないという言葉をよく耳にする。

リーダーたちはプロジェクトマネジメントをやりたくてプロジェクトをやっているわけではない。何かを達成するためにプロジェクトをやっているのだ。プロジェクトマネジメントはその何かをよりスムーズに達成するための手段に過ぎない。

プロジェクトマネジメントの中で、この「何か」を「目的」だとして扱う。目的を扱う際にプロジェクトマネジメントを持ち込んで「型」にはめようとしている組織が増えている。これではライン業務である。

ここまで読んで何を言っているんだと思った人もいると思うので、ここで、少し、話をもとに戻してみたい。

組織はプロジェクトマネジメントというのは誰のためのツールとして導入したのか?多くの組織は、組織のための管理ツールとして位置付けている。つまり、組織がプロジェクトを管理するために、プロジェクトにプロジェクトマネジメントを導入することを考えた。おまけに上で述べたように過剰管理をしている。

しかし、これはプロジェクトマネジメントの持っている一面に過ぎない。プロジェクトマネジメントのもう一つの面は、リーダーが想いを遂げるためのツールである。つまり、自分の想いをプロジェクトをいう形で実現しようとしたときに、何よりも強力な支援になるのがプロジェクトマネジメントである。だから、リーダーはプロジェクトマネジメントを習得しようとするのだ。

想いを遂げるためのツールが組織の管理ツールと同一であることはこの上なく好ましいことである。組織とリーダーは同じリスクへの認識の中で仕事ができるからだ。ところが、現実にはリーダーたちの想いはプロジェクトマネジメントに絡まれて、身動きがとれなくなってきている。

このような現象は、商品の開発プロジェクトに限らず、SIのような受注プロジェクトでも起こっている。たとえば、10年前と今を比較してみてほしい。10年前に、今のように顧客の言うことを実現するためだけにプロジェクトをやっていただろうか?商品の開発に比べると、その範囲は狭いかもしれないが、営業と一緒に飛躍した提案をしたり、あるいは、顧客を説得したりして、何とかして創造性を満たされるプロジェクト、楽しめるプロジェクトを作ろうとしていたのではなかろうか?

顧客は今でもそのような提案を期待している。しかし、しなくなったのは、ベンダー側の管理方法の事情である。これはプロジェクトの目的の統制である。

目的を統制するというのは、リーダーの思考統制であり、いずれは思考停止に至り、創造は死ぬ。

なぜ、こうなったのか?ここにPMBOKの適用方法が誤りだと言っている理由がある。本来、プロジェクトは思いがあり、それが目的になる。そして、それを実現するために、どのようにやるかを考えることにプロジェクトマネジメントの本質があるし、創造性は、目的ではなく、そのやり方の中に源泉がある。

しかし、目的達成手段を固定観念で固定し、目的そのものの飛躍や創造を否定するようなマネジメントをプロジェクトマネジメントと称して行っていることがなんと多いことか。

もう一度、原点に戻ろう。プロジェクトを創る、プロジェクトを管理する。どんな枠組みがあろうと、その枠組みを超えてプロジェクトを創ることに悪あがきしよう!このような活動を行えるリーダーこそが、プロジェティスタである。

出でよ!プロジェティスタ!

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コメント

いつも拝読しています。

プロジェティスタですか、、
いまいちよく分かりませんね。。。

弊社では、PMOが機能せず、発展するどころか計画書類のドキュメントやレビュープロセスを標準化しただけで人材難から組織的に解体してしまい、依然として能力のある一部のPMに頼った経営が続いています。
彼らは複数のプロジェクトを束ねて、PMBOK的な手法もマスターしているのですが、そのような人たちのことでしょうか。
どうみてもかつてのスーパーPMの延長で活躍しているだけなのですが、、

実際、上級管理職として人事権も担っているため、横の組織連携で要員を手配して、プロジェクトを立ち上げて引き継ぎますので、個人としてPMO的な役割を担っているとも言えません。
こうやりかたが、時代についていっているというような、矛盾した内容になりませんでしょうか。

結局、PMOなどという組織的な役割は不要だったということに。

ponoさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます。また、今回は問題意識の高いコメントありがとうございます。

プロジェティスタの議論のポイントは、価値創造にあります。

今までプロジェクトマネジメントは「作り方を考えることによって価値を生み出すプロジェクト」を中心に適用されてきました。このようなプロジェクトを行う組織では、標準は価値創造に大きく寄与しますし、それを作り、運用していくPMOもまた価値創造に大きな貢献をしています。おっしゃるとおり、この世界で、いくつものプロジェクトを抱えて、個人技で稼いでいるプロジェクトマネジャーもいますが、これは良いことだとは思いません。

プロジェティスタの議論はこの世界を否定しているわけではなく、今の、プロジェクトマネジメント(特にPMBOK)のコンテクストではあまり目を向けられていない、「作るものを考えることによって価値創造を行うプロジェクト」では、違うタイプのプロジェクトマネジャーが必要であり、それを多少手垢のついた感のあるプロジェクトマネジャーという言葉と区別する意味で、プロジェティスタと呼んでいます。名前は最近からはじめましたが、私自身は、これは、最近言い出したことではなく、メルマガをはじめてから、ずっと、両方のあり方をプロジェクトマネジャーのあり方として視野に入れた議論をしています。極論すれば、SIと商品開発に二分したときに、ちょうど、この2つのタイプのプロジェクトになっているからです。

作るものを考えるプロジェクトでも、PMOは大切です。作るものを考えるプロジェクトでも、作り方を考えるフェーズというのは必ずありますし、また、オペレーションマネジメントだけではなく、われわれが行っているビジネスアラインメント、つまり、ビジネスの支援の機能まで持つPMOというのはプロジェティスタが活動する上では不可欠です。

したがって、PMOはプロジェティスタの右腕の組織だといえます。スーパーPMというときの言葉を使うときの一般的な意味は、作ることを指揮することに長けた人ですので、まったく違うと思います。

すごく大切なことは、どちらが重要かではなく、経営にはどちらも必要だということです。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。