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2006年5月

2006年5月29日 (月)

PMOスタッフのスキルとキャリア

◆PMにはPMOリーダーはできない

このコラムは、2006年5月25日に実施した「事例にみるプロジェクトマネジメントオフィスの役割と機能」のセミナーを受講された方から興味深い質問に答えたものだ。

質問はいろいろな要素があり、質問を戴いた方には別途私信を差し上げた。ここでは質問の中で、もっとも本質だと思った質問について、読者の皆さんと問題意識の共有、あるいは、意見交換をできればと思っている。その質問とは

当社では、PMOリーダーやPMOスタッフは、プロジェクトマネジャーをできる人ならできると考えているが、その考えは正しいと思うか?

という質問である。

結論から書こう。できない。

Leader1 最近、PMOへの関心が高まり、コンサルティングの中でもよくこの質問が出るようになってきた。そのように思う理由はよく分かるし、また、逆に、PMOスタッフはプロジェクトマネジャーの経験者でないと聞かれると(ここは考え方に温度差があると思うが)、そうだといいたい。しかし、プロジェクトマネジャーの経験だけで、PMOスタッフをやるというのは、「PMO=トラブル時の対応要員」という発想に近い。

◆メンターに対する誤解

同じことはメンターにも言える。(少なくともメンターを本来的意味で捉えるなら)プロジェクトマネジャーとして優秀な人をPMメンターとしておけば大丈夫だろうという発想は正しくない。これはメンターというと分かりにくいが、優秀なエンジニアが必ずしも人を育てたり、うまくアドバイスしたりすることができるとは限らないことを考えると当たり前である。アドバイスしたり、仕事の中で人を育てる部分のスキルが「メンタリング」としての成果に直結することは言うまでもない。

◆ラグビーに例えると

PMOリーダーやスタッフの場合も同じ構図だ。上で「PMO要員=トラブル時の対応要員」だと書いたが、逆にこのケースがもっともよく分かる。ラグビーをご存知の人はよく分かると思うが、スクラムハーフというポジションがある。スクラムからボールを取り出し、バックスに展開する起点になるポジションだ。ボールの奪い合いをするときに、スクラムハーフがフォワード陣のモールやラック(ボールをめぐる密集・奪い合い)に巻き込まれたら、そのチームは機能しなくなる。スクラムハーフは密集になるとすぐにボールを渡し、密集の外に出ておく必要がある。

トラブルのときにPMOというのはスクラムハーフのような役割をしている。フォワードをまとめていくナンバー8がプロジェクトマネジャー。フォワード全体はプロジェクトチームである。バックスはそのトラブルを解決するためのソリューションを持っている専門的なスタッフである。スクラムハーフが自らが密集に巻き込まれたら、フォワードの選択肢は狭まる。自らがボールを持って前進していくしかなくなるからだ。つまり、トラブルに対応するためには、PMOリーダーにはプロジェクトマネジャーとは別の役割が求められるし、そのためには「リカバリーマネジメント」のスキルが必要だ。

◆PMOスタッフの専門性

トラブル以外の局面でも同じである。PMOの仕事の中で極めて専門性が高いものは

 ・標準化(展開)
 ・プロセス設計
 ・メトリクス設計
 ・ツール(テンプレート類)設計
 ・監査技術
 ・トレーニング設計
 ・ポートフォリオ

などであるが、PMOのスタッフはプロジェクトマネジメントのスキルとともに、これらの専門性を持つ必要がある(もちろん、PMO組織としての担当が決まっているので、すべて必要ではないかもしれないが)。

◆マーケティングスキルがないとPMOは務まらない

さらに、重要なことは、PMOの仕事の中で、マーケティングの仕事が非常に重要性があることである。日本の企業でPMOがマーケティング的アプローチで、標準を決定したり、提供サービスを決めている例を見たことがないが、米国ではPMO自体のアウトソーシングサービスが発展しており、常識になっている。また、日本の企業においても、総務などではすでにそのようなアプローチをしている企業がある。そのようなセンスをもった人材を育成することも求められるだろう。

逆にこのような専門性を持たないPMOスタッフがプロジェクトを支援するのであれば、プロジェクトマネジメントチームの1メンバーの役割しか果たせない。もちろん、それでもよいという考え方もあるが、PMOがない組織のプロジェクトマネジメント力は低くなる。

