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2007年7月

2007年7月30日 (月)

【補助線】価値観はあるか

◆クールビズはなぜ、難しいか

チェンジマネジメントの難しさを例えるのによく使われる例がある。みなさんの会社でもクールビズをやっている会社は多いと思うが、「冷房を入れる」のと、「冷房を切る」という2つの行動の違いである。単純な話だが

 暑い
  → 冷房を入れる
      → 涼しくなって気持がよい
         ⇒ 【繰り返し行われる】

 涼しい
  → 冷房を切る
      → 暑くなって能率が下がる
         ⇒ 【やらなくなる】

という話で、冷房を入れる習慣(?)はすぐに身につくが、冷房を切る習慣はなかなか身につかないということを示す例だ。チェンジマネジメントとは、冷房を切るような習慣を作るマネジメントであることが多い。

このためには「クールビズ」といったルール(仕組み)を作ることも必要だが、ルールだけでは不十分で、地球環境を守ろうといった「価値観」が定着されて始めて冷房を切る習慣ができるという話だ。この価値観の定着にこそ、チェンジマネジメントの本質がある。

Kati
◆プロジェクトマネジメントが定着しない2つの理由

これをプロジェクトマネジメントに例えてみると、なぜ、定着しないかがよくわかる。大きな理由は2つある。

一つ目は、繰り返しが行われるループの経験、つまり、成功経験がないことだ。プロジェクトマネジャーのA氏は、プロジェクトマネジメント批判の先鋒だった。しかし、あるプロジェクトでしぶしぶやったリスク識別と、リスク対策の策定が、窮地を救った。この中で、リソース調達のリスクについて言及しており、その計画をレビューした上司が密かに根回しをしていてくれた。これで、実際にショートし、相談したら、すぐに「Bさんに相談しろ」といわれ、簡単にリソースが確保できた。これまでだと、期待せずに一応相談はするといった感じだったのだが、目からウロコだったそうだ。これを契機にAさんは、計画の共有を主眼にきちんとした計画を書き、いろいろな人の意見を聞くようになった。

もう一つはやらなくなるループがあること。例えば、「作っても使わない」というのが多い。苦労して計画書を作るにも関わらず、自らも含めてほとんど計画書を使うことはない。実際にスケジュールがずれてもマイルストーンでつじつまを合わせればよいし、上司もそれ以外のタイミングではプロジェクトの状況を聞くくらいで、進捗として計画を使うことがない。それでも最初はルールがあるので形式的にも計画書を作っているのだが、顧客の都合ですぐにプロジェクトを立ち上げたいといった状況に遭遇するのを機に、計画を作るのをやめてしまった。

◆問題を解決するには

うまく一番目のような成功経験ができれば、二番目の問題は解決する。というか、実際に計画を使っていることが実感できる。しかし、成功経験がないと、二番目の問題を解決するのは冷房の例と同じくやっかいである。プロジェクトマネジメントを行うことへの価値が必要だ。

このためにはまず、価値観を明確にする必要がある。プロジェクトマネジメントを行うことが自社や自組織にとってどういう意味があるかを明確にし、それをやらないと何が起こるかを明確にする。

できれば、これを支持するストーリーなどがあるとよい。

その上で、7月9日のコラムで述べた定着化のサイクルの中で、「教育」と「奨励」の中で、価値観を実感できるような工夫をしていく。教育では、特にトラブルマネジメントの教育を価値観を埋め込んで行うことが効果的である。奨励では、価値観に沿った行動をとった人を誇らしい気持にさせるような報奨を与えるといった方法が考えられる。

2007年7月27日 (金)

PMサプリ85:不文律と戦う

規則で縛るより「現場の判断」を大切にする(インジョイグループ創始者 ジョン・マクスウェル)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮、リスク管理能力アップ、アカウンタビリティの向上
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上、リスク対応力向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

【成分】

◆コンドミニアムとノードストローム

マクスウェルはリーダーシップ開発の大家で、欧米で年間に2万5千人以上の教育をしているといわれている人だ。「世界一のメンター」といった称号まで持っている。彼の著書を読んでいると本当に人間の本質をよくわかった言葉がたくさん出てくるが、ちょっと異色なのがこの言葉。

