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2014年6月10日 (火)

【プロデューサーの本棚】真のチームを探求する本~マッキンゼーの系譜

◆日本人のチーム観とは

日本ではイノベーションが必要だと言われながら、なかなかできずにいる。その原因を組織マネジメントに求めたり、創造性に求めたりしますが、意外と語られていない原因がチームである。

日本人はチームワークが得意だと思っている人が多いと思う。例えば、自動車のように複雑な製品を摺合せで作っていく能力を見ると、チームワークは日本人の強みのようも思える。

しかし、欧米人から見たときの評価は決してそうではない。たとえば、齋藤ウィリアム浩幸氏は2012年に

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齋藤ウィリアム浩幸氏「ザ・チーム (日本の一番大きな問題を解く) 」日経BP社(2012)

という本で、日本のもっとも大きな問題はチームがないことで、チームがないために製品はできても、システムはできないとまで言っている。

なぜ、こんなに認識のギャップがあるのか?

そのヒントがマッキンゼーで12年間採用マネジャーを務めた伊賀泰代氏の「採用基準」(ダイヤモンド社)の中の指摘に見ることができる。

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伊賀 泰代「採用基準」、ダイヤモンド社(2012)

この本はマッキンゼーの人材評価の方法を書いた本だが、伊賀氏は日本の考えるチームは一人のリーダーがいて全責任を取るグループだといい、欧米の考えるチームはメンバー全員がリーダーシップを発揮するグループだと言う。

さらに、日本ではチームの成果はリーダーの優秀さで決まると考えるが、欧米ではメンバーのリーダーシップの総和によって決まると考える。

この指摘から分かるように日本人が考えるとチームと欧米人が考えるチームのイメージは似て非なるものであり、欧米人は日本的なチームをチームだとは認めていないところにギャップの原因があるといえる。

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では、欧米のチームとはどういうものなのか?その原点ともいえるのが本が1993年に出版されたこの本だ。

ジョン・カッツェンバック、ダグラス・スミス(吉良 直人、横山 禎徳訳)「「高業績チーム」の知恵―企業を革新する自己実現型組織」、ダイヤモンド社(1994)



◆高業績チームでは誰がリーダーかは分かりにくい

この本の発刊当時、日本ではチームの本は数えるほどしかなかったが、欧米ではすでにチームの本は数えられないくらいあった。

その中でチームの本を作ることになったマッキンゼーのパートナーだったジョン・カッツェンバック氏とダクラス・スミス氏は、どのようにチームを作るかというハウツーものではなくて、変革や業績向上に取り組んできた人たちが実際の経験からチームについてどういった考え方を持っているかを調査し、まとめることにした。そしてできたのがこの本だ。

この調査を通じて、当時でも常識的な発見と、当時では意外な発見があったという。前者は

(1)達成目標の高さがチーム形成につながる
(2)チームの基本原則を規律正しく実行することがたいていの場合見過ごされている
(3)組織のどこにでもチームによる業績改善のポテンシャルが存在する
(4)経営陣によるチームが最も難しい
(5)たいていの組織では、責任の所在をチームより個人に置きたがるという本質的傾向がある

といったものだった。

一方で意外な発見には、高業績チームでは、チームリーダーはそれほど重要ではなく、どのメンバーも異なる局面でリーダーの役割を務めるため、誰がリーダーかわかりにくいことが多いということだった。

まさにこれはマッキンゼーの後輩である伊賀さんの指摘していることであり、おそらくマッキンゼーのチームのイメージであり、いまでは欧米の常識になっていることなのだと思う。

この本では調査から、変革をうまく進めたり、業績を良くする上でのチームの効用を以下の4つにまとめている。

・構成メンバーを超えるスキルや経験を集め、統合できる
・明確な目標やアプローチを共に考え作っていくうちに、同時進行での問題解決や、先手をとる打ち手の実施に有効なコミュニケーションを確立できる
・仕事の持つ経済性、管理的側面での改善をもたらすユニークな方法を提供してくれる
・チームは楽しい