◆何よりも重要なリーダーシップ

加えて、PMOリーダーにはプロジェクトマネジャーとは少し異なるリーダーシップが必要である。PMOリーダーのリーダーシップはプロジェクトを引っ張るリーダーシップではなく、組織に対して、自らの提供する標準プロセス、手法、ツール、サービスなどを活用させるための影響を与えるリーダーシップである。日本企業のPMOに何が最もかけているかといわれれば、やはりリーダーシップだと思う。

同時に、リーダーシップを発揮する手段として、ファシリテーションのスキルも必要になる。

PMOリーダー(スタッフ)はこのように広範なスキルを備える必要がある。

次の問題は、では、どのように育てていくかというキャリア形成の問題だが、長くなったので、別記事にする。

PMOスタッフのスキルとキャリア(1)

◆PMにはPMOリーダーはできない

このコラムは、5月25日に実施した「事例にみるプロジェクトマネジメントオフィスの役割と機能」のセミナーを受講された方から興味深い質問に答えるもの。

質問はいろいろな要素があり、質問を戴いた方には別途私信を差し上げた。ここでは質問の中で、もっとも本質だと思った質問について、読者の皆さんと問題意識の共有、あるいは、意見交換をできればと思っている。その質問とは

当社では、PMOリーダーやPMOスタッフは、プロジェクトマネジャーをできる人ならできると考えているが、その考えは正しいと思うか?

という質問である。

結論から書こう。

できない。

最近、PMOへの関心が高まり、コンサルティングの中でもよくこの質問が出るようになってきた。そのように思う理由はよく分かるし、また、逆に、PMOスタッフはプロジェクトマネジャーの経験者でないと聞かれると(ここは考え方に温度差があると思うが)、そうだといいたい。しかし、プロジェクトマネジャーの経験だけで、PMOスタッフをやるというのは、「PMO=トラブル時の対応要員」という発想に近い。

◆メンターに対する誤解

同じことはメンターにも言える。(少なくともメンターを本来的意味で捉えるなら)プロジェクトマネジャーとして優秀な人をPMメンターとしておけば大丈夫だろうという発想は正しくない。これはメンターというと分かりにくいが、優秀なエンジニアが必ずしも人を育てたり、うまくアドバイスしたりすることができるとは限らないことを考えると当たり前である。アドバイスしたり、仕事の中で人を育てる部分のスキルが「メンタリング」としての成果に直結することは言うまでもない。

◆ラグビーに例えると

PMOリーダーやスタッフの場合も同じ構図だ。上で「PMO要員=トラブル時の対応要員」だと書いたが、逆にこのケースがもっともよく分かる。ラグビーをご存知の人はよく分かると思うが、スクラムハーフというポジションがある。スクラムからボールを取り出し、バックスに展開する起点になるポジションだ。ボールの奪い合いをするときに、スクラムハーフがフォワード陣のモールやラック(ボールをめぐる密集・奪い合い)に巻き込まれたら、そのチームは機能しなくなる。スクラムハーフは密集になるとすぐにボールを渡し、密集の外に出ておく必要がある。

トラブルのときにPMOというのはスクラムハーフのような役割をしている。フォワードをまとめていくナンバー8がプロジェクトマネジャー。フォワード全体はプロジェクトチームである。バックスはそのトラブルを解決するためのソリューションを持っている専門的なスタッフである。スクラムハーフが自らが密集に巻き込まれたら、フォワードの選択肢は狭まる。自らがボールを持って前進していくしかなくなるからだ。つまり、トラブルに対応するためには、PMOリーダーにはプロジェクトマネジャーとは別の役割が求められるし、そのためには「リカバリーマネジメント」のスキルが必要だ。

◆PMOスタッフの専門性

トラブル以外の局面でも同じである。PMOの仕事の中で極めて専門性が高いものは

 ・標準化(展開)
 ・プロセス設計
 ・メトリクス設計
 ・ツール(テンプレート類)設計
 ・監査技術
 ・トレーニング設計
 ・ポートフォリオ

などであるが、PMOのスタッフはプロジェクトマネジメントのスキルとともに、これらの専門性を持つ必要がある(もちろん、担当が決まっているので、すべて必要ではないかもしれないが)。