彼の著書でこのテーマのエピソードとして出てくるのが、コンドミニアムの話。

ずっと愛用しているコンドミニアムでチェックアウトの段になって鍵を忘れた。とりに戻っていると飛行機の時間に間に合わない。従業員にその旨を話すと、鍵の紛失は25ドルの追加料金になるという。紛失ではなく、コンドミニアムに忘れたのだといっても取り合わない。結局、25ドルの追加料金を払って、それまでに10万ドル以上を使ったコンドミニアムに二度と来ることはなかったという話。

これと対照的な話としてノーを言わない百貨店ノードストロームのサービスの話が書いてある。子供のズボン1本を買って、明日の早朝、旅行に出発するというと、その晩のうちに届けてくれたというのだ。入社時に「現場の判断に任せる」という経営方針を渡されるというノードストロームのこの手の話は枚挙に暇がない。違う話を聞いても驚かない。これが「知覚品質」というものだろう。余談だが、僕は伊勢丹でほとんど同じような経験をしたことがある。伊勢丹も現場の判断に任せているデパートだと思う。

◆不文律という厄介な存在

あなたのプロジェクト環境はコンドミニアムとノードストロームのどちらだろうか?プロジェクトワークの基本は、「現場の判断を大切にする」ことである。プロジェクトというスタイル自体がそのような目的のためにあるといってよいだろう。しかし、一方で、プロジェクトが守らなくてはならない(と思っている)ルールが多くある。

この矛盾の原因は「不文律」にあることが多い。日本では特に「不文律」が多いとよく言われる。不文律とは書いてなくてもルールとして明記されなくても、ルールとして機能するものだ。例えば、調達先の選定をプロジェクト(と資材部門)に一任している組織は多い。しかし、そのような組織においても、不文律として、ラインマネジャーに相談する人は少なくない。不文律を守らないとどうなるのか?失敗したときに徹底的にたたかれる。「任せているとはいえ、なぜ、ひと言、相談しないんだ?最終的に責任を取るのはオレなんだ」とくる。この繰り返しによって、どんどん、不文律は強化されていく。

本来、権限委譲とは、上司の責任で行い、委譲した権限範囲について責任を取るのは上司である。これが権限委譲の意味であるが、妙な公平さを持ち込んで上のような論理を振り回す人が多いのも事実だ。

要するに、マネジャーの器の問題なのだが、この不文律というのが権限委譲の中では極めてやっかいな問題になっていることが多い。

組織に不文律があるためか、どうも、プロジェクトの行動や意思決定というのはルール待ちや指示待ちになることが多い。

◆プロジェクトマネジャーとして不文律と戦うことが期待される

上に述べたように組織はある程度不文律があることを前提にして権限委譲をしている部分がある。権限委譲した範囲であっても、失敗すれば責め立てる。このような不文律の強化を何とかしてやらないと、現場の判断を大切にするといってみても、マルナゲして、気に食わなければ、ひっくり返す。これでは埒が明かない。

どうすればよいのか?ここはプロジェクトマネジャーに期待されるところだ。ある意味で、もっとも期待されるのはこの部分かもしれない。ここでプロジェクトマネジャーがとりうる対応は2つある。一つは、上司のこのような態度を部下にところてん式に押し付けていくという対応。つまり、自分もプロジェクトメンバーに対して、君に任せたといいながら、失敗したら、自分の意見を聞かなかったからだと怒る。もう一つは、組織の不文律からの防波堤になることだ。

◆不文律とどう戦うか?

後者はそんなに簡単な話ではない。上からはそのような態度で来るし、場合によっては、プロジェクトの中に手を突っ込んで、プロジェクトマネジャーの頭越しに不文律を押し込んでくるのような上司もいるだろう。しかし、プロジェクトをうまくやるには、後者のような態度が望まれる。もちろん、上司が反省し、態度を改めてくれればその限りではないのだが、、、

実は、この構図にプロジェクトマネジメントとして唯一対抗する方法がチームビルディングである。組織の文化を変えるような振る舞いを一人でやるのはつらい。しかし、プロジェクトチームが一丸となってそのような振る舞いができれば、徐々に組織が変わってくる可能性がある。プロジェクトマネジャーはこの可能性を求めていくべきではないだろうか?

    (2007年7月26日 PM養成マガジンプロフェッショナルより抜粋)

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2007年7月20日 (金)

PMサプリ84:人とつながる力

リーダーというのは「人とつながる能力」のある人間である(ルノー会長兼CEOカルロス・ゴーン)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

【成分】

◆ゴーン流「リーダーになれる人」
◆人心掌握=人とつながる
◆プロジェクトマネジャーの努力
◆「話を聞こう」という気にさせるには?