◆真のチームとその条件

このような効用により、変革や業績向上をもたらすチームをカッツェンバック氏たちは「真のチーム」と呼び、

共通の目的、達成目標、アプローチに合意しその達成を誓い、互いに責任を分担する補完的なスキルを持つ少人数の人たち

と定義している。そして、真のチームになるための6つの条件を明らかにしている。

条件1:十分に少人数
条件2:メンバーが互いに補完的なスキルを持つ
条件3:真に意義のある目的を持つ
条件4:具体的な目標を持つ
条件5:問題解決のアプローチを共有する
条件6:メンバーが相互の責任を持つ

このように指摘されると、齋藤氏のチームがないと指摘の意味がよく分かる。確かに日本ではこのようなチームを満たすチームはほとんどないのではないかと思えるからだ。

伊賀氏と同様マッキンゼーのOBで

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瀧本哲史「君に友だちはいらない」、講談社(2013)

というチームの本を出版された瀧本哲史氏は、この本で日本に「ありがちのチーム」は以下のような特徴があるとしている。

・年次、経験、職位、バランスで選ばれた数多くの正式メンバー
・メンバーは固定的なスキルを持つ
・定型的で平凡な課題と達成目標
・目標へのコミットメントはやったふり、仕事をしたつもり
・問題解決ごっこ
・集団責任は無責任

ここで、コミットメントというキーワードが出てくる。カッツェンバック氏たちは、チームが実現できる業績に応じてチームのレベルをいくつかに分類しており、トップにあるのが本書のタイトルになっている「高業績チーム」で、上に条件を示した真のチームはその下に位置するものだ。

そして、高業績チームと真のチームの違いはコミットメントにあり、高業績チームには、「それぞれのメンバーが個人として、プロフェッショナルとして他のメンバーの目標達成を心から手伝おうとする」コミットメントがあるとしている。


◆真のチームがイノベーションを生む

カッツェンバック氏たちのチームのレベルの一番下にあるのが、ワーキンググループという概念である。これは著しい業績向上のニーズのないグループで、メンバーの交流は、情報やベストプラクティスの交換、視点を共有し個人が自分の責任範囲で目標達成することを支援するような意思決定のために行われるとしている。日本語でいえば委員会のようなものだ。

実は日本人が得意とする摺合せを中心としたチームのスタイルはこれだ。お互いに自分の責任範囲を持ち、それをやり遂げるために必要なコミュニケーションとして摺合せをする。

齋藤氏のシステムができないという指摘もこれだ。たとえば、iPhoneと国産スマートフォンではパフォーマンスが違うが、これは作り方の違いだと指摘している。サクサクと動くスマートフォンを作ろうと思えば、チームで一から全体をシステムとして作りこんでいく必要があるというわけだ。

少し話が脱線するが、プロジェクトを行うときには、WBS(ワークブレークダウンストラクチャー)というツールを使って、作業を分析し、分担します。問題はこの後で、多くのプロジェクトはワーキンググループになっている。これでは高い成果は得られません。責任範囲を決めた上で、真のチームとしての活動をすることが求めらる。

さて、冒頭に述べたように日本でイノベーションが起こらない理由としてチームの問題があると述べた。そう考える理由は2つある。

一つは、この本でも示されているように、真のチームには高い達成目標を与えるとチーム力が向上し、目標を達成をするという好循環が生まれることだ。チームがないために、高い達成を目標を与えるとできず、結果として目標はワーキンググループでできそうなものになってしまう。これはイノベーションは望むべくもない。

もう一つは多様性の問題だ。組み合わせが基本であるイノベーションの一つのポイントが多様性だというのは共通認識になりつつある。しかし、日本人の考える多様なチームというのは、伊賀さんのいうようにリーダーが一人いて、その下にいろいろな分野の専門家がいて、リーダーが全体をまとめるようなイメージだ。

しかし、多様性を実現しようと思えば、一人一人の専門家が自分の専門分野ではリーダーシップをとってチームに貢献しなくてはならない。受け身では多様性は実現できないのだ。この点でもチームができないことがイノベーションの阻害要因になっていると考えられる。

この2つの点を乗り越えて、イノベーションを実現するためのイメージを持ってもらうのにこの本に紹介されている数多くの事例は役に立つだろう。

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