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2007年4月 2日 (月)

【補助線】「隠す」というスタイル

PMAJの「プロジェクトマネジャーの成功要因」SIG活動に参加していてあるメンバーから非常に考えさせらる話を聞いた。

 うまくやるために情報を隠す

と主張するプロマネの話である。このプロマネは計画に細かいことを書かない。当然、PMOによる計画書レビューでは指摘されることになる。そのときに、プロマネの言い分がこれだというのだ。

本来なら、この話は即座に否定すべきであろう。プロジェクトマネジメントはアカウンタビリティとレスポンシビリティに立脚するものだからだ。しかし、必ずしも否定できない理由が2つあるように思う。

一つ目は、「計画を作って組織全体でちゃんとプロジェクトマネジメントをしましょうね」という話は、理想像であって、エグゼクティブスポンサー、プロジェクトスポンサー、プロジェクトメンバー、PMOなどがきちんと対応できるという前提の話である。

残念なことだが、プロジェクトマネジャーの中には、スポンサーやPMOとあまり詳細に情報共有をすると、検討はずれな介入をされて邪魔だと考える人がいてもおかしくないという組織の現実がある。もちろん、情報共有すれば支援をしてもらえる部分もあるので、最後はそろばん勘定ではあるが、「組織での情報共有がプロジェクトを円滑に進める」という命題が無条件に成り立つような状況ではない組織がほとんどだろう。

この話はあまり本質的ではない。組織のプロジェクトマネジメント成熟度が高まってくればいずれは解消する話だ。だが、もうひとつの話はもっと本質的な話である。それは、ステークホルダマネジメントとして、計画をあまりちゃんと作らない方がよいという議論である。この議論が顕著に出てくるのはCCPM(TOCの考え方に基づくプロジェクトマネジメント)でポイントになっているサバである。

このサバの話もCCPMのように、プロジェクト、あるいはプログラムで共有し、全体最適になるように使えばよいというほど単純な議論ではないだろう。ステークホルダがいるということは、目標、あるいは、成功の認識が異なる可能性がある。言い換えれば、価値観が異なる可能性がある、ある意味で価値観が異なることが正常な状態であるともいえる。
その中で、落とし処を探して、そこにもっていくことがプロジェクトマネジメントのミッションであるが、そのためには何が必要か?「期待に沿う」ことである。

期待に沿うということは、自分たちがどう感じるかということではないし、ましてや、品質に対する誤解のように絶対的に正しいということではない。

重要なことは、プロジェクトの進行の中で、その期待を作りこんでいけるということなのだ。これに失敗すると、初期の約束ではダメということになるし、うまくいえば、ずいぶんと軽いものになるだろう。このようなことは現実に起っている。

そう考えると、初期に明確な計画を示さない、言い換えるとコミットメントをしないというやり方はステークホルダマネジメントのひとつのやり方であるといえなくはない。

これが言いか悪いかは、プロジェクトマネジメントの議論ではない。PMBOK流のプロジェクトマネジメントは、米国流の株主に対するアカウンタビリティが高く、統制上、レスポンシビリティが高い経営スタイルを前提にしている。ここが崩れてしまえば、PMBOK流プロジェクトマネジメントの妥当性はない。

しかし、企業の株主(ステークホルダ)に対する責任としてはアカウンタビリティとともに業績責任がある。実際にイギリスやフランス、ドイツの企業には、アカウンタビリティよりも、業績責任を重視する企業も少なくない(これは、米国と欧州先進国のダイバーシティの違いだと思われる)。

業績責任を重視するなら、最小限の情報しか経営に出さないプロジェクトマネジメントというのもアリだろう。

非常に深い問題である。

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コメント

「CCPM(TOCの考え方に基づくプロジェクトマネジメント)でポイントになっているサバ」と本文中にありますが、「サバ」とは何を指しているのでしょうか。

コメントありがとうございます。

いろいろなプロジェクトリソースの冗長分です。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。