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2007年7月17日 (火)

プロジェクトマネジメント導入の落とし穴

◆いくつ、当てはまるだろうか?

Ana ・プロジェクトマネジメントを導入すれば、プロジェクトマネジャーの行動が変わると思っている
・プロジェクトマネジメントを導入した後に、適応するようにプロジェクトマネジャーを教育している
・プロジェクトへのインセンティブ制度により、プロジェクトマネジャーやメンバーのモチベーションが高まると思っている
・事業部長がプロジェクトマネジメントにコミットしている姿勢をみせれば、プロジェクトマネジャーやメンバーはついてくると思ってる
・プロジェクトマネジメント制度の運用に対して、プロジェクトメンバーの抵抗に合う
・プロジェクトマネジメントルールの推進は問題が見つかったときにモグラ叩き的にやっている

こう書くと何かあるんと思うだろうが、ひとつひとつを見ていくと、そんなにおかしなことではない。

これらは、著者がこれまでプロジェクトマネジメントの導入の中で見てきた典型的な落とし穴である。このような考え方、やり方をしていると、いずれもうまく行かない。

◆当事がいない!?

プロジェクトマネジメントの導入においてもっとも問題なのは、「当事者意識を持った人」いないケースが多い人だ。

一応、PMOがプロジェクトマネジメント推進の掛け声をかけている。しかし、PMOがプロジェクトマネジメントの当事者意識を持っていることはあまり多くない。他人事というと語弊があるかもしれないが、やっぱり、やるのは自分たちではないという意識はあることが多い。プロジェクトマネジャーの負荷だとか、心情的な点は考える。しかし、逆にいえば、これこそ、当事者意識以外の何者でもない。負荷がかかってもうまく行くと思っていればその通りにやらせるだろう。

プロジェクトマネジャーに当事者意識があるかというと、そうでもないことが多い。プロジェクトマネジャーにしてみれば、ルールに従ってやればうまく行くという確信を持っていないことが多い。

◆「上がやれといっている、、、」

では、なぜ、やるのか?PMOとプロジェクトマネジャーの結節点にあるのが、プロジェクトスポンサーであったり、シニアマネジャー、組織によってはエグゼクティブマネジャーである。PMOは彼らがやれといっているからやってくださいという。テクニカルな部分、つまり、どのような手法を導入するか、あるいはどのようなメトリクスを設定するかという部分では、一定の責任を取らざるを得ないとは思っている。しかし、それを推進していることについては、自分たちが結果に対して責任をとろうなどとは微塵も思わない。

つまり、商品の品質の責任は自分たちにある。しかし、商品を使うのを決めたのは自分たちではないので、使った結果に対しての責任は取れない。こんなPL法も真っ青な恐ろしい話がまかり通っている。

プロジェクトマネジャーも自分たちがよいと思ってやっているわけではない。上がやれというからやっている。やり限り最善は尽くすが、責任は取れないとくる。

では、そこで結節点になっている人たちは責任を持つのか?ここで多くの人はコミットすらしようとしない。が、コミットをしていても、細かいことはわからない。現場に任せるとなる。つまり、責任は取らない。

◆定着化が先決

ただし、事業責任はあるので、プロジェクトが行き詰まってくると、介入する。ところが、その介入はプロジェクトマネジメントのような合理性がある方法ではなく、過去の経験に基づいた腕力にモノを言わせる方法であることが多い。これを何回かやっていると、プロジェクトマネジメントって本当に役に立つのかという疑念が湧いてくる。

それが、プロジェクトマネジャーにも伝播し、PMOが導入したものに対するサポタージュが正当化される。すると、PMOは何か手を打つ必要性に迫られ、定着もしていない手法の問題点をあげつらい、新しい取り組みを始める。

この悪循環があちこちの組織に渦巻いている。この悪循環を作り出しているのが冒頭に述べたような落とし穴である。

このような落とし穴に陥ることなく、定着化を図るのが、チェンジマネジメントである。定着化のためには、冒頭に述べたような落とし穴に陥ることなく、着実に、全員がコミットする普及活動を行っていかなくてはならない。

◆もう一つの課題

もう一つの課題がある。それは上に述べたような悪循環が起っている最大の理由であるプロジェクトスポンサーや組織マネジャーの関与の方法を変えることである。実は上のようなケースは、そもそも、彼らがプロジェクトマネジメントの効果を信用していない。