◆マーケティングスキルがないとPMOは務まらない

さらに、重要なことは、PMOの仕事の中で、マーケティングの仕事が非常に重要性があることである。日本の企業でPMOがマーケティング的アプローチで、標準を決定したり、提供サービスを決めている例を見たことがないが、米国ではPMO自体のアウトソーシングサービスが発展しており、常識になっている。また、日本の企業においても、総務などではすでにそのようなアプローチをしている企業がある。そのようなセンスをもった人材を育成することも求められるだろう。

逆にこのような専門性を持たないPMOスタッフがプロジェクトを支援するのであれば、プロジェクトマネジメントチームの1メンバーの役割しか果たせない。もちろん、それでもよいという考え方もあるが、PMOがない組織のプロジェクトマネジメント力は低くなる。

◆何よりも重要なリーダーシップ

加えて、PMOリーダーにはプロジェクトマネジャーとは少し異なるリーダーシップが必要である。PMOリーダーのリーダーシップはプロジェクトを引っ張るリーダーシップではなく、組織に対して、自らの提供する標準プロセス、手法、ツール、サービスなどを活用させるための影響を与えるリーダーシップである。日本企業のPMOに何が最もかけているかといわれれば、やはりリーダーシップだと思う。

同時に、リーダーシップを発揮する手段として、ファシリテーションのスキルも必要になる。

PMOリーダー(スタッフ)はこのように広範なスキルを備える必要がある。

次の問題は、では、どのように育てていくかというキャリア形成の問題だが、長くなったので、 別記事で。

2006年5月22日 (月)

PMOの本質

◆PMOハンドブック

PMCoE戦略ノートも9回になった。今週は一休みで、PMOコラム。

PMOについては、米国では

Gerard M. Hill「The Complete Project Management Office Handbook」
https://mat.lekumo.biz/books/2005/06/the_complete_pr.html

という本が出版されている。

この本、2003年の後半に出版された本であるが、なんと624ページもある大作である。PMOに関する議論が始まったのは1970年台であるので、PMOに関するほぼ30年間の集大成がこの本にまとめられているというわけである。

Pmo1 もちろん、弊社がプロジェクトマネジメントオフィスの機能体系をまとめる際にもこの本は参考にさせて戴いている。

◆PMの系譜

プロジェクトマネジメントには、おそらく3つくらいの発展の系譜がある。

一つはエンジニアリングからの流れである。これは、品質管理などの分野からの発展である。二つ目はオペレーションマネジメントからの発展の流れがある。これは生産管理などからの発展である。この2つは一般的に認識されているが、意外と認識されていないもう一つの系譜があるのではないかと思う。それは(組織)マネジメントからの発展である。成果物が複雑になればなるほど、エンジニアリング的な扱い方が難しくなり、マネジアルアプローチの方が有効になってくる。

これらは視点の違いであり、どの道から上ろうと頂上は同じであるといいたいところであるが、そうはいえない部分がある。価値観の違いはずっと残るように感じている。そこで、どの立場をとるかという話になるのだが、著者はマネジアルアプローチがもっとも効果的だと思っている。そして、マネジアルアプローチからはPMOの強化というのがまず考えられる。

◆PMBOKよりPMO

その意味で、著者はプロジェクトマネジメントを強化したいのであれば、PMBOKのようなプロセスの導入ではなく、まず、PMOを強化すべきだと思っている。その意味で、このハンドブックは非常に貴重な本だと思う。

ただ、このハンドブックは機能について述べたものであるが、これだけでPMOが語れるかという議論がありそうだ。プロジェクトマネジメントでも、知識と行動のギャップというのがあるように、PMOの活動にも知識と行動のギャップがある。

◆PMOの本質

このギャップを埋めるものは

 リーダーシップと支援スキル

であると思われる。これが、PMOの本質ではないかと思う。このような本質を持って、初めて標準化の活動や、監査活動が意味を持ってくる。

PMOのリーダーシップは、プロジェクトマネジメントに対するルールや価値観を組織に導入し、それを学習し、組織における「基本的仮定」になるように昇華させていく源泉になるものである。

