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2014年3月31日 (月)

【プロデューサーの本棚】シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀

4833420805アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック(市川文子、田村大、東方雅美訳)「シリアル・イノベーター 「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀」、プレジデント社 (2014/3/29)

いわゆる大企業でどのようにブレークスルーイノベーションを起こすにはどうすればよいかを、調査の結果に基づき考察した一冊。その結果、大企業でブレークスルーイノベーションを起こしている人はほとんど、一発屋ではなく、連続的にいくつかのイノベーションを起こしており、本書はそのような人材を「シリアル・イノベーター」と呼び、そのやり方、パーソナリティ、態度などを明確にするとともに、組織文化やタレントマネジメントについても言及している。

「うちにはイノベーションの文化がない」、「目先の収益優先でイノベーションなどできない」、「上司がアホなので動けない」など、現実のさまざまな壁にぶち当たり、イノベーションをあきらめそうなあなたに、あきらめる前に一読してほしい本。かなり、丁寧な調査に基づいているので、勇気が湧いているのではないかと思う。


この本を通じて、使われている事例がP&Gのナプキンの革命と言われた「オールウェイズ・ウルトラ」を開発で、開発者であるトム・オズボーンというポスドクの研究者はシリアル・イノベーターのロールモデルとして紹介されている。

ト ムが生理用品の開発部門に異動になったときにはその最初のモデルである「オールウェイズ」の開発がほぼ終わり、消費者テストもよい結果が得られていた。と ころが表面シートと内部の吸収体を接合する接着剤に不具合が見つかった。このままでは発売予定に間に合わない。そこで、トムは専門外にもかかわらず、いく つかの難題をクリアし、予定通りの発売に貢献した。

この経験を通じて、トムはナプキン開発が「液体をとらえる道具」という工学的アプロー チからのみ行われていることに気づく。そこで、生物学的、人間工学的アプローチを入れようと思い立つ。そして、女性がナプキンに漏れ防止以上のものを求め ていることを突き止め、マネジャーから基礎研究の了解を得て、薄く、やわらかいナプキンを開発しようとする。

しかし、その商品はすでに成 功を収めていた現行の考え方に基づく商品を否定するものであり、政治的な理由からストップがかかる。しかし、トムは研究を続け、マネジャーから規律を乱す ものとして解雇されそうになる。解雇までの猶予期間を使って、試作テストに踏み切り、80%が新しいナプキンを選ぶというよい結果を得る。

そこでトムは自分の人脈を使って働きかけをし、まずは、海外での発売に成功する。それによって、徐々に薄くて装着感に優れたコンセプトに徐々に流れが向いていく。そして、力のある経営者2名が支持したことで一挙に普及し、年間数十億ドルを稼ぐ商品に成長していく。

米 国のイノベーションというと社内が理解し、サポートする中で生まれているようなイメージがあるが、それはスタートアップ企業の話であり、「オールウェイ ズ・ウルトラ」の例からわかるように、P&Gのようにイノベーティブだといわれている企業においても目先の業績が優先され、また、現行モデルの壁がある。 これが大企業のイノベーションの現実である。

ブレークスルーになるようなイノベーションを実現するにはこの現実を乗り越えていく必要がある。それができるのが、本書でいう「シリアル・イノベーター」である。

本書では、MP5モデルと呼ぶシリアル・イノベーターのモデルを提唱している。個人的な資質として

・パーソナリティ
・パースペクティブ
・モチベーション
・プレパレーション(構え)

の4つ。加えて、

・プロセス
・ポリティクス(社内政治)

の2つ。併せてMP5だ。

シリアル・イノベーターのプロセスは、砂時計モデルと呼ばれるもので、技術評価と開発以前と以後に分けたモデルである。前のところは、

・適切な課題の発見
・課題の把握

の2つの行き来であり、課題理解は、技術的観点、顧客視点、市場機会、競合のポジションの4つの視点から行われる。ここではイノベーション創造に対するモチベーションが大きく影響する。

後は

・遂行
・市場での普及の促進

の2つでプロトタイピングと改良を中心に行われる。

このプロセスを実行するのにシリアル・イノベーターに求められるパーソナリティは、前半は課題の発見と理解に役立つ特性で

・生まれつきの好奇心
・経験に基づく直感的思考
・多くのアイデアを生み出す創造力
・分散した情報を統合するシステム思考

などを上げている。後半では、プロジェクトの遂行に役立つ特性として

・自分で考え、自分で学び、全体を見通す自立心
・自分のアイデアやプロジェクトに対する自信
・リスクの選択能力
・結果がでるまであきらめない忍耐力

などがある。

パースペクティブには

・顧客を最優先し、技術は彼らのニーズを満たすための手段である
・企業は利益を上げるために存在しているが、同時に顧客や仲間を含めた大義にも注目する
・周囲の人々を観察し、聡明で有能な、物事を成し遂げたいと考えている人々とのつながりを持とうする

などが必要だという。さらに、モチベーションとしては

・困難な課題と発見を喜びにできる

といったことが必要だという。

冒頭に述べたように、この本はイノベーションの在り方に対するイメージを大きく変える。シリアルイノベーターは、選ばれし技術者であり、研究開発から顧客への定着まですべてのフェーズにかかわる。

技術者として成果を上げたもののうちの一部がシリアルイノベーターとして活躍できる。シリアルイノベーターを目指したい人はぜ、読んでみてほしい。

また、本書ではその見分け方やタレントマネジメントについても言及している。シリアル・イノベーターを見つけ出し、活躍させたいと思っているマネジャーの方にもぜひ読んでみてほしい。

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