だんだん、わかってきたのではないかと思う。要するに、プロジェクトマネジメントが効果的かどうかというのは、自分たちの問題である。そして、いくらプロジェクトマネジャーが思っても、いくらPMOが思ってもそれだけではダメだ。組織の一人ひとりがそのように思って初めて効果が出るのだ。

この中で、特に組織のリーダーである人たちの役割は大きい。この人たちが「コミットする姿勢を見せるだけではく、支援する」ことによって初めて全体が動き出す。ここをよく押さえておく必要がある。

2007年7月16日 (月)

【補助線】プロジェクトが満たすべき前提条件

PMBOKの概念の中にプロジェクトの「前提条件」というのがある。たとえば、

・プロジェクト計画書に定義されてる通りにプロジェクト組織が構成される
・顧客はプロジェクトの遂行に協力する
・組織や顧客に関する課題解決はタイムリーに行われる

といったものだ。実はこれらは、誰もが疑おうとしないが、多くのプロジェクトで成立していない前提条件である。最近ではだいぶ知恵がついてきたので、これらをリスクとして扱うことが多い。前提条件の崩壊というのはそれこそ、プロジェクトを崩壊するリスクになりかねない。

多くの場合、前提条件というのはプロジェクトマネジャーは無関係なところで構成される話だ。従って、成り立つかどうかも、ある意味でプロジェクトマネジャーはコントロールできないことが多い。せいぜい、リスク要因としてあげて、監視しておくことが精一杯であるが、監視したところでコントロールできないのだから、どうにかなるものでもない。

では、かくも重要なプロジェクトの前提条件に対してもっとも影響を与える人は誰か。上の例を見てもらうとわかると思うが、上位管理者、顧客、および、ステークホルダである。

さて、逆の視点でみてみよう。プロジェクトをうまく進めるためには、「常識的に考えて必要な前提条件」というのがある。例えば、「プロジェクト要員は必要に応じて確保できる」という前提条件がある。これもなかなか、成立が難しい前提条件の一つだが、このような前提条件が崩れてしまうと、PMBOKというプロジェクトマネジメントの手法そのものの有効性が崩れてしまう。

そんなことはない。リスクとして考えておくべきだという意見もあるだろう。確かに、「十分なスキルを持った要員が必要に応じて確保できる」ということを前提条件にするのであればそれは前提条件が成立しないことをリスクとして考えておくべきだ。しかし、上の例は、前提条件の不成立を受け入れるということはプロジェクトマネジメントをしないということに他ならない。

言い換えると、目標を設定し、目標を達成するためのマネジメントが機能するためには一定の条件がある。実は、一番の前提条件は、「目標が達成可能である」ということなのだ。ここすら前提条件になっていないプロジェクトがときどきある。この議論を見積もりの議論だと思うと間違いだ。背景にある程度の見積もりがあることは間違いないが、見積もりというのは所詮「過去の実績に基づく推定」に過ぎない。従って、目標が達成できるかどうかと、見積もり上のつじつまがあうかどうかはそんなに一致しているものではない。「一致しないのでプロジェクトだ」という言い方もできる。むしろ、重要なのは、できそうだという点について主要ステークホルダの合意があることだ。これが「目標が達成可能」という状態の他ならない。

そのような意味で目標を捉えたときに、「目標が達成可能である」は不可欠の前提条件である。

これ以外の前提条件は、むしろ、不成立があったときにカバーすべき条件だといえなくもないが、ただ、プロジェクトマネジメントではやはり、前提にしているものがある。例えば、
 「計画書は実行されるようにメンバーも含むすべてのステークホルダが努力する」
 「計画通りに実行されればプロジェクトは企業に利益をもたらす」
といった前提条件がある。これが成り立たなければ、PMBOK流のプロジェクトマネジメントなど成り立たない。こういうのがマネジメントが機能するための一定の条件であり、マネジメントが機能しないというのはリスク以前の問題だ。

そのように考えると、このような前提条件のかなりの当事者は「プロジェクトスポンサー」や「組織の上位管理者」である。交渉責任や指導責任までを入れると、ほぼ、すべてについて責任を持つべきなのはこの2者になるだろう。例えば、SIの受注プロジェクトで当初から顧客に全く協力の意志がないとすればこれはプロジェクトマネジャーの責任とはいえない。受注をしてきた組織の上位管理者の責任である。