もう一つは支援スキルである。組織にプロジェクトマネジメントを定着させ、それを発展させていくためには、必ず、支援が必要になる。支援は指導ではない。

指導はプロジェクトマネジャーやプロジェクトチームの意思決定そのものに対して介入し、その意思決定を正していく行動である。

Juggle3_2   これに対して支援は、プロジェクトマネジャー、あるいはプロジェクトチームのプロセスに介入し、プロセスを正しい方向に導くことによってプロジェクトマネジメントやプロジェクトをよい方向に導いていくのが支援である。プロセスコンサルテーション、あるいは、今流にいえば、ファシリテーションのスキルである。

この2つの要素を兼ね備えないとPMOはプロジェクトからあまり意識されないお目付け役になる。あるいは上位組織の傀儡のような存在になってしまう。それではその組織のプロジェクトマネジメントは進歩しないだろう。

PMOの本質

◆PMOハンドブック

PMOについては、米国では

Gerard M. Hill「The Complete Project Management Office Handbook」
https://mat.lekumo.biz/books/2005/06/the_complete_pr.html

という本が出版されている。この本、2003年の後半に出版された本であるが、なんと624ページもある大作である。PMOに関する議論が始まったのは1970年台であるので、PMOに関するほぼ30年間の集大成がこの本にまとめられているというわけである。弊社がプロジェクトマネジメントオフィスの機能体系をまとめる際にもこの本は参考にさせて戴いている。

◆PMの系譜

プロジェクトマネジメントには、おそらく3つくらいの発展の系譜がある。

一つはエンジニアリングからの流れである。これは、品質管理などの分野からの発展である。二つ目はオペレーションマネジメントからの発展の流れがある。これは生産管理などからの発展である。この2つは一般的に認識されているが、意外と認識されていないもう一つの系譜があるのではないかと思う。それは(組織)マネジメントからの発展である。成果物が複雑になればなるほど、エンジニアリング的な扱い方が難しくなり、マネジアルアプローチの方が有効になってくる。

これらは視点の違いであり、どの道から上ろうと頂上は同じであるといいたいところであるが、そうはいえない部分がある。価値観の違いはずっと残るように感じている。そこで、どの立場をとるかという話になるのだが、著者はマネジアルアプローチがもっとも効果的だと思っている。そして、マネジアルアプローチからはPMOの強化というのがまず考えられる。

◆PMBOKよりPMO

その意味で、著者はプロジェクトマネジメントを強化したいのであれば、PMBOKのようなプロセスの導入ではなく、まず、PMOを強化すべきだと思っている。その意味で、このハンドブックは非常に貴重な本だと思う。

ただ、このハンドブックは機能について述べたものであるが、これだけでPMOが語れるかという議論がありそうだ。プロジェクトマネジメントでも、知識と行動のギャップというのがあるように、PMOの活動にも知識と行動のギャップがある。

◆PMOの本質

このギャップを埋めるものは

 リーダーシップと支援スキル

であると思われる。これが、PMOの本質ではないかと思う。このような本質を持って、初めて標準化の活動や、監査活動が意味を持ってくる。

PMOのリーダーシップは、プロジェクトマネジメントに対するルールや価値観を組織に導入し、それを学習し、組織における「基本的仮定」になるように昇華させていく源泉になるものである。

もう一つは支援スキルである。組織にプロジェクトマネジメントを定着させ、それを発展させていくためには、必ず、支援が必要になる。支援は指導ではない。

指導はプロジェクトマネジャーやプロジェクトチームの意思決定そのものに対して介入し、その意思決定を正していく行動である。

これに対して支援は、プロジェクトマネジャー、あるいはプロジェクトチームのプロセスに介入し、プロセスを正しい方向に導くことによってプロジェクトマネジメントやプロジェクトをよい方向に導いていくのが支援である。プロセスコンサルテーション、あるいは、今流にいえば、ファシリテーションのスキルである。

この2つの要素を兼ね備えないとPMOはプロジェクトからあまり意識されないお目付け役になる。あるいは上位組織の傀儡のような存在になってしまう。それではその組織のプロジェクトマネジメントは進歩しないだろう。

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好川哲人

技術経営のコンサルタントとして、数々の新規事業開発や商品開発プロジェクトを支援、イノベーティブリーダーのトレーニングを手掛ける。「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトにしたサービスブランド「PMstyle」を立上げ、「本質を学ぶ」を売りにしたトレーニングの提供をしている。