このようにマネジメント上、不可欠だと思われる前提条件をクリアするのがプロジェクト環境創りである。ここをしっかりとやっていくようなプロジェクト支援体制を作ることが急務である。

2007年7月13日 (金)

PMサプリ83:成果より、成果意識を求める

「単に成果を求めるのではなく、成果意識を高める仕組みを作る」(ピープルファク
ター・コンサルティング代表 高橋俊介)

【効用】
・PM体質改善
  リーダーシップ発揮、問題解決能力向上
・PM力向上
  ピープルマネジメント力向上、チームをまとめる力の向上
・トラブル緩和
  モチベーション向上、チームの士気向上

◆人が育つ会社

ヒューマンリソースマネジメントの大家・高橋俊介氏が「人が育つ会社をつくる」で述べているフレーズ。この本は、キャリア創造を基本テーマとしているので、コーチング的な手法がベースになっており、高橋氏の提案する仕組みも

(1)チャレンジングな仕事が日常的に与えられる環境を作る
(2)コーチング的マネジメントスタイルがとられている
(3)健全な成果プレッシャーが与えられる

といったものになっている。また、このような仕組みをチームに埋め込んでいくべくだと述べられている。

◆PMは浸透してきたが、成果意識が下がってきた!?

今回、高橋氏のこの言葉を取り上げたのはきっかけがある。先日、某SI企業のK事業部長から、

プロジェクトマネジメントに全社で取り組みだしてから5年が経ち、自分の事業部でも制度としては定着してきたように思う。失敗や無駄が少なくなったという意味では生産性も上がっていると思うし、メトリクスを見てもこれは証明されている。ただ、エンジニアの成果意識が下がってきたように思う、あくまでも感覚的なものだが、、、

という相談を受けたのだ。K部長さんはどういう意味で「成果意識」という言葉を使っているのだろうと思い、聞いてみた。すると、どうも、成果に対する内発的動機のような意味だとわかった。

◆成果を管理する仕組み

この会社には以下のような仕組みがあるという。

・プロジェクト目標は失敗しないようなものになっている。昔のように、プロマネやメンバーから文句が出るような納期というのがいまはまずない。

・計画書はPMOが中心になって徹底的にレビューする。レビューに合格しないとプロジェクトには執行予算がつかない。決済もできない。計画レビューが3回以上になったものは、「監察」プロジェクトに指定される。

・通常月に1回レビューがある。2ヶ月続いてスケジュール遅れがあると、「監察」プロジェクトになる。

・「監察」プロジェクトは2週間に一度のレビューがある

・バリアンスの許容値を超えると、「入院」プロジェクトになる。「入院」プロジェクトになると、プロジェクトマネジャーは上位管理者の配下に入り、指示を受けながら進めていく。

・進捗はPMツールで毎日入力され、集計され、次の日には結果を見ることができる

あるコンサル会社のコンサルを受けながらこの仕組みを作っていったらしいが、統制としてはかなりよくできたシステムである。

話を聞いているうちに、高橋氏の言葉を思い出した。この会社の仕組みをみていると、高橋さんの3つの仕組みのいずれも逆をやっている。

◆成果意識を高める仕組みがない

つまり、成果を管理する仕組みはばっちりあるのだが、成果意識を高める仕組みというのが全くといってよいくらいない。成果を高める仕組みと、成果意識を高める仕組みというのは、外発的動機付けと、内発的動機づけである。一般に、両者は適度なバランスが保たれているときに動機がもっとも大きくなるといわれている。

中でも難しいのが、高橋氏の提案の3番目のプレッシャーである。適度なプレッシャーは内発的な動機を呼び起こすが、度を超えると外発的な動機にしかならない。それで、高橋氏の話をしたところ、今の問題が腑に落ちたそうだ。

◆成果意識を高める仕組みのポイントは管理と自律のバランス

どうすればよいと思うかと聞かれた。仕事というより友人と食事をしながらという立場だったので、「プロジェクトを形容している言葉を変えてはどうですか」などといい加減なことを行って分かれたが、実はこの問題は難しい。この仕組みを可能にしているのはPMツールである。PMツールが入っていなければ、プロジェクトマネジャーのレベルで、プロジェクトの重要性やメンバーの顔を見ながら柔軟に運用すればよいと思うが、そういうわけにも行かない。PMツールが入っている中で下手にやるとガバナンスそのものを壊してしまう危険性もある。

PMOスタッフの問題がなければ、計画レビューでリスク識別を徹底し、多少、無理をした計画を推奨する。レビューの性格をコーチング的なものに変えるといったことで問題は緩和されると思うが、この手の管理をきちんとしているスタッフのやり方を変えるのは意外と難問である。K部長の話を聞くと、既に、組織全体よりも自分自身の所属する利益が優先されて全体の利益につながらないとか,組織の力と自分の力を混同し,外部に対して威圧的な行動をとるとか,規則の客観的な適用が重視され,人間的な配慮が足りないといった逆機能が起っているように思える。

そのように考えると、一度、制度を潰すしかないのかもしれない。制度の問題だけではなく、プロジェクトマネジメントを行う際には、この内発的動機と外発的動機、言い換えると、成果意識と成果のバランスを取っていくように配慮することの必要性を教えられる話しだ。

    (2007年7月12日 PM養成マガジンプロフェッショナルより抜粋)

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2007年7月11日 (水)

【補助線】管理者は失敗から学び、マネジャーは成功から学ぶ。

拓真さん(29歳)から戦略ノート55回にメッセージを戴いた。以下に、引用させていただく。

===
先日、とあるセミナーを聴講した際、講師の方がこんなことを言っておりました。
「失敗から学ぶようでは二流。一流は成功から学ぶ」と。
===

※ 戦略ノート55回「失敗は繰り返す」
    http://www.pmos.jp/honpo/note/note55.htm

この違いだと思う。拓真さんが話を聞かれた講師さんの言われていることに賛成である。失敗から学んでいる限り、一流にはなれないと思う。失敗をしなくなるだけだ。それだけでは一流とはいえない。

僕は、10のプロジェクトを全部失敗しないでできる(期待どおりにできる)プロジェクトマネジャーは、高く評価すべきだと思うが、一流だとは思わない。このような人は、たぶん、永久に期待を上回る成果を結果を残すことはないだろう。失敗しない方法は知っていても、成功する方法はしらないからだ。

10のうち、9つ失敗してもいいので、ひとつだけでも、意図して期待をはるかに上回る結果を出せる人こそ、一流だと思う。成功する方法を知っているからだ。組織は必ずしも成功を求めていないので、評価はされないだろうが、、、

ただし、ひとつ、付け加えたい。自身の失敗から学ばないのは三流以下だ。

さて、メルマガで、管理とマネジメントの違いという議論をずいぶんしてきた。最近、しなくなったのは、僕なりに結論にたどり着いたと思ったからだ。

  管理は失敗から学ぶ。マネジメントは成功から学ぶ。

2007年7月 9日 (月)

【補助線】定着化サイクルの作り方

◆定着化サイクル

前回、プロジェクトマネジメントの普及においてマーケティングの発想が重要だと述べた。今回は、もう少し、話を進めて、どのようなマーケティング活動を行い、定着化サイクルを構築していくかを考えてみたい。

Cicle PMOによる定着化のサイクルはどこでもやっているように

 通知 → 教育 → 奨励

という3つのステップが基本になる。程度の差はあっても、これはどこの組織でもやっていることだろう。おそらく多くの方は、サイクルを見て、

 標準やツールの開発 → 通知 → 教育 → 奨励

という流れを思い浮かべられたのではないかと思う。

◆プロダクトアウトでは標準は定着化しない

前回も述べたが、手法や標準の展開をする際に、まず、作って、それを組織内のプロジェクトやあるいは機能組織に知らせていくというやり方はあまり適切とはいえない。製品でいえばプロダクトアウトというやり方である。これでは関心が高まらないばかりか、「また、勝手にやることを増やした」などということで反感を買うのが関の山である。

通知や教育は標準を開発する中で展開していく。つまり、

 通知 → 教育 → 奨励
 ↑    ↑↓
 標準やツールの開発

という進め方をしていくことが必要である。これはマーケットインの発想である。

◆タウンミーティングで通知と教育を行う

もっとも重要なのは通知を行うタイミングと内容である。これは、開発をすることを決めた段階で第一報を行うことが望ましい。この段階で、なぜ、その開発アクティビティを行うのか、それがどのようにメリットをもたらすのかといったことを明確にしておく。

と同時に、その段階から教育を行う。ここにもうひとつのポイントがある。ここでいう教育は標準の使い方そのものではない。この段階では、その標準が入ったときにプロジェクトマネジメントがどのように変わって行くかを教えるような教育である。従って、長時間をかける必要はない。1時間でもいいので、プロジェクトマネジャーに集まってもらい、背景説明を行い、また、方向性について意見を求める。このためには「タウンミーティング」を開催するとよい。

日本では、タウンミーティングというと小泉内閣のときに開始されたが、やらせ問題や不適切な経費使用であまりよいイメージがないが、タウンミーティングは米国のニューイングランド地方で実施されている

各州によって形態は異なるが、概ね「町」単位で1年に1度開催され、住民の参加により予算、法律、その他自治体に関わる今後1年間の事項を採決する(Wikipedia)

という地方自治体の意思決定方式である。

◆自己決定の形を作ることがポイント

つまり、プロジェクトマネジメントに関する標準を策定することは組織ガバナンス上はPMOの仕事であるが、その定着や効果を考えた場合には、特にプロジェクトマネジャーの「自己決定」の形を作ることが極めて大切である。

従って、もし社内にコミュニティがあればコミュニティを徹底的に利用することが重要であるし、なければタウンミーティングのような場を作る。これにより、通知と教育を行うと同時に、パイロット実施も含めて標準の評価をして、洗練させていく。このサイクルをまわしていかない限り、いくらツールを準備しても、いくらレギュレーション化をしても、その標準が有効に機能するCicle1 ことはないだろう。

◆マーケットアウトを目指して

このような仕組みが定着してくれば、継続的改善の仕組み作りの可能性も見えてくる。継続的改善の仕組みを作るためのポイントはマーケットアウトの発想にある。これは次回。

◆マーケティング用語の説明
プロダクトアウト:自分たちが持っている技術などでできる商品をつくり、市場に出す
マーケットイン:市場の声を聞いて商品にして市場に出す
マーケットアウト:自分たちが顧客の立場で一般顧客が想像しない商品を考え、市場に出す

【補助線】祇園・「置屋」のマネジメントに学ぶ

◆はじめに

2年くらい前に、ある講演でしゃべって、後日、主催者に電話で抗議をしてきた聴講者が出てきたので、封印している話がある。

 置屋発想で、プロジェクトマネジメントはうまく行く

という話。このメルマガの発刊を機に、封印を説きたい。

◆置屋とは何か

置屋というのは祇園にいけば普通に使っている言葉だが、一般にはなじみがないかもしれないので、ちょっと説明しておく。

置屋とは芸者が生活する場所である。置屋は部屋と食事を提供する「おかみ」と呼ばれる女主人によって仕切られている。芸者は15歳くらいでこの世界に入ってくると、まずは置屋に身を置き、そこで生活をしながら、芸や座敷でマナーを身に付けていく。置屋に入り、1年くらいたつと、舞妓になる。舞妓になると、先輩である芸子(芸妓)と一緒にお茶屋に呼ばれてお座敷に出て、お座敷での振る舞いを覚えると同時に、お客さんに顔を覚えてもらう。そして、5年もすれば芸子になっていく。

この過程で、舞妓時代の生活費、稽古代などを一切合財面倒を見るとともに、芸子になった後のマネジメントをするのがおかみである。特に芸子になったあとは、おかみは芸子の付加価値を高めることに全力を尽くすそうである。お客を選ぶ、お客や御茶屋との間にトラブルが発生すれば仲裁すると同時に、芸者としてのあり方を指導し続けていくらしい。

芸子全員というわけではないが、芸子の中には、いずれは自身の置屋を持って生きてこの世界で生きていく人もいる。つまり、次世代のおかみの育成に全力を尽くすそうだ。もちろん、そのことが自身の利益を最大化する方法に他ならない。

◆日本型経営は置屋経営である

日本組織では、従来、置屋のような経営が行われてきた。それが人を育て、また、事業や企業の成長、利益をもたらしてきた。高度成長期という構造的な成長時期が終わった際にこの経営の弊害が強調され、否定してきた。しかし、冷静に考えてみれば、単なる疲労制度であって、それが経営環境の変化と同時にやってきたのではないか?ここをもう一度、考え直してみる必要がある。

そのような思いが強くなってきたのは、米国式の経営の中で、スポンサーシップがだんだん重視されるようになってきたからだ。リーダーシップからスポンサーシップに重心が移ってきているといっている人も少なくない。日本企業ではリーダーシップの不足が叫ばれ、この10年くらい急速に関心が高まってきたが、置屋を見ればわかるように、日本の社会はリーダー社会ではなく、スポンサー社会である。リーダーシップよりスポンサーシップを重視してきた社会だ。今後、欧米型の経営もこちらに進んでいくのではないかと思われる。

置屋システムを

  芸者=プロジェクトマネジャー
  おかみ=プロジェクトスポンサー

と考えてみると、まさに、これからのプロジェクトマネジメントの考え方そのものだ。

◆置屋システムは専門力を高めるシステム

こういうスポンサーシップを中心にしたやり方は生ぬるいと思う人もいるかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。プレジデント社の「ビジネススクール流知的武装講座」の中に、神戸大学の加護野忠男教授の「京都・祇園に学ぶアンバンドリングという手法」という記事がある。これによると、多くの花街が衰退していく中で、祇園が残っているのは2つの秘密があるという。

ひとつは加護野先生がアンバンドリングと呼ぶコンセプトで、接客のサービスを徹底的に分解(アンバンドリング)し、アウトソーシングしている。京都は大阪や東京とは違って、御茶屋と置屋を分離している。一緒にすると一流の料亭に所属している芸子は芸を磨かなくても客が来るので、芸を磨かなくなる。ところが分離されていると、御茶屋(料亭)から声をかけてもらうために芸子でいるうちはずっと芸を磨くというのだ。

そして、もうひとつの秘密が、教育、特に基礎教育の充実だという。教育の中心におり、継続的に芸を磨くための支援をするのがやはりおかみである。舞やお囃子、お茶などのお稽古に行って夜はお座敷を務める忙しく動き回る芸子や舞妓の時間管理や雑務の代行などをしているのだ。

米国型の経営を見ていると、勝つまでは努力するが、勝ってしまえば果実の摘み取りにかかる。これも製品開発競争など全うな手段で行われている分にはよいが、M&Aでどんどんやっていると顧客には全く利益がない。ゆえにいつかは見捨てられる。この典型が自動車業界だろう。これに較べるとスポンサーシップを基盤として、常に顧客の方を向いている日本型経営はより進んだ経営だといえよう。

◆芸者遊びでベンチマーキングしてみよう!

このほかにも置屋にはプロジェクトマネジメントの成熟のために学ぶべきマネジメントがたくさんある。

例えば、置屋にはメンタリング制度があることだ。舞妓にはめいめい、修業中に手助けをしてくれる「姉さん」がついている。こうして芸者としての伝統的な知識は受け継がれていくのである。これも置屋という母娘、姉妹といった家族制度を基礎とした関係でもって成り立つ組織ならではのことだといえる。プロジェクトマネジャーはこのように育てたいものだ。

もうひとつ、置屋には面白い要素がある。幇間(「たいこ」)もやはり、置屋で属している。幇間は宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌を取り、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる専門職。これをPMOだといったら怒られるだろうか?
興味があれば、ぜひ、一度、祇園で遊んでみましょう。ちなみに、京都のしきたりで有名な「一見さんお断り」というのは、御茶屋の文化です。紹介者が必要です。

【補助線】タレント獲得競争

プロジェクトマネジャーで、組織、あるいはリソースマネジャーからの要員の供給に不満を持っていない人は珍しいだろう。プロジェクトマネジャーにインタビューすれば、大抵はここに不満を持っている。

しかし、突き詰めて考えれば、チームマネジメントのスタートは要員の獲得から始まるのだ。どれだけいい人材が取れるかはどう考えても競争だろう。

組織から供給されるメンバーは制約条件である。というのは、どう考えてもおかしい。制約条件であってはならない。他のプロジェクトに負けないように、必要な人材を奪いとってくる。これが普通の感覚ではないかと思う。

ただ、この人材獲得競争にはとてつもないエネルギーが必要だ。だから、人材は与えられるものだと考えたくなっているのではないか。こんな覚悟でプロジェクトをやっても、成功するとは思えない。

覚悟をし、まずは人材獲得競争に勝つ。これはプロジェクトマネジャーの真っ先にすべきことである。

「そんなことをしたら他のプロジェクトが困るんじゃないか」と思う人もいるだろう。それはあなたの考えることではない。組織の中でそのような発想をするのはある意味で偽善である。あなたの考えるべきことは、自分のプロジェクトを成功させることである。

そのためには、他のプロジェクトは頓挫してもよいので、自分のプロジェクトに必要な人材を獲ってくることだ。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。